怜 16 -残響-
本日も『怜』です。
それではどうぞ~❤
私信です。
☆様
こんばんは~🎵
コメントありがとうございます。❤
そのアイデア貰っちゃいます❣(^^♪
曖昧な形のまま
事件は幕引きをされ
暫くは圧力の存在を疑われたが
それも時間の経過と共に消え
まるで何事もなかったかのように世界は回っている
だけど私は忘れた事はなかった
長い時間
この出来事に関わってきて
私でさえ
心の中の霧は晴れないままなのだから
当事者だった
三条さんや道明寺氏はどんな想いを抱えながら生きてきたのだろうか?
最後に一番聞きたかった
疑問をぶつける
「三条さんは結局、誰も罪に問えなかった事実をどう受け止められたのですか?」
「そうね・・まず貴方とでは前提が違うわね」
「どう違うのですか?」
「そうね・・まず前提としてわたくしや道明寺さんは
結局は滋さんと同じ世界の人間だということね・・
それから・・わたくしも道明寺さんも先輩や貴方のような
常識も優しさなんかも持ち合わせてはいないのよ」
「それはどういう意味なのでしょうか?」
「そうね・・わたくし達は誰も司法による解決を望んでいなかったということかしら」
わたくし達は誰も司法による解決など望んではいない
そんな物がなんの慰めにもならない事を知っているから・・
だから道明寺さんが・・
いや
道明寺さんだけではなく他の三人も
そしてわたくしも
掛けた圧力はただ一つだけ
司法による解決は望んでいない
これだけ
後は全て向こう側の判断
もちろん当事者として当時、検察側は
道明寺さんに事情聴取をしていて
道明寺さんもそれには応じていた
だけどそれは形だけ
滋さんとSPだった男性の聴取の裏付けを取っただけで
回数は一度だけそれも2時間程で終了している
そしてわたくしの元にも検察側から聴取の申し出があった
わたくしの場合は道明寺さんとは違って特殊な事情があった
それは暖人の事
暖人の戸籍を偽造し別人として
日本へと帰したのはわたくし
当時の検事総長が自らドイツまで足を運び
首都ベルリンにある日本大使館の大使公邸で
わたくしは検事総長と会った
それに関しても事情聴取と呼べるような物ではなく
ただの確認だけだった
暖人の戸籍を偽造したのは
わたくしかどうかの確認だけ
普通
この場合
一般的な社会常識と法律上の問題点を鑑みれば
まず問題となるのは先輩が失踪した時に然るべき機関に届け出なかった事
幼かった暖人と優紀さんを別人として出国させた経緯や
わたくしと優紀さんが先輩の家族には何も知らせず
暖人を養育していた事や再び今度は別人として帰国させた経緯など
いくつもの分岐点でわたくしはいくつもの違法行為を行なってきた
それらには一切触れる事は無く
検事総長はわざわざドイツまで出張してきて
わたくしに確認したのは暖人の身元だけで
わたくしの違法行為に苦言を呈する言葉もなかった
「普通では考えられないでしょ?」
「はい・・とても・・」
「でもね、これがわたくし達が生きてきた世界なのよ」
「家柄や財力などがあれば司法制度も無視出来るということでしょうか?」
「えぇ、それがこの世界の現実よ」
「私はそんな世界が良い世界だとは思えません・・
ですが・・そんな現実がある事も分かっています・・
その上でお聞きします。その後、貴方がたはどうされたのですか?」
「そうね・・どこまで話していいのかしらね」
三条さんは私の質問に
初めて少し考え込むような仕草を見せられた
「私は全て真実を知りたくてここまで来ました。
ですがここで見聞きした事の全てを世の中に発表するつもりはありませんし
ジャーナリストとしての私の良心に従って決して三条さんの事を口外するつもりもありません」
「大丈夫よ。そこは気にしてはいないわ。
そうね・・今はもうあの当時の関係者は
全て地獄に居るでしょうから貴方には全てお話しするわ」
そう言って語られた真実は
俄に信じられない物だった
常識では全く考えられない現実
まず暖人さんと優紀さんの出国時新しいパスポートを準備にするにあたり
手を貸したのは当時の法務大臣で
暖人さんが帰国する時に作成された戸籍も
別人だが当時の法務大臣だった
検事総長が忖度とかってレベルでは無い
「当時の法務大臣が手助けしていたの
だからわたくしに対する事情聴取など無意味でしょ?」
