Family 59

えっ！？

キャッ！


な、なにこれ？

か、可愛いんだけど！


ほ、ほんものなの？

い、生きてるのよね？


う、動いてるからほんものよね？


ん？

なんかちょっと震えてない？


って…

イチ、ニィ、サン、シィ、ゴウ、ロク？！


ロク？

小っこいのが６匹！？


な、なんの？


さ、触っても大丈夫？

大丈夫よね？


ちょ、ちょっとだけ


重なるように箱に入っている
小っこくて茶色の子を掌で掬い上げるようにして持ち上げ
落とさないように胸元に抱き寄せた


か、可愛い～んですけど！


冬近い休日の朝


お兄ちゃんはお友達と遊びに出かけちゃって

翼は中等部に進級した後もサッカーを続けていて
今日は練習試合だって朝早くから出かけちゃったし

双子ちゃんはパパと近所の公園でお散歩中だから

珍しく部屋にはあたしだけ

気持ちのいい秋の空の元

洗濯を済ませそろそろお兄ちゃん達の冬物を整理しなきゃと
健の部屋のウォークインクローゼットに入った


健が去年、着ていたコートは…

もうダメね…

このジャケットもパンツもセーターもって具合に
成長は嬉しいんだけど不経済だ！

成長著しい二人のお兄ちゃん達のクローゼットは
サイズがダメで着れない洋服ばかり

健のは翼が着れるからいいんだけど

健のクローゼットは一年でスカスカになっちゃうほど着れなくなった洋服のオンパレード！

健のクローゼットから翼のクローゼットに洋服を運ぶこと三往復

ハァ～と一息ついた所で声に気がついた

クゥ～ン

クゥ～ン


と小さくてか弱い鳴き声に…


最初は気のせい？って思ったんだけど

動きを止め耳を澄ませてみると

やっぱり気のせいなんかじゃなくて

聞こえてくる鳴き声の出所を探ると


クローゼットの一番奥

トランクなんかを置いてある一角の壁側に隠すように
見覚えのない少し大きめの段ボールが置かれているのに気がついた


前に置かれていたトランクを除け
段ボールを引っ張り出すと

中には小っこくて可愛い６匹が
折り重なるようにしていた


胸元に抱き寄せた一匹の動きはまだ覚束なくて目もちゃんて開いていないほど

お腹が空いているのかあたしの指を吸い始めたんだけど

その力は鳴き声同様か弱く心許ない


ギャッ！

もしかして可愛い～とか言ってる場合じゃないんじゃないの？！


この子達…お腹空いてるの？


って！


健？


健よね？


この子達…何処で見つけて来たの？


じゃなくて！


その話しは後でもいいから

とりあえずはミルクよね？

弱ってるみたいだから獣医さん？

清々しい秋晴れの休日

一人パニクるあたし


ど、どうしよう？


どうすればいいの？


ワンちゃんのミルクって牛乳でいいの？


とりあえず段ボールごとチビちゃん達をリビングに移動させて
全く未知数の子犬について大急ぎでネットで調べてみると

牛乳はダメなのね…

人間の赤ちゃん用のも栄養価が違うからダメだって書いてあるし…


ワンちゃんにはワンちゃん用のがちゃんと売ってるのね！


後は哺乳瓶も！

凄い！今はペット用が色々あるのね？！

キャッ！この洋服可愛い～！

って！

今はそれどころじゃないのよ！

とりあえずワンちゃん用のミルクと哺乳瓶よね…


って事はペットショップよね？


あっ！それから念のために獣医さんも！


だけど獣医さんって日曜日でもやってるの？


普段、ペットショップも獣医さんも

意識して見ていないから全く分からなくて


パニクりながらネットで検索


その間にもチビちゃん達はか弱い鳴き声を上げ続けている


「今、調べてるからちょっと待っててね。」


一番手前にいた子の頭を撫でながら検索してみると


あった！

近くのショッピングモールの中にある獣医さんが日曜日でも診察をしていて
ペットショップも併設している

ヨシ！ここに連れて行こう！


そう決めて準備を始めたんだけど

あっ！パパと双子ちゃん！

お兄ちゃん達は夕方まで帰ってこないだろうけど
