怜 3 -残響-
予約投稿です。🎵
それではどうぞ~❤
「初めて会ったんですよね?
なのにどうしてあなたはそこまで考えたのですか?」
「そうね・・理由は色々とあったわ。
ただ一つ言えるのは・・わたくしは真相を知っていたってことかしら・・」
「真相ですか?」
「えぇ、道明寺さんが先輩と別れて
滋さんと結婚をしなければならなかった・・その真相かしら・・」
「えっ?それって・・どういう意味でしょうか?」
道明寺さんと滋さんの結婚が発表されてからのわたくしは
あの方たちとは距離を置いていた
わたくしにとって一番は先輩
道明寺さんは初恋の人だったけれど
あの頃のわたくしにとってはただそれだけの相手
美作さんも西門さんも花沢さんも
そして滋さんも
道明寺さんを通じて親交のあった方々とは
道明寺さんと先輩が別れてしまった後は
わたくしから距離を置いていた
現実を見たくなかっただけなのかもしれないけれど
あの方々を通じて道明寺さんと滋さんを感じたくなかったから・・
そんなわたくしが思いがけず新婚旅行中の滋さんと再会したのは
ドイツのフランクフルトで催されたパーティーでだった
あの夜
久々に対面した滋さんと道明寺さん
道明寺さんの表情は暗いもので
結婚式から数カ月続く新婚旅行の疲れ
と言われればそれを信じる人もいただろうけれど
わたくしにはそんな疲れなどとは違った
彼の心の諦めにも似た絶望感のような物を感じ取っていた
そしてずっと傍らに寄り添っていた滋さんの表情は対照的で
幸せに溢れた新妻
キラキラと輝いていた
二人っきりになった時には先輩への呵責を口にしながらも
喜びを隠しきれずわたくしに対して不自然なまでに
先輩の分まで道明寺さんと幸せになると強調していた滋さん
その笑顔に違和感を感じ
わたくしはすぐに調べ始めた
旧華族の家柄
財力という面では道明寺さんや滋さんには及ばないにしても
家柄という武器がある
先祖代々脈々と受け継がれてきた家柄という武器を使い調べられた事は
道明寺さんと滋さんの結婚は
どうしても道明寺さんを諦めきれなかった滋さんがご両親に頼み込んで
実現した政略結婚だった
滋さんとの結婚話が再浮上した当初、道明寺さんは強固に拒否を続けていた
そのタイミングで表には出ていないけれど
道明寺社内で重大な問題が起こり
その事によって道明寺さんは
滋さんとの政略結婚を受け入れざるを得なくなってしまっていた
その問題を仕組んだのは滋さんと滋さんのご両親
まんまと騙されていた道明寺家
そしてその事実に今でも気が付いていない・・
いや・・
もしかしたら道明寺さんのお母さまは
気が付いているのかもしれない
気が付いていて
それを良しとしているのかもしれない
だけど道明寺さんは気が付いていない
滋さんは表向きは先輩の存在を理由に
政略結婚には抵抗している風を装いながら
実は裏で着々と計画を進めていた
そして晴れて夫婦となった二人
ドイツで会った二人の対照的な表情
報告書を読んで全てに納得出来たわたくし
だからといって
あの当時のわたくしにはそのことを公にするつもりは無かった
今さら何を言っても無駄
そんな諦めにも似た気持ちがあった
だからそれ以降は道明寺さんだけでは無く
日本からも距離を置いていた
そして優紀さんからの連絡で緊急帰国し
暖人に会ってそのことをひどく後悔した
そしてすぐに行動した
まず先輩の行方を探すことから始めた
「貴方が個人的に探し始めたんですか?」
「えぇ」
「どうして警察に届け出なかったんですか?」
少し責めるような強い口調でそう告げた私に対して
三条さんは少しだけ目を細め軽く笑みを浮かべた
その笑みを見た時、私は何故か三条さんのその表情の中に
私に対する軽い哀れみや侮蔑が込められているように感じられて
少しだけムッとしたのを覚えている
「貴方は正義を信じてらっしゃるのね」
「はい、信じています。ダメでしょうか?」
「いいえ、全然ダメじゃなくってよ」
「私はジャーナリストとして正義を信じています。
そして同時にこの世界には矛盾がある事も理解しています。
だけど私はそれでも最後には正義が勝つと信じています」
「そうね・・最後には正義が勝つ・・
貴方は本当に先輩によく似ている」
「私が伯母にですか?」
「えぇ、正義感が強くてどこまでもお人好しで
他人を信じて許す事が出来る。
だからこそジャーナリストなんて職業を選んだんでしょうね。
話しを戻すわね」
あの時のわたくしの頭の中にあったのは
とにかく暖人を守らないとという思い
それと同時に感じていたのは
先輩が自分の意志で失踪したのでは無いという思い
先輩が暖人を置いて行くわけは無い
そして先輩のこの失踪に滋さんが関わっているという妙な確信
わたくしの考えが当たっているのならば一筋縄ではいかない
正攻法では先輩の行方は探し出せない
わたくしに連絡をくれた優紀さんの判断は間違っていない
滋さんが関わっているかもしれない以上表立っては動けない
警察に失踪届けなんてもってのほか
道明寺さんや滋さんだけではなく
花沢さん達にも勘付かれないように秘密裏に調べる必要があった
「どうして花沢さん達にまでって思ったかしら?」
「はい」
「わたくしは誰も信用していなかったからよ。
あの人も知っていたはずなの特に勘の鋭い花沢さんが
滋さんのした事に気が付いてないなんて有り得ないって思っていたからよ。
だからあの人達は知っていて口を噤んでいるんだと思っていたから信用していなかったの」
「それで貴方は何を知ったのですか?」
「何も・・大した事はなにも分からなかったわ」
「分からなかったのに貴方は確信されたんですか?」
「えぇ、分からなかったからこそ確信出来たのよ」
「意味が分からないのですが?」
「そうね・・でも、よく考えてみてちょうだい
人が一人失踪すると言っても簡単じゃないって事よ」
「簡単じゃないですか?
実際、日本では今でも年間何万人もの人が失踪していて
そのほとんどの人が行方不明のままですけれど?」
「そうね、だけどそれは探さないからじゃない?」
「確かに・・」
「警察に失踪届けを出しても
いい大人が行方不明になっただけじゃ探さないでしょ?」
「はい、余程の事件性が無いと探さないと思います」
「でしょ。だけどわたくしはできる限りの手を尽くして
先輩の行方を探したのよ。それでも何も出て来なかったのよ」
先輩の行方を探す前提として
まず先輩には失踪する理由は無い
寧ろ暖人を置いて一人でなんて有り得ない
だから当日の先輩の行動に不審な点は無いはず
普通に
いつも通りに行動していたはず
優紀さんの話しでは
先輩は当初、滋さんからの会いたいというメッセージを拒んでいた
今さらという思いが強かったのだろうし
暖人の事を知られるのを恐れていたのだろう
それなのにわざわざ会いに東京まで出かけて行ったのは
当時、住んでいた場所を知られたくなかったのと
滋さんに道明寺さんの事で相談したい事があるからと言われたから
お人好しにも程がある
無視すれば良かったのに
今さら話す事は無いと突き放せばいいだけだったのに・・

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