Black Lilly ７

あの事件から一ヶ月後

俺のデスクの前に立つ秘書の西田

奴が俺に差し出したのは事件の後始末の報告書

事件後は精神的なショックが大きかった牧野は
全ての対応を道明寺の弁護士に一任すると言っていた

勿論、俺にはこの件を司法の手に委ねるなんて選択肢は無い

あの後、ＳＰによって牧野と同じ病院に運び込まれた男は
残念なことに一命は取り留めたが意識不明の重体でＩＣＵに収容されていた


医師の見解では意識が戻る保証は無い

病院によって呼び出され両親と兄は
当初、息子をこんな風にした相手を訴えてやると息巻いていたようだったが
すぐに道明寺の弁護士から事の顛末を聞き黙り込み
自らの保身に走った

保身に走ったところで今や後の祭りだが

それでも生きていられるだけまだマシだと思ったのか
経営していた病院をたたみ
自宅を売り払い現金に変えると
牧野への慰謝料を支払い逃げるように引っ越した


表向きはそうなっている

だが現実は違う

俺が・・

いや、俺達がそんな甘いわけねぇだろ


牧野を傷つけた代償は到底
金なんかじゃ償いきれないのだから


読み終えた報告書を西田に投げ返すと
もう一つの指示を出した


牧野の勤めている会社を買収して
牧野を秘書課に移動させて俺の秘書にしろ！

その指示に西田は道明寺にはすでに製薬会社が存在しているので難しいだとか
秘書にというのは問題はありませんが牧野様の了承は得られているのかだとか
それらしい理由を付けて反対しやがったが

そこをなんとかすんのがお前の仕事だろーが！

で終わらせた


買収が難しければ潰してしまえばいい

ただそれだけのことだ

歯向かう奴は誰だって許さない

実際、俺に歯向かう奴なんていない

いや・・

一人だけいる

この世でたった一人だけ

この俺に牙を剥き出しで歯向かってくる
やっかいな女がいる

そして俺はその女にだけは弱い

何故か最終的にはあの女の言う通りになってしまう

自分でもその原因は分かっている

俺が彼女に惚れているからだ

いや

惚れてるなんて簡単なもんじゃない

もう溺れまくっててどうしようもない

少しずつ回復し始めた牧野は以前のような明るさを取り戻すと同時に
仕事の事を気にし始めていて最近は復帰するタイミングを計っているようで
それと同時にあの部屋を出て行こうとしている

そうはさせるか！！

あいつの考えていることは手に取るようにわかる

今までずっと自分の事は自分でなんとかしてきたたくましい女だから

元気になったら仕事もせずじっとしているなんて出来ない

タマの助けを借りながら少しずつ回復する過程で近所のスーパーぐらいには
買い物に出かけられるようになっていたからそれなら食事ぐらいは作ってくれと
生活費を渡してもここの家賃とかも払ってもらってるから大丈夫と受け取ろうとしないし

たまには気晴らしに買い物にでも行って来いとカードを渡しても
こんな黒いカード怖くて使えないと訳の分からない理由で突き返してきやがるし

とにかく思い通りにならない女

そして俺を思い通りに動かす女

本心では仕事なんてして欲しくない

今すぐにでも結婚したい

結婚して一生、屋敷に閉じ込めておきたい

だけどそんな事は出来ない

そんな事をすれば俺もあの男と同じになってしまう

だから閉じ込めておけない代わりに俺の秘書にしてやったのに

喜ぶどころか俺に歯向かってきやがる

言い争いになり辞表を出すとまで言った牧野

そんな事をしても無駄だと怒鳴り返す俺を見かねたタマが間に入り

タマに説得されたってのは気に入らねぇがとりあえずは秘書として働くことを同意した

こうして始まった俺と牧野の新しい関係

上司と部下

やべぇ

秘書の牧野ってエロくねぇか？

俺的にはこいつが側にいるだけで十分なのに
こいつは秘書として仕事をしようとする

そして俺はもう一つ重要な事を忘れていた

こいつがやると決めたらとことんやる女だったってことを・・

どうせ秘書をするならきちんと資格を取りたいと言い出した牧野は
仕事終わりにわざわざ専門学校に通い始め俺を放置


そしてあっという間に資格を取得すると
西田の片腕となりバリバリ仕事を熟し始めた

そんな日常を過ごすうちに

少しずつ

本当に少しずつだが

俺達の関係も変化していった

やっと牧野が俺の想いに応えてくれた時は
マジで天にも昇る気持ちだった

いや！マジ天国に昇った！！

相変わらずケンカはするし

相変わらず甘い雰囲気にはなかなかならねぇけど

いつも側には牧野がいてくれて
やっと婚約も発表出来て

俺は幸せの絶頂だった

マジであいつらも呆れるほど幸せの絶頂だった


そんな時


また事件が起こった













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