永遠じゃない‥ 5

時計代わりにつけていたテレビが朝７時半を指している

カップに少しだけ残っていたコーヒーを飲み干し
コートとバッグを手に部屋を出て迎えの車に乗り込んだ

現在、私は桜子が立ち上げた美容関連の会社で役員兼顧問弁護士をしている

そして何故かＦ３と滋さん、桜子の個人的な顧問弁護士もしている

それぞれが懇意にしている弁護士さんがいるから
私なんて必要ないはずなのに
家や会社に関係なく誰にも言えない本当に個人的な依頼を引き受けてくれる弁護士が必要なんだ！とか
色々と理由をつけて私と顧問弁護士契約を結んでいる

毎月、彼等から決まった額の顧問弁護料が支払われているけれど
今まで問題を持ち込まれた事はない

これは司と離婚し彼の妹となった私に対する彼等の気遣いだと思っている

お母様と養子縁組をし住んでいるマンションも運転手付きの高級車も全て道明寺家の物だし
桜子の会社からお給料だってもらっているから

生活には困っていない
寧ろ恵まれていると思っている

ずっと彼等が側に居てくれたお蔭で
私はこうして前を向いて歩いて行けていると思っている

まぁ、時々

類から突拍子もない理由で海外に呼び出される事もあったりするけれど‥

去年の夏

イタリアにいた彼から突然、
“今すぐ来て。”と連絡があり
詳しい理由を教えてもらえないまま
でも慌てて彼が滞在していたトスカーナの別荘に駆け付けると

“俺、休暇中なんだけど一人で退屈だったからさ
牧野が一緒だと飽きないかなと思って呼んだんだ。”

なんてあの笑顔で言われて脱力

結局、２週間

彼の休暇に付き合った

休暇と言っても特別何かをしていたわけじゃなくて
彼にとっての日常
お昼寝して散歩してただけ
何もしない彼の優しさを感じた２週間だった

車窓を流れる東京の街並みは日々変化していて
街行く人々は忙しそうにそれぞれの目的地へと歩を進めている

そんな光景をぼんやりと眺めていると
脇に置いていたバッグの中の携帯が鳴った

着信相手のお母様から
前置き無しに告げられた言葉に
瞬時に返す言葉が見つからず
黙ったままの私を気にする事なく続けられた言葉

『司の記憶が戻りました。
まだ混乱しているようですが
あなたが妹だという事は伝えておいたわ。
その内、現れるかもしれないけれど
どう対処するかはあなたにお任せするわ。』

って‥

えっ？！

な、なに？

どういうこと？

記憶が戻ったって言ってたわよね？

その内？

その内って何時？

朝から動揺しまくりの私は仕事中も落ち着かずミスを連発
流石に何かあったと気付いた桜子に
強引に連れ出されたランチの席で
今朝のお母様からの電話の内容を話した

「で、どうするんですか？」

「ど、どうするって言われても‥ねぇ？」

「ねぇ？じゃありませんよ。
先輩はどうしたいんですか？」

「どうしたいって言われても‥ねぇ‥？
分かんない‥し‥まだ会ってないから
彼がどうするつもりなのかも分からないし‥」

「心配しなくても道明寺さんの答えは一つしかないと思いますから
後は先輩がどうするかってだけですよ。きっと」

どうするかって言われても‥

ねぇ‥

もう５年も経っていて

私は私で新しい一歩を踏み出している

今さらってわけじゃないんだけど

今の今まで私は自分が彼の事をどう思っているのか分からない

ただ一つ確実な事は‥

私の中にはあの頃のような熱はない‥






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