遥か ８

“ぜ、絶対に許さない！”


パパの怒鳴り声と共にガシャーンと手とカトラリーがぶつかり
床へと落ちる音が響いたレストランの個室


修羅場です！


まぁ

ある意味

予想通りの展開だから驚きはしないんだけどね

やっぱりパパにはちょっと刺激が強すぎたかも・・


再びの濃密な時間を経て

次に気がついた時には時計は既にお昼を指していて
慌ててママに電話した


今日は牧野つくしの誕生日だけど
瀬戸口遥の誕生日でもある

幼い頃はそれなりに家族でお誕生日パーティーなんて開いてもらっていたんだけど
あたしが大学に通い始めた頃からは
自宅近くの少し良いレストランで
家族三人で食事をするっていうのが習慣になっていて今年もその予定

今年は日本だしママはお仕事だから
都内の有名なフレンチレストランを予約したってパパが言っていた

そこにね

会って欲しい人がいるからと
道明寺を連れて行ったの

そしたらね

案の定の展開に・・


お昼間ママに電話をした時

ママはお仕事中で

朝帰り？

って

まだ帰ってないんだけど・・

まずそれを謝って今夜の食事に会って欲しい人がいるから
連れて行くと伝えたの

ママはねびっくりはしていたけど
朝帰り云々はあんまり怒ってなくて

寧ろ喜んじゃってた感じ

昔から友達って呼べる人があまりいなくて
家にも連れて来たこととかなかったから
同年代の女の子達が経験するであろう
あらゆる問題を経験しないままきてしまっていたあたしを心配していたママ

だから

単純に嬉しかったみたいで
パパの事を心配するあたしに
スマホの向こう側から弾んだ声で
“パパの事は大丈夫よ！嫌だって言っても引きずって連れて行くから！”
なんて言ってくれていたんだけどね

レストランに付いて個室に案内されて入ってきた
あたしと道明寺を見て固まっちゃった


そりゃそうよね・・

驚くわよね

だって１８になったばかりの小娘が連れて来たのが
あの道明寺司なんだもの

歳だってあたしとよりママ達との方が近いんだもん

知り合ったきっかけだとか・・

って

まず接点なんて見当たらないのに
１８になったばかりの小娘が財閥の後継者を連れて来たんだから
パニクるわよね・・

ママでさえ厳しい表情で

“なにが目的ですか？”

とか聞いちゃってるし
パパなんて論外


パパの大切なはるちゃんが朝帰りどころか
丸一日帰って来なくて警察に捜索願い出そうとしてママに止められて
心配で一睡も出来なくて徹夜して
挙げ句に会って欲しい人がいるとか言われて
嫌だって言ったのにママにここまで無理やり連れて来られて
目の前に娘と共に現れたのが
娘より２０も年上で自分の方が歳が近いおっさんなんだもん

パパは彼が何者なのかまでは気が回っていなくて
ただパパの大切なはるちゃんは誰にも渡さない！ってスタンス

ママとはちょっと違うんだけど
とにかくこんな大きな声を出したパパを見るのは初めて


泣き虫さんだからすぐに泣いちゃうんだけど・・

今も涙目で怒っている

当然、食事どころじゃなくて
一旦、場所を変えてって事になり
さっきまで居たメープルの部屋へと逆戻り

部屋は綺麗に清掃されていて
さっきまでの痕跡は皆無なんだけど
あたしは部屋に入った途端、夕べからのあの濃密な時間を思い出し
両親の方は見れなかった


驚き戸惑い激昂する両親の前でも
道明寺は終始落ち着いていて
ずっとあたしの手を握ったまま

繋がれたままのその手の温もりが
緊張するあたしに大丈夫だと言ってくれているようで
あたしも落ち着いて対処出来ている

まずパパとママに昨夜は外泊させてしまって申し訳ありませんと頭を下げた道明寺

彼が謝るところなんて初めてだったから
驚いたけどあたしも彼に習って頭を下げた

それに続けてあたしとの事は遊びじゃなくて
真剣で今すぐにでも結婚したいと言った道明寺

パパは論外なんだけど

流石にママも厳しい表情のまま

まぁ

まだ話しを聞いてくれているからパパよりはマシだけど

結婚ってワードが出た途端
パパがプルプル震え出しちゃったから
隣に座っていたママがちょっと落ち着いてとお水を差し出していた

ママは少し冷静で

馴れ初めだとか色々

まぁ

当然の質問をしてくるけど

そのどれもが到底

パパとママを納得させられるものじゃない事は分かっているんだけど

だけど

なるべく正直に誠実に話しをしてくれている道明寺


でもね

どう考えても

出会ったのは夕べです

私達は運命の相手なんです

なんて言われて


はいそうですか

とはならないわよね

いい大人なんだから

ふざけるな！

ってのがヲチじゃない？

だから

意を決して

全てを正直に話した















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