Bunker 9

亜門が俺の影武者を始めたのは渡米してからで
影武者を立てるのはＦＢＩの提案だった

俺に瓜二つな亜門を俺に仕立て
大学には主に奴が通い俺は屋敷で家庭教師に講義を受けていた

大学を卒業後も俺はほとんど公の場に出る事は無く
仕事もほとんど屋敷で済ませ
毎日オフィスに出社していたのは亜門だった

この事を知っているのはババァに牧野
亜門本人はもちろんだが仕事関係では西田だけで
後は警備を担当していたＦＢＩの一部…

それも上層部の人間でさえ知らされていない程に
情報は厳しく統制されて

当然スケジュールも外部には漏れないように細心の注意を払われていたし
出社ルートなどは運転手でさえ当日の朝に知らされる程
警備は厳重だったはずなのに亜門は出社途中に拉致され殺害されてしまった

「亜門が拉致された日もルートは当日の朝まで誰も知らなかったんだな？」

「あぁ、いつもと同じだ」

「ルートは誰が決めてたの？」

「ＦＢＩだ。ルートは１０程あってどのルートを使うかは警護についてる捜査官が決めている」

「規則性はあったのか？」

「いいや、ルートも毎月細かく変更されてたし
尾行される事も考慮して毎日ダミーのリムジンも違うルートを走らせたりしてた
なのに奴らは迷う事なく亜門を拉致してる」

「それだけ厳重に警備してたにも関わらず情報が漏れてたってことか…」

「そうとしか考えられねぇ」

「犯人は全員死んだんだろ？
どこから漏れてたのか調べはついてんのか？」

「いいや…奴らの身辺を徹底的に調べたけど何も出てこなかった…
ただ全員が半年前に図ったように姿を消してて
誰も行方を知らなかったし
犯人グループの内、三人にはそれぞれ地元の警察に失踪届けが出されてた」

「奴らの接点も分かってねぇのか？」

「共通項は幾つか見つけた。
これだ」

これだと言って司がファイルを俺達に放り投げてよこした

司のその態度からは激しい怒りが感じられ
俺達の間には戸惑いが広がっていた




司の寄越したファイルは犯人達を調べあげたていた

それぞれの家族構成から生い立ち両親の職業に学生時代の担任や同級生、恋人に致るまで
これ以上ないってぐらい事細かに調べ上げていた
その結果、分かった事は出身地も生い立ちも家族構成もバラバラだけで接点はなかったが
大なり小なり道明寺とは関わりはあった

道明寺の子会社で働いていた者
勤めていた会社が道明寺と取引があった者
道明寺が行った都市再開発にあたりアパートが取り壊される事になり立ち退きになった者

それぞれの接点で小さなトラブルはあったようだが
それらが直接、今回の犯行に繋がるとは思えなかった

「この中でリーダーは誰だったんだ？」

人間ってのは三人集まれば無意識の内に
そのグループのイニシアチブルを握る人物が出てきくるものだ

「リーダー的な役割を果たしていた奴は分かってるが
どうもそいつは実行に関してだけのようで
計画を立てた奴は他にいるような気がする」

「奴らがどうやって知り合ったのかは分かってるのか？」

「あぁ、奴らは足がつかないようにそれまで使っていたパソコンや携帯なんかは全部処分してたけど
一人だけ古いパソコンを処分し忘れてた奴がいて
そこから今は閉鎖されてたけどあるコミュニティサイトの掲示板にたどり着いた
その掲示板のログを探し出して奴らが全員その掲示板に書き込みをしてた事を突き止めた」

「その掲示板ってどんな性質の物だったんだ」

「最初はなんてことのない日常の不満だとか
上司の悪口だとかを書き込んでたようだが
道明寺をクビになった奴がその不満を書き込んだあたりから
掲示板が道明寺に対する怨みや不満を持つ者達のたまり場みたいになっていたらしい」

