１３０億とちょっとの女 ５ －３０億の女－

夕べ、結局あれから何度掛け直しても

道明寺は応答せず



類はずっと笑ってたけど・・



何がしたいのか？



さっぱり分からない道明寺の思考に

イライラが募っただけだった




帰り際、類が




“司、来月から暫くあっちに行く予定になってるから
そのうち連絡してくるんじゃない”




だった




へぇ〜



暫くあっちなんだ・・





類の言った暫くっていうのが

どれぐらいの期間なのかは

聞くタイミングが無かったから分からないんだけど・・



それを聞いたあたしは



へぇ〜って思っただけ




そして



それならこの訴えも案外あっさりと終わるかも？


なんて・・



なんとなくなんだけど


桜子に言ったら


“何を呑気なこと言ってるんですか？！”



ってまた怒られるかもだけど



ちょっとだけそう思ったんだけどね・・



やっぱり？



案の定？



あたしのその考えは甘くて・・



まさか


まさか


翌朝



事務所に出てすぐ



朝一から


叫ぶ事になるなんて・・













「本当によろしいのですか？」



「さっきからうるせぇーぞ！西田！
俺がいいっつてんだろ！？
さっさとそれあのバカ女のとこ届けて来い！」





「畏まりました。
それではこちらはわたくしが直接
責任を持って牧野様の事務所に届けさせていただきます」



「さっさと行って来い！」




「では」





一礼して司様のオフィスから出る




やれやれ




そうなのです

　
まだ



やれやれが継続中なのでございます



いえ




益々、拗れております


全く何がされたいのか？


理解不能でございます




自身のスマホに牧野様が直接連絡をと

条件を付けられている司様



牧野様からはここ数日に亘り


幾度か連絡が入っております



合計五回



常識的な回数でございます



ですがそれが司様には

ご不満なようなのです


司様曰く



“あいつは緊張感ってもんがねぇのか？！
普通、あんな金額の損害賠償されてたら焦ってもっと連絡してくんだろ？！”




だそうでございます



確かに



司様が仰っている事は一理あるとは思います


思いますが！


前提がおかしいのです


牧野様のお立場からすれば



とっくの昔に婚約を解消したはずの相手から

訴えられたのでございますよ



意味不明だと思います



そして訴え自体が無効だとお考えになられているはずです


わたくしでもそう考えるでしょう



前提が違うのです



ですが司様はそのような些細な違いなど

露ほどにも気になさってはおられません





今はただ牧野様から久しぶりに掛かってくる

お電話が嬉しくて仕方がない


なので直ぐに出てしまっては

楽しみが終わってしまう


それに少しぐらい焦らしてやろう


というプレイ中なのでございます




そしてそろそろ牧野様からの連絡に

出てやってもいいかなとお考えだった昨夜


事件が起こってしまったのでございます


事件などという表現は些か大袈裟かとも思いますが


司様にとっては大事件だったのでございます



昨夜、司様はまだオフィスでお仕事中でございました


夜もふけて


時間は午後９時を回った頃でございました


わたくしはちょうど少し休憩をと思い

司様にコーヒーをお持ちしたところでございました



コーヒーを司様のデスクに置いたと同時に

デスクに置かれていた司様のスマホが振動いたしました


牧野様からのお電話だと思われたのでしょう


着信を告げた途端


司様の表情が明るくなり


明らかに嬉しそうでございましたが・・



画面に表示された



花沢様のお名前に表情は一瞬で元に戻り


渋々といった表情で電話に出られておりました



が！



すぐにその表情は見る見る間に変化し

鬼のような形相に・・



何事かと思っていると


司様はおもむろに電話を切られ


その不機嫌さを体現されるように

乱暴にスマホをデスクへと投げ出されました



どうやら花沢様からの電話口に

牧野様がお出になられたようで・・



その後は・・


もうお分かりだと思いますが


全く仕事になりませんでした



幸いスマホは無事でございましたが


ご愛用の万年筆とコーヒーカップと

決済待ちの書類が何枚かが犠牲となりました



万年筆もコーヒーカップも司様の為の特注品でございます


被害総額は約１６０万８４６０円（税込み）でございます




そして最後に司様はわたくしに



“考えていたコンペのアイデアが今ので飛んだ！
賠償金に足しとけ！”




と仰られたのでございます


今の説明で




皆さまにはわたくしが先日申しました

ポンコツという意味がお解りいたたけたかと思いますが・・



新しく作り直された訴状を手に



徹夜明けの午前６時



朝日が目に滲る


秘書の西田でございます









朝８時過ぎ


事務所に行くと桜子は既に来ていて


すぐに封筒を手渡して来た




「なにこれ？
新しい案件？」



「いいえ、今朝、道明寺さんから届けられた
新しい訴状です」




「はぁ？新しい訴状って？
意味分かんないんだけど？なに？」



「先方は先輩が直接確認して欲しいとの事でしたので
わたくしも中は見てませんから」



なんなのよ一体？



あっ！もしかして訴えを取り下げるとか？



・・・なわけないか？



ん？



とにかく中を確認してみる



でね・・・



請求額が・・・



１３０億とんで１６０万８４６０円（税込み）？




ハァ？！！！！






ふ、増えてんじゃん！













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