遥か　１

ここ数年、俺の年末のルーティンは決まっている

クリスマスで盛り上がるＮＹを離れ
東京へと降り立つとその足で日本支社での仕事を片付け
２８日の早朝、自らの運転で牧野の元へと向かい
夜には東京へと戻りそのまままたＮＹへと旅立つ

日本へと戻ってきても誰かと会う事はない

あきらはイギリス
類はフランス
総二郎だけはずっと日本にいるが
年末のこの時期に身体が空く事はなく
この２０年
４人が揃う事はなかった


この２０年、俺の日常は変わり映えしない毎日の繰り返し

朝起きてオフィスへと向かい仕事をし
たまにパーティーや会食に出席し
出張で世界中を飛び回ることがあったとしても
仕事をしてほんの少し眠るためだけに
部屋へと帰りまた朝が来ての繰り返しだけ

今はもう引退し日本で暮らしているお袋も
あの事件以降は何も言ってはこないし
同じ屋敷に居てもほとんど顔を合わせる事のない


孤独だと言われればそうなのだろうけれど
不思議と寂しいと思ったことはない

そして今日もそんな変わり映えしない
いつもの毎日だった

１２月２７日

朝から降っていた雨は日暮れと共に雪に変わり
街行く人々が足元に気を取られながら歩く中
日本支社の前でリムジンに乗り込んだ

ゆっくりと走り出したリムジンの窓にぶつかる雪を眺めていて
ビルの向かい側

反対車線の歩道に立つ少女に気が付いた


雪が降る中

傘もささず

少し寒そうに首に巻いたマフラーを口元まで上げ

まっすぐにこちらを見て立つ少女

癖の無いまっすぐな黒髪に黒目勝ちな大きな瞳で
道路脇の植え込みの向こうから
走るリムジンを追いかけるように動く目線


一瞬だけ目が合った瞬間

身体に電流が流れたような感覚に陥り
慌ててリムジンを停め無意識の内に
自らドアを開け車が行き交う車道を少女の元へと駆け抜けていた


植え込みを一跨ぎで少女の前に立った俺

２０センチ下にある少女の顔

視線が絡み合い確信した

見間違いでも幻でもなく

あいつだと・・・

牧野が戻ってきたんだと・・



「・・遅ぇーよ・・まき・の・・」

そう言った俺に目の前の少女は少し微笑むと
一本前へと踏み出しゆっくりと抱きついてきた


腰元に感じる腕の感触にあの頃の光景が
フラッシュバックのように脳内を駆け巡り
無意識の内に少女を胸に掻き抱いていた


俺の腕の中にすっぽりと納まるその小さな身体は
あの頃のままで・・・


胸に去来するのはあの頃の滾るような熱い想い

「遅くなってごめんね。
大丈夫だから、泣かないで」

あの時と同じ言葉を吐いた少女

「泣いて・・ねぇよ・・」


「クスッ、号泣じゃん。
そんなにあたしに会いたかったの？」


「あぁ、会いたかった・・
会いたくて・・会いたくて・・死にそうだった・・
お前は？」

「あたしも同じだよ。
あんたに会いたくて・・
早く大人になりたかった」


「そうか・・」


「でもねそろそろ離れないと
すっごい注目浴びてるよ」

確かに街中でいい歳したおっさんが
自分の会社の前で泣きながら少女を抱きしめているなんて
注目されねぇわけねぇわな・・

俺は気にしねぇけど
大胆に街中で抱きついてきたのはこいつの方なのに
注目されるのは気になるみたいだ


「だな。
お前はどこに行きたい？」


「何処へでも。
あんたと一緒なら地獄の底だってかまわない」


「そうか。
じゃあとりあえずメープルに行くぞ！」


「うん」


全ての指を絡めしっかりと手を繋ぎ
リムジンへと乗り込んだ俺達

約束の時間がやっと動き出した







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