月夜に 138

私達を乗せた車はマンハッタンを走り抜け
やがて無機質なビル群ではなく

葉を落とした木々に降り積もる雪が辺りを支配する地域へと入る


車は電動のゲートを潜り
左右の枝に雪を配した木々の間をゆっくりと走り抜けると
やがて目の前には宮殿のようなお屋敷が姿を表す


辺り一面真っ白な雪に覆われた世界で

聳えるように立つお屋敷はまるでお伽話な世界に迷い込んだみたい

道明寺に起こされた雛はここが自分の家だと告げられると

流石に目を大きく見開き窓の外に広がる広大な敷地を見回している


”シンデレラのカボチャの馬車もあるぞ！”


だとか


”ここは雛のお屋敷だからいつでも来たい時に来ていいんだぞ！”


だとか


”来たい時はいつでも電話してこい！
雛専用のジェットで迎えに行ってやるから！”


だとか…


雛がすっかりその気になっちゃってるじゃない！


この二人には何を言っても無駄だろうから
私は何も聞こえていないフリを決め込む


タマさんとも久々の再会して
即席だったけど道明寺の誕生日パーティーを開き
本当は日曜日に帰る予定だったけど
予定を変更して翌日の朝一番の便でパリへと戻った



道明寺は自家用機を飛ばし自分がパリまで送って行くと頑張っていたけれど
週の始めからスケジュールを変更する事が出来なくて…
それでも会議の時間に遅れると焦る秘書さんを尻目に
私達を空港まで見送りに来てくれた


パリに戻るとあきらも出張から帰ったところで
彼もＮＹでの雛の騒動を知っていて
司やお前は叱れなかっただろうと
珍しく本気で雛にお説教をしてくれていた


ＮＹから戻り日々のドタバタはあるけれど
パリでの時間がゆっくりと過ぎていく


もうパリに来て何度目の春だろうか…

緯度の高いパリの春は遅い

ゆっくりと少しづつ日々新しい命が芽吹くように季節が変化してくる









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