Oh～！ 17

青ざめた顔でブルブルと震えている三人組

道明寺が本気で怒っているのが分かる

私でも久々に見たこの顔


「ど、道明寺？…私は…」

大丈夫だから…

そう続けようとしたんだけど


「お前は黙ってろ！」


狭い給湯室に道明寺の鋭い声が響いて身体がビクリと反応する


ダメだ…彼女達…殺されちゃう！


本気でそんな馬鹿な考えが浮かんでくるほどの感情の渦を道明寺から感じる


どうにかして止めなきゃ！

そう思った時に後ろから西田室長の声が道明寺に届いた


「司様！」

「何だ？！」


睨み付ける視線は彼女達に向けたままの道明寺


「医務室からドクターに来ていただきました。
まずは牧野様の診察をお願いいたします」


その言葉で道明寺の身体から少しだけ力が抜けたのが分かった


「分かった」

鋭い視線と意識はまだ三人組に向けられたままだったけれど
道明寺は私を横抱きに抱き上げると給湯室を後にした



道明寺に抱き上げられたままオフィスへと入ると

そのままソファーに座った道明寺


私を横抱きにしたままなんだけど…


いつもみたいに下ろしてよ！なんて言える雰囲気じゃなくて

されるがままなんだけどね


入ってきたドクターが男の人だったから
更に道明寺の怒りのボルテージが上がっちゃって


私をソファーで横抱きにしたまま診察どころじゃなくなってしまった


男の人っていっても７０過ぎたおじいちゃん先生じゃん！


いつもならそう言ってもぅ！いい加減にしてよ！って軽口叩けるんだけど


今日は流石に無理で道明寺の膝の上で大人しくしたまま


西田室長に助けを求めるような視線を送るのが精一杯


「司様、少しでも早い方がよろしいかと思いますが」


「ど、道明寺…？ちょっと痛くなってきたから診てもらいたいんだけど…」


下から見上げるようにしてそう告げるとやっと少しだけ力を抜いてくれた



高等部を卒業後、ＮＹへ渡られた司様の秘書兼教育係となって１０年近くの歳月が過ぎた


恐らく私が一番近くでこのお二人を見てきたと思っている


ＮＹへ渡ってからの司様の血の滲むような努力を間近で見てきた
牧野様にしても司様の意向で英徳大学へと進まれた後
在学中の成績は常にトップクラス
語学力にも磨きを掛けられ英語は元よりフランス語にスペイン語をマスターされ
最近では中国語にドイツ語、そして簡単な会話ならタイ語まで習得なされた努力の人


牧野様が美作様の秘書になられると聞いた時は酷く落胆したのを覚えている

成績はトップクラスに加えての語学力は道明寺ＨＤとしても牧野様は是非とも欲しい存在で
何より牧野様がご友人達から猛獣使いと称されている事を以前より知っていた私は
司様の精神衛生上、牧野様がお仕事中もお側に居られる事を切に願っていた

なのに卒業後は美作様の秘書となられ
瞬く間にその能力を開花させ近頃では美作様が次々と難しい案件を成功させているのは
優秀な秘書がついているからだと噂になるほど

実はその噂には続きがあり美作様と牧野様の息の合ったやり取りに
お二人は恋人同士で近々、婚約が発表されるのではないかと囁かれていた

そんな噂は当然、司様の耳にも入っていて
先日の海外出張の際には長年付き従っている私でさえ
呆れてしまう程、司様の美作様に対する風当たりは強く

牧野様が海外出張に出られていた２週間の司様のご機嫌は最悪を通り越していて
事態を重くみた楓社長が秘密裏に美作社長に
牧野様の引き抜きを打診する事態にまでなっていたが

帰国後、不幸が幸いして瞬く間に事態が動き
昨日から牧野様が司様の秘書として仕事を開始され
楓社長も”怪我の巧妙ね”とホッと胸を撫で下ろされていたばかりだった


牧野様が秘書をされるに当たり司様からは
“あまり忙しくさせるな！”と指示が出ていた


要はご自分の相手をして欲しいという事だと理解しているが
そのような状況を牧野様が享受されるはずはないから
これから少しずつ私の仕事を牧野様にお願いしながらと考えていた


牧野様が司様の秘書に付かれて安堵した反面
当然、他の秘書にも目を光らせてはいたが
昨日の今日で早くもこのような問題が引き起こるとは思ってもみず
自身の認識の甘さを反省している


目の前で青くなっている三人の女性秘書


三人共にコネ入社

頭の中で三人の評価表を思い浮かべる


林結衣 ２５歳 入社３年目
父親は大手外食チェーンの創業者で現会長の末娘
現在、社長をしている長男とは歳が２０も離れていて
年を取ってから生まれた為、甘やかされて育った典型的なお嬢様
勤務評価は最低レベル かろうじて英語が話せるが海外旅行で困らない程度

二人目は浅野亜希 ２４歳 入社２年目
父親は地方の信用金庫創業一族で古くから地元では地主として有名で
数年前に所有していた土地が新幹線が開通し地価が高騰し
経営していた不動産開発会社にかなりの利益をもたらしていた


三人目は水野沙耶 ２４歳 入社２年目
浅野亜希とは同期
父親は中堅の食品物流会社を経営しているがこれといって特色はなく
都内の私立の出身

浅野、水野共に勤務評価は最低レベルでコネがなければ到底
道明寺には入社出来ないレベルだったが
それぞれの父親が各重役と知り合いで行儀見習いの名目で秘書として勤務させているだけの三人組



以前より司様に対し特別な感情を抱いている事は分かっていたが
司様ではなく他の重役付きの秘書である事と
それなりに節度を持った勤務態度だった為
特に問題だとは認識していなかった

司様が最も嫌がられる事


それは牧野様が傷つかれる事


ご自分を理由に牧野様へ悪意の刃が向く事を最も心配されていて
日頃から神経を使われている


そしてその心配が現実の物となった時の司様の怒りは凄まじいものがある

決して牧野様にはお見せにならないが昨夜の空き巣の件しかり

牧野様を傷つけた相手に対する冷酷なまでの仕打ちには

長年側に仕えている私でさえ背筋が寒くなる程


昨夜、コンテナで香港へと送られた二人に

香港到着後待ち受けているのは人身売買を主な生業としている組織の人間


あの二人の行く末は地獄だけ


今回はそこまでは行かなくても彼女達を待ち受けているのはこの世の地獄だろう


どちらにしても今回は後始末が大変そうだ



三人には会議室で待つようにと伝え司様のオフィスへと入って行くと


司様の膝の上に抱き抱えられ困ったような視線をこちらへと向けてこられる牧野様

どうやらドクターが男性だった事がお気に召さなかったようで

大事そうに牧野様を抱き抱え診察の為に牧野様の足首に触れようとしたドクターを威嚇されていた











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