Family 19

社員食堂からオフィスへと戻ると図ったようにあきらがやって来た

「よぉ！健は何処だ？」

第一声が健のあきら

まぁ、最近じゃこいつだけじゃなく他の奴らもだいたいが健か翼だけどな

「健ならババァんとこ行ってる。お前こそこんな時間に何か用か？」


話しながら俺はあきらの前のソファーへと腰を下ろす

「調印式が中止になったんだろ？」

「中止じゃねぇーよ！向こうの都合で延期してやっただけだ！」


「へぇ～延期ねぇ」


どこか含みを持たせたようなあきらの言葉に軽くカチンとくる


「何が言いてぇーんだ？！」


「いいや、お前にしてはえらく藤城に甘いんじゃねぇかと思っただけだ」

「甘かねぇーよ！」

「そうか？」

「あぁ、まだその時期じゃねぇってだけだ！
お前はそんな事を確かめる為に態々来たのかよ？！」



「いいや、別に確かめる必要なんてねぇだろ？」


長い付き合いだから俺がこれから何をしようとしているのかは
いちいち話さなくてもこいつらなら手に取るように分かっているのだろう

話しながら少しだけ口角を上げたあきらが
脇に置いていたファイルを投げ寄越した


「それ使え！」


「なんだこれ？」

中を見る前にあきらに問いかけるけれど
あきらは左の眉を少し上げただけで

「うちが掴んでたとっておきのネタだ！
なかなかのもんだぞ！かなりの悪趣味だから気合い入れて見ろよ！」

そう言っただけで後は何も話すつもりはないらしい

何に気合い入れんのか分からないがとりあえずファイルを開いて
目に飛び込んで来た写真に眉根が寄る

「なんだこの趣味の悪いポルノは？！」


「その女が藤城のご令嬢様だよ！」

言われてまじまじと写真を観てみると
確かに…

今朝、テレビカメラの前で記者相手に好き勝手ほざいていた女だ


「その女な…」

で始まったあきらの説明によると

藤城麗奈はあるホストクラブの常連で
数年前からそのホストクラブが裏で経営している男娼を斡旋する秘密クラブを頻繁に利用していたらしい


「その女、そこの男娼連中の間ではかなり有名だったらしいぞ！」


“身長１８０センチ以上で癖っ毛の男が好みでベッドの中では男の事を司って呼んでたらしいぞ！”


気持ちの悪ぃ事をサラリと楽しそうに告げられて
その言葉に嫌悪感しか感じない


「そんな顔すんな！こんなのまだまだ序の口だぞ！」


「あの女、どこまでイカれてんだ？！」


「かなりだ！
どうやら二年程前から一人の男に入れあげてて
個人的に金を渡して契約してたらしけど
最近その男と揉めて男が金やら何やら一切合切持って逃げたらしい」


麗奈は俺に外見が似た男を気に入り
その男に湯水のごとく金を使い

マンションに車、時計にスーツ
海外旅行に男の趣味のバイク
言いなりで買い与え
挙げ句の果てにその男に整形手術まで受けさせていた

「外見はお前にそっくりだろ？！
男に使った金は数億はくだらねぇって話だ！」


ファイルに挟まっていたもう一枚の写真

そこには俺そっくりの男が写っていた

「昔、いただろ？お袋さんが見つけてきたお前のそっくりさん？
あれみてぇーだろ？！」

楽しそうに話すあきらを睨み付ける

「嫌な事、思い出させんじゃねぇーよ！」


「で、その男がちょっとした置き土産を残してったらしいぞ！」


「それがガキか？！」

「あぁ、あの女が妊娠してんのは間違いねぇーみたいだけど
父親がお前じゃねぇーのは確かだ！」


「当たりめぇーだろーが！気持ち悪ぃ事言うな！」


「まぁ、そう怒んな！あの女がお前に惚れてたってのは確かみてぇだけど
実際はお前の代用品で妄想を満足させてたんだろ。
で、その結果、今じゃ妄想と現実の区別がついてねぇ完全に危ねぇ女だ！
今朝のテレビなんて可愛いもんだ！
次にどんな行動に出てくるか予想がつかねぇから十分気を付けろよ！
それじゃあ、俺はそろそろ戻るわ！」


言いたい事だけ一方的に話すとあきらは”じゃあな！”と軽く右手を上げただけで
オフィスから出て行ってしまった後、入れ替わるように西田が入って来た


西田にあきらからのファイルを渡す

ネタ元があきらだから裏を取る必要はない


「まだ表に出すな！
けど男だけ押さえとけ！」


「畏まりました」

「つくしからは連絡があったか？」

「いいえ、まだですが。
病院からは先ほど到着されて診察中だとの連絡は受けております」


「分かった、健はまだババァんとこか？」


「はい、先ほどから社長がご出席されております国際戦略部の部長会議に健様もご同席されておられます」


国際戦略部の部長会議？

月に一度ほど東京、ＮＹ、ロンドン、北京、ベルリンなど
世界中の主要都市にある支社の国際戦略部の部長級の社員がネットワーク回線を使い会議を行っている

時差などの関係で各都市持ち回りで執り行われていて
今回はたまたま東京が主催だったようで
午後からの会議にババァが割り込んでいるらしい



「なんでババァがその会議に出てんだよ？！」

「戦略部の部長会議は大変重要な会議でございますので」


重要な会議だってことくらい十分分かってはいるが
今まで一度も出た事のない会議にいきなりババァがしゃしゃり出てきて
会議に出席しているメンバーはいい迷惑だろうな…


「社長は健様に我が社の事を色々と知っていただきたいのだと思います」


「ババァが孫自慢してるだけじゃねぇーのか？！
で、健はどうしてる？」

「お言葉には不自由されておりませんので
通訳なしでも十分に会議の内容をご理解されているようでございます」

「それならこれ以上、健をババァに近づけるな！
健の将来は健に決めさせる！」


「お言葉ですが、司様？
健様にそのご心配は無用かと」


「どういう意味だ？」


「健様は今でも十分にご自分の立場を理解されておられるようですし
何より司様とつくし様の血を引いておられますので
ご自分の意見を通される意志の強さもお持ちでございます」


健の将来は健に決めさせる！
健だけじゃなく翼も同じだが
これは俺とつくしの一番重要な約束事
将来、健が自分の意志で道明寺で働くというのなら反対はしないが
ただ流されてとか惰性で俺の跡を継ぐというのなら
そんな甘い世界じゃねぇしそんな考えで守れるもんでもねぇ

何より俺とつくしは健と翼

そしてこれから生まれてくる子供には幸せになって欲しいと願っている


「分かった、もういい！
下がれ！」

「失礼いたします」

西田がオフィスから出て行った後

西田が置いていったファイルを手に取る

中にはこの後の会見で配る予定の家族写真が入っていた

ＮＹで

東京で

今まで撮り貯めた膨大な量の写真の中から選びれた数枚

特別な物ではなく日常を写し取った写真


そのどれもが俺達家族にとっては貴重で大切な物で

写真の中で俺達は抱き合い見つめ合い笑い合っている








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