修羅場ってる? 4
こんにちは。
本日も『修羅場ってる?』です🎶
司君…💧
それではどうぞ~✴
昨日の台風、皆様のお住まいの地域は大丈夫でしたでしょうか?
停電等の被害に遭われた全ての方々にお見舞い申し上げます。
管理人の住む地域でも台風の影響を受けましたが
前回のような被害はなくホッとしております。
ご心配いただきありがとうございました。
私信です
☆様
こんにちは。
コメントありがとうございます。😆
返事が遅くなってごめんなさいm(__)m
ご心配いただきありがとうございます。
幸い被害なく通りすぎてくれてホッとしております。
西門流のピンチを救うべくみんなには頑張ってもらおうと
思っています!( ^-^)ノ∠※。.:*:・'°☆
そろそろ司君にも出てきてもらわないと…💧
この生活も後少し
昨日やっと最後の茶器を取り戻し
後は決着を付けるタイミングを計っていた
そんな中、西門さんの奥様から会いたいと連絡が入った
見知らぬ番号からの着信
無視する事も出来たけれど
仕事柄、覚えのない番号から掛かってくる事はよくある事
大して意識せずに出てしまってから後悔したのは確かだけど
写真でしか見たことの無かった彼女に興味があったのかもしれない
それに直接的に不正には関与していないとはいえ
西門さんとの結婚を強く望んだ女性に会ってみたいと思っていた
奥さんと会う約束しているからと告げた時の西門さんの
何とも言えない表情に笑っちゃった
なるべく人目のある所で会えよ!間違っても二人っきりになるなよ!
だとか…
SP連れて行けよ!とかなんかあったらすぐに電話して来いよ!だとか…
彼なりに心配してくれているのは分かるんだけどね…
かなりウザくて適当に返事を返しただけだった
さっきから手にしたままだった携帯が何度か彼からの着信を告げていたけれど
私はそれに応えていない
後少し…
後少し…
で終われる
何もかも
終われる…
はずだったのに!
予想外の展開にこの先が全く読めなくなってしまった
RRRRRRRRR RRRRRRRRRRR
この着信は出なくちゃマズイ
「はい、牧野です。」
『西田から報告は受けました。後の事はこちらで引き受けます。』
前置き無しで始まる会話
「よろしくお願いします。」
『牧野。』
「はい。」
『わたくしは来月、ジュネーブで行われる国際会議に出席します。』
彼女が私にスケジュールを告げる意味は
私にジュネーブまで来いという意味
それまでに諸々の事の処理を済ませ報告しろって事
「分かりました。」
無駄な会話は一切ない電話を終えると
続けざまに携帯が鳴った
着信相手は美作さん
「もしもし?」
『おぅ!お前、大丈夫だったか?』
「うん…まぁ…色々とハプニングはあったけど何とかね…」
『ハプニング?』
「うん、まぁ、色々とね。
私、これからちょっとバタバタしそうだから西門さんの事はお願いね。」
『そうか、分かった。
なんかあったらすぐに連絡してこいよ!』
「うん、分かった。ありがとう。」
バタバタの理由を美作さんは深く追及してこなかった
まぁ、彼にしてもまさかこのタイミングで道明寺の記憶が戻り
本妻VS愛人の修羅場?に乱入してきたなんて夢にも思っていないだろうけど…
でもね…
これからの事を考えるとため息が出る
読んでいた決裁書類から目を離し
秘書が置いていった冷めかけのコーヒーを飲もうと
カップに手を伸ばした拍子に脇に置いていた万年筆にトンと指先が当たり
万年筆がコロコロと机上を転がり床へと落ちた
ただ、それだけだった
転がる万年筆を目で追いかけチッと軽く舌打ちをし床から拾い上げようと腕を伸ばした瞬間
目の前からは万年筆が消え
古い映写機から流れる早送りの無声映画のように
忘れていた大切な…
本当に大切な…
俺の全てだった…
少女の怒った顔
少女の泣いた顔
少女の笑った顔
洪水のように溢れだす感情に溺れる
言い様の無い息苦しさに込み上げてくる様々な感情
思わず執務室の隣の仮眠室のバスルームに飛び込んだ
何故?
意味の無い問いかけ
昔、医者に言われた言葉
『司様は記憶の一部を欠損されているようです。』
一部?
何が一部だ!
