吾亦紅 ４

ここ数年

正確には司の長男の誠が中学生になった頃から
司の周囲からはいい噂は聞こえてこなかった

司夫婦には子供は一人だけ

長男の名前は道明寺　誠

歳は総二郎んとこの明日香と同い年

但し明日香の方が２ヶ月ほど早く生まれている

司夫婦の仲はとっくに冷え切っていて
司はＮＹで奥さんは日本に住んでいた

長男の誠は小学生の時は英徳の初等部に通っていたが
中学生になったタイミングで渡米し
司の元で過ごしていた

どんな経緯があって子供だけを呼び寄せたのかは分からなかったが
道明寺家の一人息子ということで
跡取りとしての期待も大きかったのだろう

だがこの長男が超問題児だった

まぁ、問題児だろうがなんだろうが
あの司の子供なのだし俺達がガキだったころの事もあるし
と思っていたが

実際は俺達なんて霞むくらいの問題児だった

暴力沙汰は日常茶飯事

それに加え中学生の頃から酒だけではなくドラッグにまで手を出していた


だけどそれらは司の時と同じように
揉み消され表に出る事はなかった

荒れた生活は年齢を重ねる事に落ち着くどころか
ますます酷くなり

今から一年前にとうとう取り返しのつかない事件を起こしてしまった

大学の春休み中に友人達とマイアミを訪れていた誠は
あろうことか酒とドラッグを服用し完全にラリっている状態で
市街地で司に買ってもらった高級スポーツカーを運転し事故を起こした

無残にも大破した車体が事故の衝撃の大きさを物語っていたが
本人は足の骨を骨折しただけで命には別条は無かったが
スポーツカーには同乗者がいた

現地で知り合った女子大生を助手席に乗せて
市街地を時速１５０キロでぶっ飛ばし
パトカーに追われ逃げている途中で反対車線へと飛び出し
対向車と正面衝突してしまった

この事故で同乗していた女子大生は死亡し
反対車線を走行中だった車には親子が乗っていて
母親は死亡、娘は重傷を負うという重大な事故だった

真昼間の市街地での事故

高級スポーツカーでの飲酒運転
おまけにドラッグを服用していて
パトカーとのカーチェイスの末
二人の女性が死亡し少女が重傷を負うという大事故は
瞬く間にSNSで拡散してしまい流石の司でもどうしようもなかった

その後、警察の発表で運転していた誠の体内からは
大量のアルコールとドラッグが検出されたと報道されると

大財閥の御曹司・・甘やかされて育った特権階級のお坊ちゃまの蛮行として
ネット上では大炎上していた

ここまでならまだ救いようがあったのかもしれないが・・

その後の調べで大破したスポーツカーから大量のドラッグが発見された

例え今までのように揉み消すことが出来なくても
被害者に誠心誠意謝罪し反省の意を表すことで
なんとかやり直すチャンスはあったのかもしれないが

車内から発見されたドラッグの量が多すぎた

アメリカではドラッグの所持に関して
その分量で量刑が大幅に変わる

ある一定量を超えるドラッグを所持していた場合
例えそうでなくても売人だと判断され
その量刑は一気に重いものとなる

誠が所持していたドラッグの量がその一定量を超えていたため
売人だと判断されたうえに飲酒運転、人身事故、その他諸々の量刑が加味され
裁判で仮釈放無しの終身刑の実刑判決を受けてしまった

