永遠じゃない‥ 3

仕方なく機体の方へと歩いて行くと
機体のドアが開いて中から滋さんと桜子が顔を出した

「つくし～！」

「先輩～！」

「ふ、二人ともどうしたの？」

「いいから！とにかく早く乗って！
離陸するよ～！」

「へっ？！あっ‥うん」

訳の分からないままに離陸した機体

どこに向かっているのかも教えてもらえないまま

でも

滋さんと桜子がどうしてお義母様のプライベートジェットに乗っているのか
その理由は教えてくれた

「夕べ、いきなり司のお母さんから電話が掛かってきてビビった！」

「えぇ、何事かと驚きましたわ。」

「お母さんね、世界中にあるメープルと道明寺の別荘を好きに使っていいって。
それからこのプライベートジェットも！」

「それって‥」

「うん、離婚したつくしが落ち着くまで
私達に一緒に居て欲しいって事なんだと思うよ。」

「えぇ、それに期間は区切らなくていいと仰っていてましたわ。」

「お、お義母様がそんな事を‥？」

「そう！びっくりしたけど３人で世界旅行なんて楽しそうでしょ！」

私は驚き過ぎていて上手く声が出せず
ただなんども頷いていただけで

涙が溢れ出てきて止められなくて

そんな私の背中を二人が優しくさすってくれていて

その手の暖かさにまた涙が止まらなくて‥

「先輩は道明寺さんのお母様にちゃんと認められていたんですよ。
良かったですね。」

桜子の言葉に益々、涙が止まらなくて
張り詰めていた神経が少しだけ解れてやっと泣く事が出来た

飛行機の中で泣いて泣いて
私の涙につられて滋さんも桜子も泣いて

お化粧はすっかり剥がれ落ち
鼻頭は真っ赤になり
瞼もあり得ないくらい腫れ上がってて

メイクじゃ隠しきれない泣きはらした顔のまま
誰に気兼ねする事なく香港の夜を楽しんだ

不思議な気分だった

楽しんじゃってる私がいるの

離婚したばかりでまだこんなにも彼が恋しいのに
お義母様に言われた言葉や
側に滋さんや桜子が居てくれるお蔭で

一人じゃないんだって思えて

一人で頑張らなくていいんだって思えて

霧が晴れるようにスーっと視界が開けてきて
美味しい料理と綺麗な夜景を楽しんじゃってる私がいるの

香港で美味しい中華料理を食べ尽くして
次に向かったのはトルコ

桜子曰く

トルコって親日家の人が多くて
男性がイケメンでセクシーで日本人の女性はモテる‥

らしいんだけど‥

流石にまだそこまで開放的にはなれなくて
尻込みしている私に桜子が

「先輩！何もここで新しい恋人を見つけろなんて言ってません。
男といえば道明寺さんしか知らない先輩にはハードルが高いかもしれませんが
寝ろって言ってるわけじゃありませんから！楽しめばいいんです！
深く考えずにその場の雰囲気や会話を楽しめばいいんですよ。」

だって‥

楽しめるかしら？

なんて思いながらも

「つくし！今は誰に気兼ねする必要もないんだよ！
世界は広いの！男だってそう！
私達ってさ、一人でも生きていけるじゃん？
でも長い人生やっぱり一人じゃ寂しいじゃん！」

なんて滋さんの言葉に妙に納得したり

トルコの後はモルディブの海に癒されて

アフリカ大陸のサバンナでキリンの向こうに沈む夕陽に感動して

ノルウェーでオーロラに感動して

アイスランドの間欠泉に歓声を上げて

ドイツではソーセージとビールを堪能して

スイスではアルプスの山々に圧倒されて

気づけば季節が二つ過ぎていた

最初の頃は、各地を転々としながらも
もしかしたら彼の記憶が戻ったと連絡があるんじゃないかと
一日に何度も携帯をチェックしていたけれど

自然と２ヶ月を過ぎた辺りから気にしなくてなっていた

だから半年にも及ぶ傷心旅行から日本に戻ってすぐにした事は
携帯の解約だった

今までの携帯を解約して番号を新しく取り直し
その足でＮＹへと旅立った

ＮＹで正式にお義母様と養子縁組を交わし
そのままＮＹで弁護士資格を取得する為の学校に通い

しばらくＮＹで実践経験を積み２年前に帰国していた

養子縁組以降、親子となったお母様から
取り立てて指示は受けていない

住む場所に関しても働く場所にしても
一応、相談はしているけれどお母様から返ってくる答えはいつも同じで

“あなたの好きになさい。”

だけ

彼の記憶は相変わらず

時々、耳にする噂にも動揺しなくなってきた

彼の事を忘れたわけじゃないし
嫌いになったわけでもない

ただ少しだけ彼のいない日常に慣れてきただけなのかもしれないけれど

色々あったけど離婚して５年

結構、充実した楽しい毎日を過ごしている





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