彼女は俺の全てだったのに…
記憶が欠損している…そんな事すら忘れていた
完璧に作り上げられていた強固な砦に囲まれた虚構の世界
それが自らの意志で作り上げた道明寺司の世界だった
それが全てだった
砦の中には自分一人だけ
他の誰も必要としない
完全なる孤独
孤独を彩るのは虚構
その世界で王のように振る舞い
魂が朽ち果てるまで
君臨し続けるはずだった
溢れ出た感情は強固な砦を瞬く間に砂上の楼閣へと変え
王を道化師へと変えた
己の傲慢さや愚かさに気付かず過ごした年月
少女だった女は大人の色香を漂わせる女に変身していた
まるで蛹から蝶へ孵化するように…
艶やかに傷痕を隠しながら飛びだってしまった…
それは過ぎてしまった時間の長さではなく
彼女に対する己の悪行の数々
忘れるはずが無い
自身が犯してきた罪の数々
赦されるはずはない
その後、仮眠室のバスルームで冷水を浴び倒れていたのを西田に発見された俺は
仮眠室のベッドで意識を取り戻した
意識を取り戻した俺に何も言わなくても西田は分かったようで
ただ一言だけ
『本日はこのままこちらでお休み下さい。
それから、つくし様は現在日本にいらっしゃいます。』
と告げ仮眠室から出て行った
あいつは日本に居る
そして俺も今、日本に居る
来年には日本支社の支社長に就任する事が決まっていて
その下準備のためには3ヶ月の予定で帰国していた
そのタイミングで俺は無くした事すら忘れていた大切な記憶を取り戻していた
会いたい
彼女に会いたい
勝手なもので記憶を取り戻してからの俺の中にある感情はそれだけ
結婚していた時は時折掛かってきていた電話も送られてきていたメールも読むことすらせずに無視していたのに
今さら記憶が戻った…それが何の言い訳にもならない事ぐらい分かっている
だから西田にも彼女の事は何も聞かないまま日本での仕事をこなしていた
毎日がただ虚しいだけ
早くこの人生が終わればいいとさえ思っていた
そんな日常の中で偶然、彼女に再会した
本当に偶然だった
会食が終わり夜のパーティーまでの数時間
夕方の中途半端な時間帯にポッカリと時間が空いてしまった
いつもなら目一杯スケジュールを詰め込ませているのに
今日に限って西田が
『最近、お疲れのご様子でしたのでこの後のパーティーまでのスケジュールを空けさせていただきました。
2時間程ですがお部屋でお休み下さい。』と告げてきた
クソッ!余計な気を回しやがって!
牧野の事を思い出してからは
少しでも時間が空くと彼女の事を考えてしまう
考え始めると朝も昼も夜も
思考だけでなく生活の全てが彼女に
囚われてしまう
だから彼女の事を考える隙を与えないよう
目一杯仕事を入れさせていたのに
突然空いた時間は苦痛以外の何者でもなく
一人ホテルの部屋でただただ彼女への想いに支配され
身動きがとれなくなる
一人の空間に耐えられなくなり
少し飲もうと下のバーへと移動した
部屋を出るとすぐ待機していたSPが周囲を取り囲む
それには構わずエレベーターに乗り込みバーへと移動した
バーへ入ってすぐ異変に気付いた
入口を塞ぐように立っていた二人の男が
俺の姿を確認して少し表情を変えた
明らかにSPと分かる体格の二人は
俺がバーへと入って行く事に少し戸惑いを見せたが直ぐに表情は元の無表情に戻り道を開けた
カウンターに座りバーテンが酒を出すまでの間
店内へと視線を走らせ
気がついてしまった…
中途半端な時間帯
人影も疎らな店内の
一番奥のボックス席に座る彼女
スツールから思わず腰が浮く
最後に彼女を見たのは確か離婚を切り出す直前
どうしても外せない夫婦同伴のパーティー
離婚の時でさえ俺は彼女と会おうとしなかった
その彼女が今、すぐそこにいる
カウンターの位置から見えるのは
彼女の横顔
髪はあの頃と違い
ブラウンに染められ軽くウェーブが掛かっている
艶やかなその髪を耳に掛け
真っ直ぐに前を向いている視線
意志の強そうなその横顔が
あの頃の…
17歳だった…
俺が好きだった…
あの頃のままで…
見惚れてしまう
声を掛けるべきか?
