修羅場ってる？-ＮＹ編- 5

逃げられるわけなんてないのよ


分かってるんだけど


それでも思わず逃げ出したくなるぐらい


って分かる？


分かるわよね？


それでなくてもすっごい形相で突進してきてたのに
美作さんが私にキスした瞬間、ピタリと一瞬だけ足を止め固まったかと思ったら
次の瞬間にはもう私の目の前にまで迫っていて


なに？


どうしたの？


ワープでもした？


って感じ


なんかね


有り得ないって思うんだけど
このまま頭からバリバリと食べられそうな形相で
私を睨みつけてるんだけどね

それさえも今までなかったことだから


久々のこの感じもいいなぁ～なんて
思えちゃう私ってかなりじゃない？

なんて呑気に考えてる場合じゃなかった！


逃げるのを諦めて椅子に座り直した私に覆い被さるように目の前に立ち
すっごい形相で私を見下ろしている彼に声を掛けてみる


「Ｈｉ！」

なるべくね

軽い感じで

笑顔でね

大したことじゃないのよ

って感じで

声を掛けてみたんだけどね

結果は？

分かるわよね？


「この浮気女！総二郎の次はあきらかよ？！
許さねぇーからな！お前もあきらも！ぶっ殺してやる！」

わ、わたし

ぶっ殺されるの？

そ、それは勘弁して欲しいなぁ～

ん？

あきらって？

あれが美作さんだって気が付いてるの？

へぇ～

なかなかの観察眼じゃん！

でも浮気女はないわよね？！


「あれが美作さんだって気が付いたのは凄いけど
浮気なんてしてないし！あんたと一緒にしないでよね！
それに浮気したぐらいでいちいち殺されてたら
私はあんたを何万回も殺してなきゃいけなくなるじゃない！」


「何万回も浮気してねぇーし
俺は全部遊びだしダチに手は出してねぇ！」


なに？

私はマカオで早朝に浮気の言い訳されてるの？

それとも浮気してることにされてるの？

どっちも私にはどうでもいい事なんだけど


「それって浮気の言い訳になってないから」


「俺は別に言い訳なんてしてねぇ！今までの事は不可抗力だし、反省だってしてるし
この先はお前を裏切るような事はぜってぇしねぇーって誓っただろーが！
それなのにお前はこそこそとこんな所まで来てあきらなんかとイチャつきやがって！」

ん～開き直って逆ギレされてるって感じ？

でもこれが彼の本心なんだと思う

私にしても過去は変えられないし

責める気もないんだけどね‥


なんでもすぐに浮気だって言われると流石にムカつくし
意地悪もしたくなっちゃうのよね


「ここを突き止めたって事は褒めてあげるけど
確か私達が結婚する時にあんたが出してきた
結婚契約書にはお互いのプライベートには立ち入らない事って項目があって
私もあんたもサインしてるわよね？」

ご多分に漏れず私達にもあったりするのよね

結婚生活を円滑に進める為のお互い譲れない事柄を記した契約書が‥

まぁ、私達の場合はこいつが一方的に突きつけてきただけだから
内容はこいつに有利な事柄ばっかりだったけれど

その中の一項目で互いのプライベートは詮索しないってのがあって
私達は互いにそれにサインしていた


でもね

今になって考えるとこいつってば

離婚のきっかけを得る為に私の行動を調べてたりとか
隠し撮りしてたりだとか
色々してくれてたわよね？

あ～思い出したらなんだかやっぱりムカつくんですけど！

なのにね

目の前の男はシレッとした顔で

「そんなもん無効だ！
あの頃の俺はお前をわすれて心神耗弱状態だったんだ！
だからあの頃にお前と交わした契約書なんて全部無効なんだよ！」

しんしんこうじゃく

なんて言葉を知ってたのと
噛まずに言えた事は褒めてあげるけど

「じゃあ、婚姻届も無効って事よね？」

「それは無効じゃねぇ！」

別にね彼を言いくるめたいとか考えてるわけじゃないのよ
これはほんのちょっとした復讐心と
嫉妬心の現れなの

ほら！昔から言うでしょ？

可愛さ余って憎さ百倍

とかって

あんな感じなの

10年間、誰が相手でも満たされず
常に波立って落ち着かなかった心と体が
やっと今、満たされるようになって
私の中に生まれた余裕みたいな物が
凪の海を漂っているの




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