修羅場ってる？ ２

やるべき事は分かっている

だけどやるべき事が多過ぎて
優先順位をつけあぐねていた


ぼんやりと窓の外を眺めながら
昔の事を思い出していた

１３年前、滋さんちの島から帰って待っていた未来は
高校生だった私には過酷過ぎた

港で暴漢に刺され重傷を負った道明寺は
私の存在だけを封印したまま高等部の卒業式を待たずＮＹへと旅立ってしまって
そこで私達の縁は切れたはずだった

なのに…入れ代わるように現れた彼のお母さんによって
１７歳の私は再び嵐の中に巻き込まれていく

彼女が示した未来は

英徳での残り一年を道明寺家で過ごし卒業後はＬＡの椿お姉さんの元で大学に通い
優秀な成績で卒業する事

卒業までに英語は勿論だけどその他にフランス語にドイツ語、スペイン語に中国語を
最低限、日常会話が出来るまでに習得しその他、ビジネスに必要な資格を習得する事

それが出来た暁には彼女の元で秘書として働く事を保証すると言う内容だった

それに加え私が彼女の元にいる間は
私の家族の仕事と生活は保証すると言う物だった

冗談じゃないと思った

いくら貧乏だからといっても
何の関係もない赤の他人に
施しを受けるような筋合いは無い！

そう思った…


だけど、現実に私には選べる程の選択肢は残っていなかった


未だ収入が安定しない両親にやっと高校生になったばかりの弟

家族力を合わせ働いた所でいつも先の見えない不安がつきまとう

それに私は自分の人生を諦めるわけにはいかなかった

弟の未来も…

家族の未来を…


何一つ諦めるわけにはいかなかった


こうして私の未来が幕を開けた


ＬＡの大学を卒業後、出されていた条件をクリアした私は
ＮＹへと移り道明寺楓の第二秘書として
新たな人生をスタートさせた

その間、道明寺は大学をスキップして３年で卒業し
大学院でMBAを取得、在学中から始めていた仕事を本格的に概してした

彼の評判は…

ビジネスでは優秀

完璧な外見に加え国家予算レベルの財力

若く攻撃的なビジネススタイル

的確なビジネスセンスで誰もが認めるカリスマ性で注目を集めていた

だけど、私生活に関しての評判はそれとは真逆

群がる女性達に対する彼の態度は
かなり冷酷だった

って…これはかなり控え目な表現で

実際は冷酷非情の鬼畜野郎


彼は女性に対しても暴力を振るう事があった
直接的な暴力行為に言葉や態度での相手を傷つける行為の数々

まぁ、それでも後々面倒臭くなるようなどこそこの令嬢なんかは避けていたみたいだったけど

尻拭いに後始末なんてのは日常茶飯事で
当然、楓社長の第二秘書なんてやったいた私もその後始末をしていた一人

当然、政略結婚の話も出ていたが
その相手に対しても道明寺の態度は一貫して冷酷非道だったから
その悪評に持ち込まれる縁談話は尻すぼみ状態


そんな事が３年ほど続いていたある日
私は楓社長が放った言葉に仰け反る事となる

彼女は私に道明寺との結婚を持ちかけてきた

降ってわいたような結婚話

私があの鬼畜と結婚？

私は生け贄？

それとも人身御供？

人知れず激しく動揺する私に

『牧野、貴方の身の安全は保証するわ。だから、お願い、もう貴方しかいないのよ。』

鉄の女と呼ばれている彼女が
初めて私に見せた苦悩

『業務命令だと思ってお受けします。』

と答えた私にホッとしたような表情を一瞬だけ浮かべた楓社長


その後は、多少はごねるだろうと思っていた道明寺も
意外にアッサリとこの結婚話を受け入れ

話はトントン拍子に進み晴れて夫婦となった私と道明寺


その後、どうなったかって？


鬼畜は一朝一夕には治らないって事


形だけの豪華な披露宴を終えた後は影も形も見当たらない結婚生活

新居にと用意された超高級アパートメントでのシングルライフ

それでもなんとか彼と接点を持とうと
電話をしたりメールを送ってみたり
私なりに努力はしてみたんだけど
彼はそんな私の細やかな努力を完全にスルーし
鬼畜街道を邁進していた

結局、２年間の結婚生活で彼と共に過ごしたのは
どうしても夫婦同伴で外せない数回のパーティーのみ

連絡は人型アンドロイドさんからの業務連絡のみって有り様


なんとなくこんな時間がこれからも続くのかなぁ？なんて漠然と考えていた

当時、秘書の仕事はしておらず暇をもて余していた私は
そろそろまた秘書に復帰しようかなぁなんて思っていた
結婚生活２年目

彼の顧問弁護士から完璧に整えられた離婚協議書が届けられた

何故？このタイミングで？

その理由が気になり調べてみると

答えは簡単だった

当時、彼と付き合いのあった女性の一人が彼の子供を妊娠したと
周囲に触れ回っていた

彼女の妊娠は真っ赤なウソ

調べればすぐに分かる子供じみた嘘に

嘘だと知りつつ乗っかり私と別れる理由としていた

楓社長の秘書をしていた私にそんな嘘が通用すると本気で思っていたのだろうか？

それとも…そんな嘘に便乗してまでも離婚を望んでいるという
彼の意思表示なのだろうか？


彼の真意を知る術はなかったけれど
この時、私の中に微かに残っていた
彼に対する心の欠片が見事に砕け散り霧散した

簡単に言うとあ～スッキリした！って感じ


今でも私の心にあるのは離婚に応じます。と伝えた時の楓社長の言葉


『分かりました。牧野？長い間貴方には苦労を掛けました。これからは好きに生きなさい。』

だった


こうして私は日本に戻り

道明寺から貰った十分過ぎるぐらいの慰謝料で
西門総二郎の愛人なんてのをやりながら
悠々自適の成金セレブ生活を送っている

表向きはそうなっている

現実は違う

私と道明寺の離婚はまだ成立していないし
楓社長の元から去った訳じゃない

仕事の都合上、無関係を装っているだけ

表向きは道明寺とは離婚した事になっているから
道明寺とは無関係な人間のはずなんだけど
私が楓社長から離れられなかった

彼に対しての気持ちは赤の他人以下にランクダウンしていたけれど
楓社長に対しては彼女の元で過ごした年月の中で彼女が抱えている物の大きさだとか
その重責だとか…
命を削るような生き方を間近で見てきて
私は彼女が抱えている荷物を少しだけでも肩代わり出来ればと思った

彼女に対する恩返しって事じゃなくて
もっと単純、私は彼女に惚れている



だから、完全なる裏方に徹する為に日本に戻りすぐ信用調査会社を立ち上げた

表向きはこの会社は私とも道明寺とも無関係


社長をしているのもその世界では有名な裏方の人間

表向きは企業の業績を調査したり優秀な人材の発掘調査等々
至って普通の面白味の無い業務内容

だけど本当の業績は道明寺の取引先や敵対企業に対する
表には出て来ないディープな調査

そして道明寺内部の不穏分子の炙り出し

汚職や不祥事

なければ作ってしまうのが仕事


道明寺にとって脅威となりうる存在の排除

今では道明寺の事を鬼畜だなんて呼べないくらいダークな私


意地っ張りでお人好しが代名詞だった私だけど
とりあえず今はこんな自分も嫌いじゃない

そんな私がどうして西門さんの愛人(仮)なんてやっているかって？

不思議でしょ？

私だって不思議だもの

事の始まりは約２年前












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