いや…
今さらどの面下げて彼女の前に立とうというのか…
声を掛ける資格など
俺には残っていない
彼女が俺の妻でいてくれていた二年間
俺は一度も彼女の名前を呼んだ事はなかった
それどころか…名前すら興味がなく
知らなかった…
バカな男だ…
自分でもそう思う
離婚を申し出た時、お袋に呼ばれ
オフィスで言われた言葉が今更ながらに
見えないナイフとなって胸を抉る
『あなたがこれほどまでに愚かだとは思わなかったわ。
今ならまだ間に合います、よく自分の人生を考えなさい。後で後悔しないようにね。』
あの時の俺はお袋に
『後悔なんてするわけねぇーだろ!』
とだけ残しオフィスを出た
後悔なんてするわけ…
なかった…
はずなのに…
なにやってんだろ…
俺は…
声を掛けることも出来ない
立ち去ることも出来ない
動けないまま彼女の横顔を見つめていた
彼女は誰かと会っているようだったが
ここからは相手が誰なのか見えない
ただ、彼女の横顔が少し眉根を寄せ
手で鼻の下辺りを押さえた時
相手が立ち上がり目の前のグラスの中身を彼女にぶちまけた
その瞬間、頭に血が昇りカッとなったのが分かった
もう止められなかった
自分でも抑えが効かない
さっきまで散々、自分には資格がないだとか考えていたくせに
彼女にグラスの中の物をぶちまけた相手目掛け突進していた
グラスの中の物をぶちまけた相手が続けざまに放った言葉
総二郎の愛人?
突然現れた俺に怯んだ女は俺と牧野を睨み付けながら立ち去った後も
まだ、一度も彼女と目が合っていない
こちらを振り向くつもりはないと
意思表示するように頑なに前を向いたままの彼女の視界に入るよう体をずらした
何が言いたかったのだろう?
俺は…
彼女に…
何を言うつもりだったのだろうか?
責めるつもりなどなかったはずなのに
俺の口をついて出たの言葉は…
彼女を責める言葉ばかり
総二郎の…
その続きを言いかけた時、初めて彼女の視線が動いた
目が合った…
そう思った瞬間、彼女の視線は俺を通り越し
いつの間にか後ろに控えていた男に向けられていた

応援ありがとうございます。
本日も『修羅場ってる?』です🎶
司君…💧
それではどうぞ~✴
昨日の台風、皆様のお住まいの地域は大丈夫でしたでしょうか?
停電等の被害に遭われた全ての方々にお見舞い申し上げます。
管理人の住む地域でも台風の影響を受けましたが
前回のような被害はなくホッとしております。
ご心配いただきありがとうございました。
私信です
☆様
こんにちは。
コメントありがとうございます。😆
返事が遅くなってごめんなさいm(__)m
ご心配いただきありがとうございます。
幸い被害なく通りすぎてくれてホッとしております。
西門流のピンチを救うべくみんなには頑張ってもらおうと
思っています!( ^-^)ノ∠※。.:*:・'°☆
そろそろ司君にも出てきてもらわないと…💧
この生活も後少し
昨日やっと最後の茶器を取り戻し
後は決着を付けるタイミングを計っていた
そんな中、西門さんの奥様から会いたいと連絡が入った
見知らぬ番号からの着信
無視する事も出来たけれど
仕事柄、覚えのない番号から掛かってくる事はよくある事
大して意識せずに出てしまってから後悔したのは確かだけど
写真でしか見たことの無かった彼女に興味があったのかもしれない
それに直接的に不正には関与していないとはいえ
西門さんとの結婚を強く望んだ女性に会ってみたいと思っていた
奥さんと会う約束しているからと告げた時の西門さんの
何とも言えない表情に笑っちゃった
なるべく人目のある所で会えよ!間違っても二人っきりになるなよ!
だとか…
SP連れて行けよ!とかなんかあったらすぐに電話して来いよ!だとか…
彼なりに心配してくれているのは分かるんだけどね…
かなりウザくて適当に返事を返しただけだった
さっきから手にしたままだった携帯が何度か彼からの着信を告げていたけれど
私はそれに応えていない
後少し…
後少し…
で終われる
何もかも
終われる…
はずだったのに!