誠が事故を起こした辺りまでは司も親として行動していたが
ある時期を境に全く誠に関わるのを止めてしまっていた

俺は日本にいたが親友の息子が起こしてしまった大事件に
親友の事が心配になりそれとなく司の身辺を探っていて
そのことに気が付いた

まず事故のすぐ後

誠がまだ入院中にも関わらず司はそれまで仮面夫婦を続けていた妻と離婚し
長男を道明寺の戸籍から除籍し

誠の弁護のために付けていた道明寺の顧問弁護士を引き上げさせた

流石に息子に愛想を尽かせたのかとも考えたが

それにしても離婚後は顧問弁護士も引き上げさせて
尚且つ、元妻を相手に慰謝料請求の裁判を起こしていた

そして気が付いた

誠の道明寺家からの除籍が
司と誠の親子関係が不成立だという理由だったことに・・


恐らく司は今まで知らなかったのだろう

誠が本当に自分の子供だと思っていたから
数々の犯罪行為を揉み消してきたのだろう

だけどここにきて親子関係が不成立という結果に
司は一気に妻だった女と息子だった誠を排除した





「血が繋がって無かったってことか・・？」


「あぁ、でもずっと自分の息子だと思ってたんだと思うぞ。
じゃなきゃ今まで揉み消したりしてねぇだろうからな」


「でも司が自分の子供だと思ってたってことは・・
いずれにせよつくしと二股掛けてたってことだろーが！？
今さら俺達になんの用があんだよ？！」


「そう興奮すんな！
司の意図は分かんねぇけど・・
一つ言えるのはここに来て道明寺家から跡取りが居なくなったって事実だ」


「もしかして司は明日香を？！」


「あぁ、ここにきて三日もこっちに居るってことは
もしかしてって考えている。
だから俺達もこっちに来たんだ。
明日香は今、牧野と一緒なんだよな？」


「あぁ、今夜、こっちに帰ってくる予定になっている」

「そうか・・とりあえず今頃は滋と桜子が牧野と合流してるはずだし
類んとこのＳＰが付いてるから大丈夫だとは思うけど油断は出来ない」








あきらの語った言葉は衝撃的だった

今さら司と息子に血の繋がりが無かったなんて
どうでもいい

俺達には関係の無い話しだ

俺だって明日香とは血は繋がっていない

それを今さら隠すつもりも無いし

明日香本人にもちゃんと伝えてあるし

真之介と香奈子も知っているし
どうして本当の父親と一緒に居られなかったのか
その辺りの事情は
明日香が高校を卒業し看護学校へと進学する時に
俺が明日香に伝えていた

事実は事実として

俺と明日香は血が繋がっていない

だけど戸籍には俺の実子だと表記されている

それは出生届を出す直前に俺がつくしにも内緒で婚姻届けを出したから

そして明日香という名前を付けたのも俺だという事

静かに俺の話しを聞いていた明日香は

全てを聞き終わった後

本当の父親に会いたいかという俺の問いかけに

首を横に振り

”私の本当のお父さんはお父さんだけだから”


と言って笑った

その笑顔に思わず涙が零れ落ちそうになり

慌てて明日香から目を逸らしたのを覚えている

俺は血の繋がりなんて気にしてはいない

だけどそれは最初っから分かっていたからなのだと思う

明日香が生まれる前から知っていて

生まれてきた明日香を見て

心の底からこの子の父親になりたいと思ったから

だけど司は違う

ずっと自分と血の繋がった息子だと思って育ててきた

それがここにきて突然

それが覆された

司の衝撃は大きかったと思う

二十数年間信じてきた物がもろくも崩れ去り

全てが嘘のように感じられたのだろう

そんな司の気持ちも分かるから

息子との縁をすっぱりと断ち切ってしまった

司を非難する事は出来ないけれど


だけどそれとこれとは話しは別だ

それは司の問題であって

俺達家族にはなんの関係もない

ましてや道明寺家の跡取りなんて知ったこっちゃねぇ！

つくしと明日香を捨てたのは司の方だ

そして俺は一人で生きていこうとしていたつくしと出会った

俺とつくし

何が何でもお互いじゃなきゃダメだって熱い気持ちがあったわけじゃないけれど

今の俺はつくしを愛しているし

つくしだって俺を愛している

そして俺とつくしは父親であり母親であり

俺達は家族だ

今さら司なんて必要ねぇ














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