プリズム １４

クソッ！


だから言っただろーが！


俺様の言葉を無視して出社なんてするからだ！



牧野を傷つけやがって！


全員纏めて息の根を止めてやるからな！


覚悟してろよ！




牧野の一報を聞き大河原をぶっ潰せ！と

指示を出した俺を諫めるように制した西田



大河原の事は滋に任せろとか抜かしやがった


これが終わったらあいつも纏めて東京湾に沈めてやる！




だがまずは牧野だ



傷ついているであろうあいつのフォローが先決だと思ったから


牧野の携帯を鳴らすが・・



出ねぇ・・



心配になりあいつに付けているＳＰに所在を確認すると


週末から一緒に住んでいるマンションの部屋に

戻っている事が分かったので

急いで部屋へと帰った










牧野って女は俺達にとって大切な仲間の一人だが


その出会いは特殊で

どう考えてもあそこから友情が芽生え

その後、何年もその関係が続くなんて

出会った頃には夢にも思っていなかった


どこにでもいる庶民の女


同じ学校に通っていなければ・・


いや


同じ学校に通っていたとしても

俺達とは接点なんて無いと思っていた


実際、あの時まではそうだった


なのに何の因果か・・


同じ時間を過ごし今や俺達にとっては無くてはならない存在の女


なんだこいつ？


面白い女



はっきり言って今でもそう思っている


そんな牧野に降りかかる数々の災難


災難と言ったが


まさにその通りで司の事にして両親の事にしても


面白いように災難が降りかかり


その都度、その持ち前の根性で乗り切ってきた女


いつの間にか


こいつから目が離せなくなり


いつの間にか


こいつの訳の分からない魔力に捉えられてしまっていて


いつの間にか手の掛かるもう一人の妹のような存在になっていた


類はソウルメイトを自認し


総二郎は一番弟子＝おもちゃだと言っていて


俺に至っては妹




そして今さら説明するまでもないが


先日、無事に人間社会に復帰した俺達のリーダーの司は

高等部の頃から牧野の事を女神だと公言して憚らない



それぞれがそれぞれの立ち位置で牧野と関わる中で


また災難に見舞われてやがる


今回はちょっとだけ自業自得な部分もあるにはあるが


自業自得な部分はあいつが鈍感だったって事だけで


ほぼほぼあいつに非は無い



まぁ、百歩譲って浮気された側からしてみれば

既婚者だと知らなかったとはいえ

浮気されていたのだから慰謝料を請求したくなる気持ちも・・


正直、分からねぇけど


理解は出来る



それにあいつの性格からしても

男に騙されていたとはいえ既婚者だったって事実に傷つくと同時に

相手の奥さんに対して罪悪感を抱いているだろう



だからけじめとして慰謝料を支払うのもアリだと考えていた


だが考えていたのはそこまでだ


それ以上の行為は許容範囲外だ



特にあの男だけは絶対に許さない



それが俺達の考えだった


それなのに朝一から飛び込んできた不穏な情報


滋んとこに送られてきた告発文と

それを理由にあいつを謹慎にした人事部長




告発文の出処はすぐに礼の男の嫁さんだと判明しているし

こちらは既に西田が動いている

人事部長に関しては大河原の車内問題だから滋に任せるとしても




元凶となった男だけは許せない



あの男の身柄は司が押さえているという情報は入っていたから

西田にこっちに渡すよう連絡を入れた



今頃は美作の人間が道明寺から身柄を受け取っている頃だろう


さて今回はどんな方法を使おうか


牧野を傷付けてくれた礼はたっぷりとしなきゃだろ？


だから奴にはなにかスペシャルな方法で


最後の花道を飾らせてやろう










マンションに帰り着き

部屋へと足を踏み入れる


玄関には今朝、牧野が履いて行ったヒールが脱ぎ置かれたまま



そのヒールを横目にリビングへと入って行くと

明かりも付けずそのままの姿で

ソファーに座りボーッとしてやがる



予想以上に凹んでいるその様子に慌ててあいつの横に腰を下ろし

抱き寄せるとそんな俺に抵抗するも事なくされるがまま

大人しく抱かれている牧野



「大丈夫か？」



「・・・ん、大丈夫・・」



珍しく弱々しい声でそう返した牧野



「全然、大丈夫じゃねぇだろ？！
ムリすんな！」



「・・ん・・ムリはしてないけど・・
今回の事は自業自得だから・・ごめんね・・あんたにも迷惑掛けちゃって・・
それに滋さんにも・・ちゃんと謝らないと・・」




「俺に迷惑なんて気にすんな！
滋にしてもお前に謝って欲しいなんて思ってない。
今回の事はお前は悪くねぇだろ？悪いのはあの男だろーが！
それにあんな文章を送りつけた奴が悪ぃんだし
お前の言い分も聞かねぇで謹慎にした人事の野郎も間違っている。
だからお前の責任じゃねぇから気にすんな！」




「ん・・でも迷惑掛けちゃってるのには変わりないから・・
それに向こうの奥様が傷付かれてるのは事実だし・・
やっぱり・・これ以上、滋さんに迷惑掛けたくないし・・退職しなきゃなぁって・・
こんな事で辞めたくはなかったから悔しいけど・・我が儘言ってられないし・・」





「お前の気持ちも分かるけど
お前が退職する理由は俺と結婚するからこれ一択だ！
それ以外は有り得ねぇ！ため息ばっかつくな！
胎教に悪ぃーだろーが！りんも心配してんぞ！笑え！」




「胎教って・・それこそ有り得ないでしょ？
それに不倫してた女となんてあんたのお母さんは絶対に許さないでしょ？」



「なんで俺の結婚にババァが関係あんだよ！？
それこそ有り得ねぇだろーが！」




「いやいや！大いに関係あるでしょ？」



「ねぇーよ！今さらババァが口出ししてくるわけねぇーだろ！
それにもし口出ししてきたらいい機会だ
今度こそ息の根止めてやるから心配すんな！」



「そんな・・息の根止めてやるなんて・・」




「いいんだよ！とにかくお前は何も心配しなくていいから俺に任せてろ！
分かったな？間違っても勝手に動くなよ？！いいな？」





そう言い聞かせ念のため屋敷からタマを呼び寄せ

始末をつけるためにオフィスへと戻った
















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