予想外の展開にこの先が全く読めなくなってしまった
RRRRRRRRR RRRRRRRRRRR
この着信は出なくちゃマズイ
「はい、牧野です。」
『西田から報告は受けました。後の事はこちらで引き受けます。』
前置き無しで始まる会話
「よろしくお願いします。」
『牧野。』
「はい。」
『わたくしは来月、ジュネーブで行われる国際会議に出席します。』
彼女が私にスケジュールを告げる意味は
私にジュネーブまで来いという意味
それまでに諸々の事の処理を済ませ報告しろって事
「分かりました。」
無駄な会話は一切ない電話を終えると
続けざまに携帯が鳴った
着信相手は美作さん
「もしもし?」
『おぅ!お前、大丈夫だったか?』
「うん…まぁ…色々とハプニングはあったけど何とかね…」
『ハプニング?』
「うん、まぁ、色々とね。
私、これからちょっとバタバタしそうだから西門さんの事はお願いね。」
『そうか、分かった。
なんかあったらすぐに連絡してこいよ!』
「うん、分かった。ありがとう。」
バタバタの理由を美作さんは深く追及してこなかった
まぁ、彼にしてもまさかこのタイミングで道明寺の記憶が戻り
本妻VS愛人の修羅場?に乱入してきたなんて夢にも思っていないだろうけど…
でもね…
これからの事を考えるとため息が出る
読んでいた決裁書類から目を離し
秘書が置いていった冷めかけのコーヒーを飲もうと
カップに手を伸ばした拍子に脇に置いていた万年筆にトンと指先が当たり
万年筆がコロコロと机上を転がり床へと落ちた
ただ、それだけだった
転がる万年筆を目で追いかけチッと軽く舌打ちをし床から拾い上げようと腕を伸ばした瞬間
目の前からは万年筆が消え
古い映写機から流れる早送りの無声映画のように
忘れていた大切な…
本当に大切な…
俺の全てだった…
少女の怒った顔
少女の泣いた顔
少女の笑った顔
洪水のように溢れだす感情に溺れる
言い様の無い息苦しさに込み上げてくる様々な感情
思わず執務室の隣の仮眠室のバスルームに飛び込んだ
何故?
意味の無い問いかけ
昔、医者に言われた言葉
『司様は記憶の一部を欠損されているようです。』
一部?
何が一部だ!
彼女は俺の全てだったのに…
記憶が欠損している…そんな事すら忘れていた
完璧に作り上げられていた強固な砦に囲まれた虚構の世界
それが自らの意志で作り上げた道明寺司の世界だった
それが全てだった
砦の中には自分一人だけ
他の誰も必要としない
完全なる孤独
孤独を彩るのは虚構
その世界で王のように振る舞い
魂が朽ち果てるまで
君臨し続けるはずだった
溢れ出た感情は強固な砦を瞬く間に砂上の楼閣へと変え
王を道化師へと変えた
己の傲慢さや愚かさに気付かず過ごした年月
少女だった女は大人の色香を漂わせる女に変身していた
まるで蛹から蝶へ孵化するように…
艶やかに傷痕を隠しながら飛びだってしまった…
それは過ぎてしまった時間の長さではなく
彼女に対する己の悪行の数々
忘れるはずが無い
自身が犯してきた罪の数々
赦されるはずはない
その後、仮眠室のバスルームで冷水を浴び倒れていたのを西田に発見された俺は
仮眠室のベッドで意識を取り戻した
意識を取り戻した俺に何も言わなくても西田は分かったようで
ただ一言だけ
『本日はこのままこちらでお休み下さい。
それから、つくし様は現在日本にいらっしゃいます。』
と告げ仮眠室から出て行った
あいつは日本に居る
そして俺も今、日本に居る
来年には日本支社の支社長に就任する事が決まっていて
その下準備のためには3ヶ月の予定で帰国していた
そのタイミングで俺は無くした事すら忘れていた大切な記憶を取り戻していた
会いたい
彼女に会いたい
勝手なもので記憶を取り戻してからの俺の中にある感情はそれだけ
結婚していた時は時折掛かってきていた電話も送られてきていたメールも読むことすらせずに無視していたのに
今さら記憶が戻った…それが何の言い訳にもならない事ぐらい分かっている
だから西田にも彼女の事は何も聞かないまま日本での仕事をこなしていた
毎日がただ虚しいだけ
早くこの人生が終わればいいとさえ思っていた
そんな日常の中で偶然、彼女に再会した
本当に偶然だった
会食が終わり夜のパーティーまでの数時間
夕方の中途半端な時間帯にポッカリと時間が空いてしまった
いつもなら目一杯スケジュールを詰め込ませているのに
今日に限って西田が
『最近、お疲れのご様子でしたのでこの後のパーティーまでのスケジュールを空けさせていただきました。
2時間程ですがお部屋でお休み下さい。』と告げてきた
クソッ!余計な気を回しやがって!
