怜 1 -残響-
必ず↓の『本日は・・』という記事をご一読の上
心の準備をしてからお進みくださいませ!
それではどうぞ~❤
フランクフルトから列車で約6時間
ドレスデンに着いた時にはもう夜だった
今夜はドレスデンで一泊し翌朝
レンタカーを借りエレベ川に沿うように車を走らせる
川を遡るように車を走らせること一時間
ラーテンという村に到着した
人口300人程のこの村を一言で表すならば
風光明媚
絵葉書や絵画の中に出てきそうな
可愛い建物が建ち並びまるでハイジの世界
そんなドイツの田舎の村をわざわざ東京から訪ねたのは
私の原点でもある長年の疑問の答えを知っている人から真実を聞くため
私の名前は久保明美
歳は41歳
家族は旦那と生意気盛りの中学生の息子と猫
職業はジャーナリスト
そして私がジャーナリストを目指した原点である事件の真相について
調べる為に海を越えはるばるドイツまでやってきた
その事件と言うのは今から25年前に起こった
当時、日本中を驚愕させていたある殺人死体遺棄事件
私は当時、16歳
高校生になったばかりだった
栃木県にある県立高校の一年生
自宅から学校までは自転車通学
どこにでもいる田舎の女子高生だった
そんな私の日常が一変したのは
私が高校一年生だった冬
部活終わり
冬の早い日暮れの中、自転車で帰宅した私を出迎えたのは
自宅前に山なりになるマスコミだった
驚きと戸惑いで足を止める私に群がるマスコミの人達
そんな私に気付き慌てて自宅へと引き入れたのは父
父の名前は牧野進
自宅に入りその父から聞かされたのは・・
父の姉の遺体が発見され
更に姉の息子
私にとっては従兄妹となる人が亡くなったという事実
それまでの私は父に姉がいたことは知っていたが
一度も会ったことは無く況してや従兄妹がいたという事は知らなかった
そしてこの二人の死が
私がジャーナリズムを目指すきっかけとなった
身元の確認にと警察に呼ばれ戻った父の憔悴した表情を私は今も鮮明に覚えている
初夏のドイツ
ラーテン村の標高は高くはないが
湿気の多い日本よりはるかに過ごしやすく
夏の入り口だが風が吹くとまだ少し肌寒さを感じさせるほど
赤いとんがり屋根の可愛いお家
お屋敷というほどの大きさではないけれど
それでも周囲の家々よりは大きく立派な建物
よく手入れされた庭には色とりどりの花が咲いていた
その家の前に車を停め
木製のドアの前に立ち
一度、深呼吸をしてからノックをした
ノックをすると中からすぐに反応があり
ドアを開けてくれたのは若いドイツ人のお手伝いさんだった
お手伝いさんに案内されて入った家の中は
決して華美ではなく落ち着いた雰囲気で
通されたリビングのソファーに私がわざわざここまでやってきた
お目当ての人物がこちらを向いて座っていた
「初めまして、久保明美です。
お忙しい所をわざわざお時間を作っていただきありがとうございます」
そう挨拶をするとその人は柔らかな笑みを浮かべながら
「いいえ、こんな所までお呼びだてしてごめんなさいね。
どうぞお座りになって」
そう言って指し示された目の前のソファーへと腰を下ろした私
会うのは今日が初めて
写真は見た事はあったがそれもかなり昔の物で
今回の訪問に関しても話しをしたのは彼女の代理人だという人物で
ここに来るまで言葉を交わしたこともなかった
目の前に座るのは育ちの良さを感じさせる上品な婦人
年齢は70歳を超えているけれど
ピンと背筋を伸ばし座るその姿や
白髪だがまだまだ豊かな髪と
肌には艶がありとても70歳を超えているようには見えない
そんな彼女の名前は三条桜子
旧華族、三条家のお嬢様
彼女はあの事件の真実を知る重要な人物
長年、日本を離れドイツのこの田舎の村で過ごす彼女が
真実を知る最後の人
「それで何をお知りになりたいのかしら?」
単刀直入に向けられた言葉に背筋を正す
「真実です」
「真実?」
「はい、真実です」
「真実ならすでに白日の下に晒されているはず。
あなたもご存じでしょ」
「いいえ、真実は晒されてはいません。
私が知っているのは事実だけです。
私はあの時、何があったのかではなく
どうしてああなってしまったのか・・その真実が知りたくてここまで来ました」
「どうしてああなってしまったのか・・
それに関してはわたくしにも分からないわ・・
だけどわたくしが分かる範囲でよければお話しさせていただくわ」
「よろしくお願いします」
その言葉を合図に彼女はゆっくりと記憶を辿るように
その視線を窓の外へと向け
やがて彼女は独り言のように静かに語り始めた

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