「じゃあ奴らは全員そこで知り合ったって事か？」

「あぁそうだ。奴らの接点はなんとか分かったけど
そこからがまだ分かってない」

犯行を計画は出来たとしてもそれを実行しようと思うとかなりの金と時間が必要だ
またその二つをクリア出来たとしても軍隊でもない限り統制を取るのは難しい

関わる人間が多ければ多いほど
計画が大きければ大きいほどに
情報は漏れやすく露見しやすいのに

犯人グループの中に軍隊経験があるのは一人だけで
州兵として６ヶ月間イラクで現地の警備を担当していただけで実戦経験はない

とても素人集団の管理統制を計れるとは思えない
失踪から犯行までの半年間
奴らがどこで何をしていたのかが突き止められれば
その謎も少しは解けるような気がしている

「司はまだ真犯人が居るって考えてるんでしょ？」

「あぁ…確証はねぇけど…
この犯行を計画した奴は他に居るんじゃねぇかって考えてる」

「って事は少なくともまだ一人…
犯人グループには生き残りがいるって事か？」

「恐らくそいつがこの犯行を計画してメンバーを集めた首謀者だ」

「それで俺達に何をして欲しいわけ？」

「力を貸して欲しい。
ＦＢＩはあてにならねぇ！」

「出社ルートが漏れてたから？」

「あぁ、それもあるし奴らは犯人グループが死ぬまで人種さえ掴めてなかった
もう信用出来るのはお前らだけだ」

「ＦＢＩ以上の事を俺達に出来るとは思えないし
それに今さらムシがよすぎるって気もするけど」

力を貸してくれと言う司に妙に突っ掛かった言い方をする類

類が臍を曲げている理由はなんとなく予想はつく

牧野の事だ…

俺達には容易に想像がつくのに司は全く気付いていない

「だからさっきから何度も謝ってんだろーが！」

「謝ってるようには見えないけど」

「謝ってんだよ！テメェは俺様にどうして欲しいんだよ！？」

「別に」

「俺様をおちょくってんのか？！」

類との掴み所の無い会話に司は段々とヒートアップしてくる

ある意味懐かしい光景ではあるが…

今はそれを楽しむ余裕は正直無い

「二人共止めとけ！
今は喧嘩してる場合じゃねぇーだろ！」

「司？話しは分かった。
俺は…いや、俺達はお前が生きててくれて嬉しいよ。
それに牧野の事もずっと気になってたからお前と一緒で幸せに暮らしててよかった。
協力に関しては俺達に出来る事はなんでもするけど
今のままじゃ情報が少なすぎて正直ＦＢＩ以上の事は調べられないと思う。
もっと情報をくれ。特にＦＢＩに出して無い情報を出してくれないか？」

「分かった。それから…」

そこで言葉を切った司は視線を一瞬だけ類へと向け
類はその一瞬を見逃さなかった

「それから？何？」

「類につくしと会って欲しい」

「どうして俺なわけ？」

「…お前は…」

「俺は牧野をよく分かってるから？」

「クソッ！…そーだよ！
あいつは亜門が関わる事を反対だったしずっと心配してた。
今回の事でかなりショックを受けてて
切迫早産しかけて今は絶対安静状態なんだよ！
だからお前と話せれば少しは気が楽になるんじゃねぇかと思ったんだよ！」

事件が起きてから遠く離れた俺達でさえ眠れぬ夜を過ごす事が多かった
当事者である司や牧野の達にしてみれば地獄のような日々だっただろうし
最悪の結末を迎えてしまい未だ例えようのない苦しみや悲しみの中にいるのだろう

「分かった、牧野に会うよ。
けど俺と会った牧野がやっぱり司じゃなく俺の方がいいって
俺を選んでも後で文句言わないでね」

司には亜門を死なせてしまった自身の無力さや後悔が
苛立ちとなって表れているように思えた

また人一倍周りに気を使う牧野が
司と同じように言葉では言い表せない感情に
押し潰されそうになっているのは容易に想像がついた

類はそれが分かっていたから業と突っ掛かるような言い方をして
この普通じゃない情況での再会を
昔のような雰囲気に戻したのだろう





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