牧野の事を思い出してからは
少しでも時間が空くと彼女の事を考えてしまう
考え始めると朝も昼も夜も
思考だけでなく生活の全てが彼女に
囚われてしまう
だから彼女の事を考える隙を与えないよう
目一杯仕事を入れさせていたのに
突然空いた時間は苦痛以外の何者でもなく
一人ホテルの部屋でただただ彼女への想いに支配され
身動きがとれなくなる
一人の空間に耐えられなくなり
少し飲もうと下のバーへと移動した
部屋を出るとすぐ待機していたSPが周囲を取り囲む
それには構わずエレベーターに乗り込みバーへと移動した
バーへ入ってすぐ異変に気付いた
入口を塞ぐように立っていた二人の男が
俺の姿を確認して少し表情を変えた
明らかにSPと分かる体格の二人は
俺がバーへと入って行く事に少し戸惑いを見せたが直ぐに表情は元の無表情に戻り道を開けた
カウンターに座りバーテンが酒を出すまでの間
店内へと視線を走らせ
気がついてしまった…
中途半端な時間帯
人影も疎らな店内の
一番奥のボックス席に座る彼女
スツールから思わず腰が浮く
最後に彼女を見たのは確か離婚を切り出す直前
どうしても外せない夫婦同伴のパーティー
離婚の時でさえ俺は彼女と会おうとしなかった
その彼女が今、すぐそこにいる
カウンターの位置から見えるのは
彼女の横顔
髪はあの頃と違い
ブラウンに染められ軽くウェーブが掛かっている
艶やかなその髪を耳に掛け
真っ直ぐに前を向いている視線
意志の強そうなその横顔が
あの頃の…
17歳だった…
俺が好きだった…
あの頃のままで…
見惚れてしまう
声を掛けるべきか?
いや…
今さらどの面下げて彼女の前に立とうというのか…
声を掛ける資格など
俺には残っていない
彼女が俺の妻でいてくれていた二年間
俺は一度も彼女の名前を呼んだ事はなかった
それどころか…名前すら興味がなく
知らなかった…
バカな男だ…
自分でもそう思う
離婚を申し出た時、お袋に呼ばれ
オフィスで言われた言葉が今更ながらに
見えないナイフとなって胸を抉る
『あなたがこれほどまでに愚かだとは思わなかったわ。
今ならまだ間に合います、よく自分の人生を考えなさい。後で後悔しないようにね。』
あの時の俺はお袋に
『後悔なんてするわけねぇーだろ!』
とだけ残しオフィスを出た
後悔なんてするわけ…
なかった…
はずなのに…
なにやってんだろ…
俺は…
声を掛けることも出来ない
立ち去ることも出来ない
動けないまま彼女の横顔を見つめていた
彼女は誰かと会っているようだったが
ここからは相手が誰なのか見えない
ただ、彼女の横顔が少し眉根を寄せ
手で鼻の下辺りを押さえた時
相手が立ち上がり目の前のグラスの中身を彼女にぶちまけた
その瞬間、頭に血が昇りカッとなったのが分かった
もう止められなかった
自分でも抑えが効かない
さっきまで散々、自分には資格がないだとか考えていたくせに
彼女にグラスの中の物をぶちまけた相手目掛け突進していた
グラスの中の物をぶちまけた相手が続けざまに放った言葉
総二郎の愛人?
突然現れた俺に怯んだ女は俺と牧野を睨み付けながら立ち去った後も
まだ、一度も彼女と目が合っていない
こちらを振り向くつもりはないと
意思表示するように頑なに前を向いたままの彼女の視界に入るよう体をずらした
何が言いたかったのだろう?
俺は…
彼女に…
何を言うつもりだったのだろうか?
責めるつもりなどなかったはずなのに
俺の口をついて出たの言葉は…
彼女を責める言葉ばかり
総二郎の…
その続きを言いかけた時、初めて彼女の視線が動いた
目が合った…
そう思った瞬間、彼女の視線は俺を通り越し
いつの間にか後ろに控えていた男に向けられていた

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