「はい・・無意味ですね・・
でもそうなると当時の法務大臣は
伯母が失踪した事などをご存知だったのではありませんか?」
「いいえ、政治家は余計な事は知りたくない人種なのよ。
だから知っていたのはわたくしが二人の人間を別人に変えたがっているということだけよ。
それ以上はもしもの時に言い逃れが出来ないでしょ?」
わたくしの罪を追求するという事は
現役の法務大臣の罪を追求するということ
司法制度の根幹を揺るがす事態になる
そんな事をしても誰も得はしない
全て損か得かで動く人達なのだから・・
そして道明寺さんにしても同じ
道明寺さんと話しをしたわけじゃないから
あの人の本心までは分からないけれど
あの人の行動なら容易に想像が付く
「貴方が罪に問われなかった理由は分かりました。
ですがもう一つ・・私ではどうしても分からない事があります」
「何かしら?」
「それは不起訴になった後の滋さんとSPだった男性の所在と
暖人さんへの殺人罪で起訴されたはずの真愛さんの行方です」
伯母の件に関与した二人は不起訴となりすぐに釈放されていたが
暖人さんへの殺人罪に問われていた娘の真愛さんに関しては
逮捕後の情報が極端に少ない
彼女に関しては事件直後から
彼女の生い立ちや事件の背景などから
世間の目には同情的な部分が多くあり
その論調も母親である滋さんとは全く違った物だった
世界的な大財閥の一人娘
誰もが羨む環境で育った彼女だったが
その内実は両親が不仲だっただけではなく
存在さえ否定するかのような両親の態度など
同情すべき物ばかりだった
彼女の証言の中で一番印象に残っているのは
“お父様と初めて会ったのは小学二年生の時でした。
それまで私はお父様の存在は知っていましたが
会った事も話しをした事もありませんでした”
“お父様に初めてお会い出来た時は嬉しくて初めまして、
真愛ですとご挨拶しましたがお父様とは目さえ合いませんでした”
と検察の聴取に答えていた真愛さんは
どうしてお父さんと会えないのか誰かから説明されていましたか?の問いかけに
“いいえ、でもお父様はお忙しい方だったので
仕方が無いのだと思っていました”
と答えていた
そして母親である滋さんに対しても
幼い頃よりほとんど接触はなく
周囲に居たのはシッターさんとメイドさんだけだったと答えている
愛されるはずの両親からの愛情を全く受けずに育った彼女が求めた物は
自身を愛してくれる存在だった
そしてそれが暖人さんだった
なのに彼もまた偽りの愛で彼女を裏切り
最悪な結末を迎える事になってしまった
そんな彼女が壊れてしまったとしても誰も驚かない
彼女を殺人罪で起訴するかどうかの判断の過程で
彼女の精神鑑定が行なわれ
その結果
彼女の心神喪失が認められ
不起訴となったが
釈放後はすぐに療養の為施設へと入所している
私が勤めている新聞社には
当時の真愛さんを取材していた先輩記者がいて
当時の彼女の様子などを聞いた事があった
彼女は完全に壊れていたわけじゃない
あの状況では寧ろその方が地獄だったんだ
完全に壊れてしまっていたら彼女は何も感じないまま
自分の世界だけで生きていけただろうに・・
彼女にはまだ心が残っていたんだ・・
だから苦しんでいた・・
自分がした事を後悔していたんだ・・
そう語っていた先輩記者
その真愛さんに関してもその後の消息は全くの不明で
死亡届けなどは出されておらず書類上はまだ生きている事になっている
そして滋さんとSPだった男性に関しても同じような状態で
滋さんに関しては保釈後、道明寺氏との離婚が成立していて
大河原姓に戻っていて海外へと移住したとの噂もあったが
その消息は不明のままで
彼女もまた書類上では現在も生きている事になっている
SPだった男性に関しては家族より失踪届が提出されていて
数年後に失踪宣告がされている
年齢的に考えて現在でも存命の可能性は低いが
死亡の経緯などは全く謎のまま
現在でも男性の息子さんが存命だが
事件後、男性は妻と離婚し
妻と息子は氏名を変えひっそりと生活をしている
男性に関してはそこまで調べる事が出来たが
滋さんの真愛さんに関しては全く情報が出てこない
そしてここに来て三条さんの言葉が大きな意味を持ち始める
当時の関係者は全て地獄に居る
わたくしが最後の一人
彼女のこの言葉の意味は・・

応援ありがとうございます。