大家さんは元カレ！？ 11

信じらんない！

もぅ！ほんと‥何なのよー！

昨日行きそびれてしまった実家に行こうと準備をしていると
朝からやたらと絡んでくる大家さん

着ていた洋服は実家に行くだけだから超～普段着

パパとママの前で気合い入れてお洒落しても仕方ないし
週末だからたまには実家でのんびりお泊まりの準備までしていたのに
まず着ている洋服が色気がないだとか
そんな安物だと俺が恥をかくだとか

庶民の強い味方

ファストファッションをバカにしないでよね！

あんたの恥？

関係ないじゃない？！

そう思って言い返してたんだけど
あまりのしつこさに負けてあいつが出してきたワンピースに着替えた

のが間違いだった


私が言うことを聞いたのに味をしめたのか
次はこれ次はそれとピアスにネックレスに指輪に靴にバッグと
そして最後には明日は仕事だからお泊まりは無しだとか
俺も一緒に挨拶に行くだとか

畳み掛けられて気づいたらリムジンに乗せられていた


リムジンの中でも抵抗はしたんだけど

あいつに勝てるわけなくて
結局、案の定？

いや！

予想していた最悪の結果に‥

ママなんて驚きで一瞬だけ固まったけれど
すぐにテンションはＭＡＸに‥

婚約破棄された事なんて瞬時に宇宙の彼方へ消え去って
彼の言葉に舞い上がっちゃって
パパと手と手を取り合い歓喜の舞いまで踊ってくれちゃって
恥ずかしいったらありゃしない！


怒る私を空腹のせいにして話を変えてくる彼にムカついたから
何が食べたい？の問いかけに
彼には絶対に有り得ない"安っすい居酒屋"って答えたら‥

案の定

却下

分かってて言ってるんだけどね

無駄な抵抗だって事も分かってるんだけど
こうも彼の思い通りに進められるのが癪に障って
嫌みを込めて無駄な抵抗してみる




流されたくないって気持ちが強すぎて
類に
"あんたって産卵の為に流れに逆らって遡上してくる鮭みたいだよね"
って言われたことがある

流されたくない

負けたくない

そう思って頑張ってきた結果
いつの間にどんな障害物にも負けず
ただひたすら本能のまま激流を遡上する鮭のように
がむしゃらに前を向いて生きてきた

そうしなきゃ

前に進めなかったんだけど


前に進んでると信じて頑張ってきたんだけど
いつの間にか前がどっちなのか分からなくなっていた

前に進んでいると思っていた

元婚約者の彼にしても正しい選択なんだと思っていた

彼と結婚してやがて子供が生まれて
パパとママに孫を抱かせてあげて
喧嘩しながらも普通の家族として
細やかながら幸せにやって行けるんだと思っていた

それが身の丈にあった幸せなんだって信じていた


なのに‥


流されそうになる


この激流に身を任せ流れて行きそうになる


そんなのダメだ！


道明寺は我が儘で自分勝手で俺様だけど
私を甘やかし過ぎる

思わず目の前に差し出されるその優しさに
すがり付きたくなってしまうけれど
そんなのはダメ

婚約破棄からまだ２週間しか経っていない
ただ淋しさと哀しさを誤魔化す為に彼を利用しているみたいで卑怯だ！


道明寺が記憶を失い一人残された後の私は最悪だった
前に進むことも後ろに下がることも出来ないまま
身動きが取れない状態が数ヶ月続き周囲を心配させた

類はただ何も言わずに隣にいてくれた

西門さんと美作さんはいつもの軽い調子を崩さないまま
いつまでも踏み出せない私の背中をそっと押してくれた


桜子達は女子会だとか言いながら私を外に連れ出し
一晩中、道明寺の悪口大会で笑わせてくれた


桜子も滋さんもまだ道明寺が好きなはずなのに
一晩中、アホだのバカだのクルクルだのって‥

今考えれば何が楽しかったのか？
一晩中、食べて飲んで騒いで道明寺の悪口言って
最後には必ず
"つくし！逃した魚は大きかったって司が後悔するぐらいいい女になって今度はこっちが振ってやろう！"
って呂律の回っていない滋さんの決意表明で終わっていた


帰国してきた道明寺は記憶が戻っていて

そして

すっかり大人の男に変身していた

その態度は紳士的で余裕さえ感じさせて
悔しいけれどやっぱり私

まだ

道明寺のことが

好きだなぁ～って

認識しちゃって

だけどまた付き合うとかそんな事は考えてなくて

ただ

道明寺の彼女ってどんな女性なんだろう？とか考えながら
きっと綺麗な人で幸せなんだろうなぁ～なんて
どこか一歩も二歩も引いた所から彼を見ていただけ


正直

弁護士になる方法なら分かるんだけど

誰かと真剣に恋愛する方法って分からなくて
どうしても現実的になってしまって
幸せを測る尺度を間違えていたのかもしれない

なんて今頃気がついても遅いんだけどね‥




弱った心に少しだけ追い詰められて
余裕のない私を彼が連れて来たのは
メープルにある例のラウンジだったんだけどね‥

雰囲気が前に来た時と全然違う

全面ガラス張りの向こうに広がる東京の夜景は同じなんだけど
ラウンジ内のレイアウトや置かれている椅子やテーブルなんかが変わっている


「ここ‥改装したの？」

「あぁ、前のままだと嫌だろ？
だから全部取り替えさせた」

私の腰に軽く手を沿えエスコートしながら
こともなげに言う道明寺の顔を見上げる

「私のためにわざわざ？」

「あぁ、気にすんな！
俺がそうしたかっただけなんだから！
どうだ？気に入ったか？」

「えっ‥あっ‥うん‥す、素敵になってる‥」

「そうか、良かった」

エスコートされながらの会話

そのまま個室に案内されて
目の前に並べられたお料理にびっくり

だってね

ここメープルなのよ！

日本を代表する超高級ホテルのラウンジなのよ！

なのに

目の前のテーブルに並べられているのは
そこら辺の安い居酒屋のメニューと同じ物ばかり

もちろん味も飾り付けもそこら辺の安い居酒屋とは似ても似つかないレベルだけれど

お刺身の三点盛りに鶏の唐揚げに
ポテトフライに枝豆に焼き鳥に焼おにぎりに
筋トレ出来るぐらいの大きなジョッキに並々と入った薄っすいハイボール

もうね‥

笑っちゃった！

私と同じように大きなジョッキに入ったハイボールを飲んで
顔をしかめている道明寺を見て笑っちゃって

笑って

笑って

道明寺の優しさが胸にグサグサと突き刺さって
痛くて痛くて泣いちゃった










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