公園に散歩に行っているだけのパパと双子ちゃん達はもうすぐ帰ってきちゃうから

と、とりあえずパパに電話しよう！


パパの携帯に連絡して事情を話すと

ワンちゃんが苦手なパパは一瞬だけ黙り込んじゃったけど

すぐに帰るから待ってろ！と電話を切ってしまった









とりあえずチビちゃん達を段ボールから
大きめのバスケットにブランケットを敷きそちらに移しかえ
出かける準備は完了

でね…


パパと双子ちゃんが帰宅


バスケットに入っているチビちゃん達を見て

眉根を寄せ険しい表情のパパと

チビちゃん達にテンションが上がり
キャッキャ言いながら触りたくて仕方がない様子の双子ちゃん


「なんだよこれ？」


なんだよ？って…

さっき電話で言ったじゃん！

見れば分かるでしょ？


犬の赤ちゃんじゃん！


思ったけど言わないわよ！


言ったら捨てて来い！とかって言うのがヲチだもん！


だからなんでもない顔して


「ワンちゃんなんだけどちょっと弱ってるみたいなの。」


「なんでこんなもんがここにいるんだよ？！」


それもさっき電話で説明したじゃん！

とも言わないわよ！


「健の部屋のクローゼットで見つけたの。
詳しい事は健に聞いてみないと分からないけど
とにかく今は獣医さんに診てもらいたいの。」


に、睨まないでよ！


「と、とにかくあたし行ってくるから
桜と菫のことお願いね。」


パパの口からそんなもんほっとけ！って
言葉が飛び出す前に出かけてしまおうと
バスケットを抱え込むように持ち上げると

意外にもパパの口から飛び出したのは

“俺が連れて行ってやる！”

だった


あら？意外？！


パパの運転する車で双子ちゃん達とチビちゃん達を乗せて
調べてあったショッピングモールの獣医さんへ

日曜日だからかショッピングモールは沢山の人で賑わっていて

動物病院も沢山のペットを連れた人達が診察の順番を待っていた


受付で初めてだと告げると
人間の病院と同じような質問表を手渡され

“分かる範囲で結構ですので記入して下さい。”

なんて言われて悩む


名前？


ワンちゃんの？

まだついてません…


全部纏めてチビちゃんです…


性別？


犬種？


果てはアレルギー？

分からないことだらけで

ほとんど空欄のまま


３０分程待たされてあたしだけがバスケットを抱え
診察室に入ろうとしたら何故かパパがついてきた


「あたし一人で大丈夫だよ」


「獣医って男だろーが！？
お前を男と二人っきりに出来るか！」


「いや…チビちゃん達を診てもらうだけだから…」


で…結果


双子ちゃん達も一瞬にゾロゾロと
そう広くもない診察室へ


診察の結果…


栄養状態が良くなくて少し弱っているけれど大丈夫って事で一安心なんだけど

獣医さんに言われた言葉が気になった


“拾われたんですか？”


“動物を捨てるのは違法行為ですが、
６匹も拾われてきちんと飼育出来ますか？”


“もし飼育出来ないようであれば保護施設に引き渡される事をお勧めします。
念のため施設の連絡先をお知らせしておきますよ。”

って…


まだ生後３週間ぐらいしか経っていない小さな命

世話をするのも大変なのは分かっている


保護施設にお願いしてきちんと飼育してもらった方がいいんだろうけどね


言い方？って言うのかな…


なんかちょっとね


“どうせ面倒見れないでしょ？”的な言い方にちょっと引っ掛かって


“大丈夫です！”

って言葉が口をついて出そうになった瞬間


隣で黙ったまま獣医さんを睨んでいたパパが


“そんなもん必要ねぇ！
つくし！行くぞ！”


って…


捨て台詞を残して双子ちゃんを抱いてさっさと診察室から出ていってしまった



慌てて後を追うあたし


待合室へと出ると超不機嫌な顔のパパ


「健に今すぐに帰って来いって電話しろ！」

とだけ言うと病院から出て行ってしまった


かなり怒ってるパパ


ん～…ヤバいかも











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