二度目の恋の話をしよう 36

一応、花嫁の父として知らず知らずの内に
神経を張り詰められるだけ張り詰めさせていた俺


総二郎や類からしてみればもっとドッシリ腰を落ち着け
司のようにデ～ンとしていればと思うだろうけれど


一応、親と呼ばれるのが四人


司に牧野に滋


この中でまともな親…


いや…人間は俺だけだとの自負からか…


元来の心配性で几帳面な性格からか…


どうしても問題の渦中にドップリはまり込んでしまう



無事に花束贈呈も終わり


花嫁である夢花と二人の母親は感激して涙を流している


いよいよ最後、司の挨拶で披露宴が締めくくられる


その司の挨拶で二人の母親の感激の涙が止まる事となる…



挨拶の為に四人で中央に移動する
その横に何故か総二郎と類も並ばされている


久々にＦ４揃い踏み


いい歳して今更Ｆ４もねぇけど…


こうして公の場所で勢揃いするのは俺と滋の披露宴以来かも


これは滋の思惑ではなく中継をしているテレビ局の依頼


普段公の場に揃って姿を表す事のない俺達を中継の最後の目玉にしたいらしい


司が知ればまた牧野に余計なプレッシャーが掛かるだけだから知らせてはいないけれど


この歳になって横一列に並ばされるのはどことなく恥ずかしい


中央の司にマイクが手渡され
司はいつもの眼力で会場中を見渡たし
そして珍しく大きく息を吐き出してから話し始めた


「本日はお忙しい中、世界中から我が長男、優と美作家の長女、夢花の為に本当にありがとうございました。
両家を代表致しまして…」


司の挨拶は予定されていた冒頭部分は原稿通りに朗々と続いている


「本日はこの場を借りまして私から一つ重要なお知らせをしたいと思っております」


重要なお知らせ？


予定には無い発言に司が何を言い出すのか
まだ時折り目頭を押さえ俯き加減にしていた牧野を始め
俺達も一斉に司の方を向く


司はそんな俺達の事など気にする様子はなく
そのまま淀みなくまるで最初っから決まっていたかのようにとんでもない事を言い始めた



「本日の披露宴を持ちまして私、道明寺司は道明寺財閥総裁の座を辞し
今後残りの時間の全てを長年連れ添い道明寺の為に家族の為に日々、
日の当たらない場所で力を尽くしてくれていた妻の為に費やしたいと考えております。
今後は妻と共にハワイに移住し
そこで誰にも邪魔されず夫婦二人だけで静かに暮らしたいと思っています」


引退？

司が？


今夜限りで？


夫婦でハワイに移住？

なんでハワイなんだ？


最後の二人だけでってとこを妙に強調してたような気もするけど…


司の言葉が上手く飲み込め無くて
思わずポカーンとしたまま


いや…会場中が状況を理解出来ずシ～ンと静まり返っている


なんでハワイなのかは分からないけれど


とにかく今夜限りで引退してハワイに牧野と二人で移住すると
生放送で宣言してしまった司



常識的に考えて有り得ない…


財閥の総裁が辞め～た！で辞めれるはずがないのは本人だってよく分かっているはずなのに


まぁ…元来、社会のルールやら常識やらが当て嵌まる奴じゃないけれど


それにしても突拍子すぎる


気付くと牧野が司の腕を掴んでいる


本人は思わず掴んでしまったみたいだけれど
無意識の内に司を止めているようだった


だけどそんな事で止まるような奴じゃないし
どうやら司は大まじめのようだし
それに生放送で一度吐いてしまった言葉は取り消せない


息子の披露宴で腰が抜けそうな爆弾発言をした司は
顔面蒼白で今にも後ろにひっくり返りそうな牧野の肩を抱き寄せると最後に


「オイ優、愛！俺様が築き上げたもん全部お前達にやる！感謝しろ！」


どこまでも俺様かよ…


もう牧野なんて司に肩を抱かれてるから立っているように見えるだけで
完全に腰を抜かしているし
流石の滋もあまりの事に大きく目と口を開けっ放しているだけ


誰もがありえない展開に驚き戸惑う中
やっぱりこの兄妹だけは司の血を色濃く受け継いでいた


「偉そうに命令してんじゃねぇよ！
行きたきゃハワイでも何処でもさっさと行きやがれ！バカ親父！」


「優！テメェ親に向かって何て口聞きやがる！」



俺からするとどっちもバカ野郎だけど


バカ親父の方がバカ息子の言葉に切れて
時と場合も考えず…


まぁ元々、そんな事を考えるような親子ではないけれど…


ちっとぐらいは考えろよ～！











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