二度目の恋の話をしよう ５２

「に、西門さん・・とりあえず今日の食事会は私は欠席でお願いします」



「あぁ、分かった・・って！
お前、その子どうするつもりだ？！
まさか連れて帰るのか？！」



「う～ん・・とりあえずはそうしないと・・
まさかここに置いて帰るわけにはいかないじゃない・・」


「そうだけど、さっさと警視総監に連絡して
警察に引き取ってもらえよ」


西門さんの言っていることは分かる


分かるんだけどね


「警察に連絡はちょっと待って。
もし本当にこの子がね・・だったら・・分かるでしょ？」



「あぁ、だな・・」



西門さんの言う通り
さっさと警察に連絡を入れるのが正しい方法だとは思うんだけど


もしもね


もしもこの子が

あの女性が言った通り彼の子供だったら・・


実際、その可能性は大いに有るでしょ


それにねどこの誰に見られているか分からない場所で
いつまでも赤ちゃんを抱いたままでなんていられないから
とりあえず連れ帰る事にした


赤ちゃんを抱いたまま急いで車に乗り込むと
西門さんも一緒に乗り込んできて

ＳＰさんがさっき女性が居た場所の床に置きっぱなしになっていたと
小さなボストンバッグを持ってきてくれたからそれを受け取り

ＳＰさんにはここに残り逃げた女性の捜索と身元調査

そして父親候補さんに連絡を入れるよう伝え会場を後にした



会館には防犯カメラが多数設置されているから
それらを確認すればすぐに女性の動きは追えるだろうし

ある程度分かれば身元もすぐに判明するだろうから

それに関してはあまり神経を使ってはいなかった


問題は父親候補の方・・


ハァ〜〜～


隠しきれない程の大きなため息が溢れる


でも今はため息なんてついてる場合じゃない


車が走り出してすぐ西門さんが


「こいつ女か？」


「う～ん、着てるお洋服なんかはピンク色だから
女の子だと思うんだけど。生後・・半年ぐらいじゃないかしら？」



「それぐらいだろうな・・
でも名前も分からないのにどうするんだ？」


確かに・・


あなたの旦那さんの子供ですってだけで

それ以外の情報は何も無い



「そのバッグの中に何か入ってませんか？」


「これか？」



「はい、ちょっと中を見ていただけますか」


私の言葉に西門さんがバッグを膝の上に持ち上げ
中を確認し始めた


中に入っていたのは赤ちゃんの衣類と紙おむつが数枚だけ


でも西門さんが衣類のタグに名前が書かれているのを見つけた


「これってこの子の名前か？」


「なんて書いてあります？」


「ひらがなで“まい”ってだけ書いてあるぞ。
他のにも同じ名前が書かれてるから恐らくこの赤ん坊の名前だろうな」



「まいちゃんですか・・可愛い名前ですね」



「・・可愛いって・・お前・・楽しんでねぇか？！」



「えっ！？」



「顔が嬉しそうだぞ・・しっかりしろよ！
この子は司の隠し子かもしれないんだぞ！？
分かってんのか？！」



「え、えぇ・・」



西門さんに言われなくても

この子が彼の隠し子かもしれないってことは分かっている


そして


もしも


この子が本当に言葉の通りだとしたら

この先、色々と大変な問題を孕んでいることも理解している


だけどね


まだ言葉も話せない幼子には関係ない話


身勝手な大人達に振り回されているのに

何も知らずにスヤスヤと眠るこの子には何の責任も無いし


何より久々のこの小さくて儚くて

それでいて生命力に溢れたプニプニしたこの感触が

忘れていた感覚を思い出させてくれて愛おしく感じてしまう


西門さんの言っていることはごもっともなんだけど

それ以上になにか不思議な感情が溢れ出してきている


「西門さんがおっしゃりたいことはわかっていますけど・・
でもなんかちょっと・・思い出しませんか？」



腕に抱いたままの赤ちゃんの顔を

西門さんにも見えるように少しずらしてそう言うと




「確かにな・・でも俺達にしたら子供ってより孫じゃねぇか？」




私の腕でスヤスヤと眠る赤ちゃんの顔を

覗き込みながらそう言った西門さん



「ですね・・もし優と夢花ちゃんに子供が出来たらこんな感じなんでしょうね・・
早くそうなってくれれば嬉しいんですけど」



「だから！そうじゃねぇーだろ！
この子は！ったく！現実逃避するな！」



「分かってますよ。
でも今ぐらいはいいじゃないですか」



「ったく！お前って昔からそうだよな」



「なにがですか？」



「だから昔っから妙に肝が据わってるっつーかポジティブっつーか。
まぁ、だからあの司と結婚生活なんて送れてたんだろうけど
やっぱり今は楽しむとこじゃねぇーぞ！」



「はい、分かってます。
でも可愛いですよね」



「まぁ、そーだな」



波乱の幕開けと共に車は順調に屋敷へと向かって走っている





結局、今夜に予定されていた食事会は中止になり

その代わり連絡を受けたいつものメンバーが

仕事を切り上げ続々とお屋敷に集まってきた


みんな若干楽しそうのは気のせいじゃないと思うの


優なんて連絡していないのに

どこかからか聞きつけて帰ってきちゃって

普段なら私の横になんて座らないのに

帰宅するなり私の横に座り

赤ちゃんの顔を覗き込みながら

ずっとニヤニヤしてて

私に何か言いたそうだし


滋さんなんて久しぶりの赤ちゃんにテンションが上がっちゃって

赤ちゃんのお洋服だとか色々揃えようと

外商を呼ぼうとして美作さんに止められているし


まぁ、そんなことで諦めるような滋さんじゃないから

結局、呼んじゃってて美作さんは渋い表情だし


優のお嫁さんの夢花ちゃんにしても

楽しそうだし・・



なんだか複雑な心境


で、父親候補さんはというと


彼は北海道に新たにオープンするリゾートホテルの視察に出かけていて

今日は戻って来ない予定だったんだけど連絡を受けて大急ぎでこちらへと

戻って来ている途中みたい




父親候補さんが戻るまではまだ時間がある

さっき目を醒ました赤ちゃんはお腹が空いていたみたいで

愚図り始めたのでミルクを飲ませ

オムツも変えてあげたら落ち着いたみたいで

初めての環境にも関わらず滋さんに抱っこされて

ニコニコしていて可愛い














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