吾亦紅 ３

総二郎と牧野の事はずっと心の中に
抜けないトゲのように残ったままだった


当時、俺はイギリスに赴任中で
類はフランスにいた


共に祖国から遠く離れた地で
それぞれの道を歩き始めていた


そんな中で立て続けに飛び込んできたニュース


司が牧野以外の女とデキ婚をし
総二郎が西門流を破門となり姿を消した


司本人から連絡は無かった


男の子が生まれた事も人伝に聞いただけ


奴にしても牧野の事を知っている俺達に連絡をし難かったのだろう


二人の事は心配だったがイギリスを離れられない身では
出来る事は限られている


何度か二人の携帯を鳴らすが一向に応答は無いまま
時間だけが過ぎていた


牧野に関しては類に任せておけば大丈夫だろうとは思っていた


あの類が司と別れた牧野をほっておくはずは無いと思っていたから


だから俺は総二郎の行方を探していた


そして二人の行方が判明したのは
その半年後のこと


ロンドンのオフィスにフラリと現れた類


そこで知らされたのが二人の結婚と
娘が生まれていて山陰地方の都市で暮らしているという事実


時間的に考えて子供が総二郎の子供だとは考え難い


牧野が司と付き合いながら総二郎とも
って言うんなら別だが・・


あの牧野が二股なんて・・


考えられなかったから


思い至った事実は・・


子供は・・



類も同じ考えのようだったが


その時の類は恐ろしく不機嫌だったのを覚えている



どういった経緯があるのかは分からなかったが
とりあえず二人の無事を確認出来た事に安堵し
遠くから二人を見守ることにした俺達

まぁ、この時はそのうち落ち着いたら
総二郎の方から連絡してくるだろうと考えていた


だけど待てど暮らせど奴からの連絡は無いまま


とうとう痺れを切らし


ちょうど俺も類も日本勤務になったのを期に
二人が暮らしている北の大地に出向いた


まさか類がいきなり総二郎を殴るなんて思ってもいなかったから慌てて止めに入ったが


総二郎と牧野にしても思いがけない再会だったようで
俺達の顔を見てポカ〜ンとしていた



それ以降は年に一、二回
二人の元を訪ねている


まぁ、俺は仕事のついでに立ち寄るってのがほとんどだけど
類だけは仕事には関係無く


気まぐれで突然、顔を出し

特に話しをするわけでもなく

ただ牧野の顔を見たら帰って行くだけのようで

そこらへんは俺はノータッチ



そんな訪問を数回繰り返していたら
妻に浮気を疑われた


言い忘れていたが俺は３２歳の時に滋と結婚し
類も同時期に桜子と結婚した


互いに跡取りの立場


３０を超えた辺りから
持ち込まれる縁談の数も
周囲からのプレッシャーも段々と大きくなり始め

このままじゃいずれ何処の誰かも分からない相手を
ある日突然、お前の婚約者だと連れて来られるだろう・・


いや


婚約者を紹介してもらえるだけマシだな


突然、式の日取りだとスケジュールを押さえられるような事態になりかねない


だから俺は滋と類は桜子と協定を結んだ


お互い妥協と打算の末の結婚


だけど不幸なわけじゃないし

不満があるわけでもない


お互い気心の知れた者同士


特に類と桜子なんて共に牧野が一番って間柄


互いの心の奥にある牧野への想いを侵害すること無く

説明する必要の無い相手との生活は
思いの外、快適のようで仲良くやっている


そして浮気を疑われた事をきっかけに

滋と桜子にも総二郎と牧野の事がバレて
今では滋と桜子は毎月のように牧野の元へと通っている



今日は本来なら俺と類は行く予定では無かった

だがここ数日で状況が大きく変わり
俺と類は妻達に便乗して二人の元へと飛んだ





今朝、香菜子をバス停まで送って
戻って来てすぐにあきらから今日の昼頃に
類とこっちに来ると連絡が入った


再会した時以来の二人揃っての来訪


滋と桜子は毎月のようにつくしに会いに来ているが
あきらと類が揃って訪ねてくるなんて無かったし
当日の朝に連絡をよこしたことも無かった

類はいつも連絡なんてしてこない

奴は毎回、フラリと現れて

またフラリと帰って行く

あきらは最低でも一週間前には連絡が来ていた


そしてあきらは電話の最後に


“滋と桜子は牧野んとこに行く予定になっている”

と告げて電話を終えた


つくしは札幌に居る

滋と桜子にしても毎月のように来てはいるが
いつも前もって連絡は来ていた

いつもと違ってイレギュラーなあきら達の動きに違和感を感じ
例えようの無い気持ち悪さを感じながら
あきら達の到着を待っていた


ランチの常連客も帰り閉店の作業中に共だって現れた二人


二人共、入ってきた時に軽く挨拶をしただけで
特に会話はしていない

その姿が俺の作業が終わるのを待っているように感じて

二人にコーヒーを出し作業が一段落したタイミングで
俺もコーヒーを手に二人のテーブルに座った


俺が座ったのと同時ぐらいのタイミングで
あきらが口を開いた


「司が三日程前から札幌に居る」


久しぶりに聞いたその名前に
一瞬、あきらの言葉の意味が分からなかった


「だからなんだ？
仕事だろ？」


「違う。
司は札幌のメープルからこの三日間一度も外出していない」


「ちょっと待て！
お前ら司を監視してんのか？」


「あぁ」


「なんの為に？」


「半年ほど前に司が牧野と明日香の事を調べてた形跡があるからだ」

あきらの口から出た予想外の言葉に
コーヒーカップを持つ手が止まった


「！！なっ！・・なんで今頃？」


「司の離婚が成立したからだと思う」


その言葉に続けて語られたあきらの言葉は衝撃的だった・・


“発表はされてないからお前は知らねぇだろうけどな
長男の誠は司とは血が繋がってなかったんだ”
















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