彼と彼女の場合(仮) ８

ハァ？だろ？！

そう思うだろ！？


「ちょ、ちょっと待て！
結婚相談所って・・！？
まさか？」


「えぇ、そのまさかですわ」


「ハァ〜〜」


なんとなく話が見えてきて俺の口から零れ落ちた大きなため息

「やっと気がついたんですね。
だから鈍感だって言われるんですわ」


「あぁ・・だな・・お前らはいつから気がついてたんだ？」

「わたくし達も確証があったわけじゃありませんわ」

「どういうことだよ？」






道明寺さんが先輩のことだけ忘れ渡米してしまった後も
わたくし達の友情は途切れる事はなかった


わたくしも滋さんも優紀さんも
先輩が道明寺さんの事を忘れていない事は気がついていた

忘れてはいない

だけど

諦めてしまっていた

そんな感じだった

そんな状況で今までのわたくしや滋さんなら
諦めないでと言っていただろう
だけどわたくしと滋さんは学んだのだ
お互い相容れない家庭環境で育ち
友となり友情を育みながら互いの環境の違いを受け入れ
尊重する事を学んだ


大学への進学にしてもわたくしや滋さんが
経済的に支援する事は簡単だけれど
先輩はそんな事は望んでいない

わたくし達がただ一緒にいたいという理由だけで
先輩の人生に立ち入る事は出来ない

そう思ったから道明寺さんの事にしても
進路の事にしても黙って見守ってきた

道明寺さんに対する先輩の気持ち・・・

はっきりと確かめた事はなかったけれど
先輩が道明寺さんに貰ったネックレスを大切に保管しているのは知っていたし
時折、メディアに登場する道明寺さんの話題に触れた時なんかは
寂しそうな表情を浮かべていたし

先輩が合コンに行ったり言い寄ってきた男性とデートしてみたりして時は
決まって道明寺さんの熱愛報道があった後だった

だから先輩が無理に前に進もうとしているんだと思っていた

それに道明寺さんに対しても疑惑があった

それはＮＹのパーティーで道明寺さんと久しぶりに会った滋さんが
帰国して何気なく発した一言だった

“久しぶりに向こうで司に会ったんだけどさ
なんか雰囲気が違うんだよね〜
なんかさ昔に戻ったみたいな？感じだったんだよね〜”


滋さんにしてみればただ道明寺さんと久々に会って
感じた感想を言っただけ

だけどわたくしはその滋さんの言葉でピンときたんです

だから調べてみたんですけど
Ｆ３の皆さんは思いの外ガードが固くてらして
裏でコソコソ何かされているって事は分かったんですけど
それが何なのか確証が掴めなかったんです

そしてわたくし達が至った結論が

もしかして道明寺さんの記憶が戻っていて
海の向こうから先輩を監視していて
Ｆ３の皆さんもそれに協力されているんじゃないかと

そう考えると今までなんとかなく感じていた違和感なんかが
全て解消されましたのよ

花沢さんが英徳大学への進学を猛プッシュしていた事も
突然、新設された奨学金制度の事も
あの三人が揃いも揃って必要の無い顧問契約を結び
毎月、どなたかが先輩を食事に連れ出していた事も
先輩のパラリーガルの目つきが妙に鋭い事も

全て納得がいきましたの


だからね

わたくし達で少しばかりワナを掛けてみましたのよ

記憶が戻っているのにも関わらず
戻ってくる様子の無い道明寺さんに対して
少し焦れったく感じておりましたので
先輩に結婚相談所に入会していただきましたの

もちろん先輩はわたくし達が関係している事はご存知ありませんわ

滋さんとわたくしでそこそこの結婚相談所を立ち上げ
優紀さんに誘っていただいて入会していただきましたの

そうしましたら一ヶ月もしない内に
なんだかよく分からない輩に乗っ取られてしまいあっという間に解散させられてしまいましたの

なんだかよく分からない輩というのは
皆さんはもうお分かりよね？


美作さんが急ごしらえで立ち上げたペーパーカンパニーで
上手くカムフラージュされていましたけれど
その実態は美作さんの裏稼業を取り仕切っている方が関係していていらっしゃいましたのよ

これでわたくし達は確証いたしましたの

だから次の一手を考えている最中でしたのよ


なのに！


久しぶりに昨日はパーティーで知り合った殿方とディナーに出掛けようとしていたところを
いきなり身体の大きな明らかにＳＰだと分かる方々に取り囲まれ
有無を言わせず成田まで連れて来られたらと思ったら
目の前には恋人繋ぎでご機嫌な道明寺さんと
対照的に不機嫌極まりない先輩のお姿がありましたの

わたくし先輩が不機嫌極まりないと申しましたけれど
その不機嫌さは状況が理解出来ていない不機嫌さであり
その不機嫌さの中に時折、見え隠れする
呆れたようなでもどこか嬉しそうな先輩の心の揺れみたいな物を感じておりましたの

だから美作さんにはお式は到着後すぐにと進言いたしましたのよ

だって先輩のことですもの

この状況では絶対にご自分のお気持ちはお認めにはなりませんもの

もしお認めになられたとしても
その場で流されてお式なんて絶対にムリですわ

また一からお付き合いをなんて言い出しかねませんもの


そんなまどろっこしい！

だから進言いたしましたの

それと同時に美作さんにはきっちりと経費を請求させていただきますわ

当然でしょ？

だって今までずっとわたくし達を騙していたんですから




ムカつく！

ムカつくから口聞かない！

隣では上機嫌な男がベタベタ触ってくるけれど
その手を跳ね除けずっと無視したままの私

どうしよう？

この状況をどうすればいい？

う〜ん・・

どう考えたって離陸してしまった飛行機の中じゃ
大人しく座っている以外ないんだけど・・

でもでも

このままハワイに着いてしまったら
勢いに流されて結婚式なんてことになりかねないから

逃げるっきゃないのよね

ここは一先ず逃げて落ち着いて色々と考えたいんだけど・・・


どうやって逃げよう？

逃げるタイミングが難しいわよね？

着いたら速攻？

それともホテルに着いてから？

どっちにしてもタイミングが難しそうだけど・・

とにかく！

逃げるが勝ち！よね？









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