怜 7 -残響-
予約投稿です❣(^^♪
それではどうぞ~❤
彼が彗星のごとく
日本の芸能界に現れた時の事はよく覚えている
大学を卒業後、本格的にモデルとして活動し始めた彼
180センチを超える長身に
長い手足に小さな顔
鍛え抜かれた身体に一見すると冷たい印象を与える目元も
笑うと目尻が下がり柔らかい印象を与える
そのギャップと公表されているプロフィールが
年齢とスイス出身ということだけで
ミステリアスさも相まって
彼はあっという間にトップへと登りつめた
CMの数は20社近くになり
テレビや雑誌で彼を見ない日はないほどだった
そんな彼にとって運命とも言える
出会いをしたのは24歳の時
彼の元に道明寺HDと清涼飲料水のCMの話が舞い込んだ
あの出来事について
彼から証言を得る事は出来ない
何故ならあの日
あの運命の夜
彼もまた
母親と同じように
旅立ってしまったから
彼が道明寺HD関連のCMに出演してから2年後
おめでたい話題に日本中が湧いていた
それは
怜と道明寺財閥総裁の一人娘の婚約
怜は自身の異母妹と婚約をした
今となってはその異様さは分かるけれど
当時は誰もがこの二人が異母兄妹だとは思いもよらず
トップモデルと財閥のお嬢様の婚約に湧いていた
二人並べば人目を引く美男美女カップル
誰もが羨む婚約だった
婚約に至った経緯は公判記録には詳しくは書かれてはいなかったが
そもそもお嬢様の方が怜の大ファンで
怜に会う為にCMを依頼した経緯があり
当時の二人を知る周囲の証言では
とにかくお嬢様の方が怜にべた惚れで
彼女がまだ大学生にも関わらず婚約を発表したのは
大学を卒業後すぐに結婚を望んだかららしい
怜は26歳
お嬢様は21歳
お嬢様の名前は道明寺真愛(まな)
警察の調書には
彼女の複雑な家庭環境が詳しく書かれていた
真の愛と書いてまな
誰もが羨む大財閥の一人娘
幼い頃より苦労など知らず
蝶よ花よと育てられた生粋のお嬢様
そんな彼女もまたこの物語の重要な登場人物の一人であり
被害者であり加害者
彼女の両親は道明寺司と道明寺滋
この二人で間違いはない
だけど彼女がこの世に誕生した経緯は少し複雑
道明寺氏夫婦の間は
彼女が生まれるずっと以前から冷えきっていて
とても夫婦と呼べるような間柄ではなかった
会話もなければ
身体的な接触など皆無で
妻である滋さんの証言によると
25年にも及ぶ結婚生活の中で
一度も身体の関係はなかったと証言している
政略結婚の果ての完全なる仮面夫婦
それでも結婚当初はまだ希望を持っていたと話した彼女
その希望が打ち砕かれたのは新婚旅行から戻ってすぐだった
新婚旅行から戻ると道明寺氏はお屋敷に寄り付かなくなり
二人が顔を合わせるのは夫婦で出席するパーティーのみ
そんな状況で跡取りとなるべく子供など生まれてくるはずもなく
娘の真愛は人工授精で誕生した
結婚すれば
結婚さえしてしまえば
彼だって私を見てくれる
子供が出来れば
子供さえ生まれれば
彼だって自分の子供は可愛いはず
そんな淡い期待もことごとく裏切られてきたと証言した滋さん
道明寺氏は娘の真愛さんに対しても情愛の念を抱くことはなく
母親である滋さんもまた自身が抱えていた闇に呑み込まれ
娘を省みる事が少なかった
真愛さんは自身はずっと孤独だったと語っている
そんな彼女の孤独を埋めてくれたのが怜だったと
警察の調書に書かれていた
そんな二人の婚約が発表されてすぐ
婚約のお披露目パーティーの会場で
起こった出来事が高校生だった私の未来を大きく揺さぶった
道明寺財閥が世界に誇るメープルホテル
道明寺氏のお母様の名前を冠したラグジュアリーホテルの
大広間で執り行われた婚約パーティーには
国内外から招待客がつめかけていて
まさに道明寺家の威信を掛けたパーティーだった
大人になった今
落ち着いて考えてみると
この婚約に対して多くの疑問がある
いくら夫婦仲は冷えきっているとはいえ
大財閥の一人娘
唯一の後継者だった真愛さんが付き合う相手ともなれば
それなりに身辺調査がされたはず
三条さんが準備した個人情報が完璧だっただけなのかもしれないが
婚約パーティーにさえ姿を表さない彼の両親のことなど
色々と疑問はあったはず
それなのに
何故、婚約を許したのだろうか?
私はその疑問を三条さんにぶつけてみた
「道明寺氏は彼の経歴や家族のことなど
色々と疑問に思わなかったのはどうしてだと思いますか?」
「そうね・・実際は疑問に思っていたんだと思うわ。
あの子のあの見た目から道明寺さんを連想するのは容易かっただろうし
滋さんは先輩が道明寺さんの子供を生んでいる事を知っていたから・・
実際ね、滋さんはかなりしつこく調べていたのよ
でも結局、確証を得られなかったのね。
疑問はあった疑ってもいた・・
だけど怜が暖人だという確証が得られなかったんでしょうね・・
それでもわたくしは道明寺さんに対しては一縷の望みを持っていたのよ・・
もしかしたら道明寺さんなら気が付くんじゃないかって・・
気が付いてあの子を止めてくれるんじゃないかって思っていたの」
「でも気が付かれなかったんですよね?」
「えぇ、わたくしは昔の道明寺さんしか知らなかったから・・
先輩と一緒にいた頃の道明寺さんなら
きっと気が付いたはずなのに・・
彼もまた長い時間の中で変わってしまったのね・・」
「そのことに絶望されましたか?」
「いいえ、人は変わるものでしょ?
わたくしも貴方だって・・誰だって
時間と共に変わるものでしょ?
だからそのことには絶望なんてしないわ」
絶望などしないと答えた三条さん
なら
彼女の中にある物は何なのだろう?

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