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雨障(あまづつみ)ー司君編ー

こんばんは。🎶

『雨障』の司君編です。

つくしちゃん編がまだな方はそちらを先に読まれる事とオススメします。

お話しについての注意点はつくしちゃん編に明記しておりますので
そちらをご一読ください。



それではどうぞ~✴









確かにこの手にあったはずなのに…

二度と離さないと誓ったはずなのに…


気付けばこの手には何も残ってはいなかった

雨障


好き好んでプライベートをさらけ出す趣味は無いが
どんなに慎重に行動していてもほんの少しの油断から情報は漏れてしまう

こんなはずじゃなかった

いくら心の中で叫び声を上げたところで現実に変化はない

それは書類上の妻である滋にしても同じ事で
俺達は外見上は夫婦だったが本質は互いに別の場所に愛する人を待たせている同志だった



互いに愛する人の元へと帰れるのは数カ月に一度あるかないかの生活を
なんとか耐えてこられたのは確かな存在がそこにあったからこそ


それを無くしてしまえば後には何も残ってはいない


分かっていたはずなのに…

十分すぎる程に分かっていたはずなのに…


油断していた…?


いや…油断とは違う

俺は日々繰り返される激務の中で
知らず知らずの内に愛に背を向けてしまっていた


つくしを愛人という立場に追いやり


世間から隠れるように生活させていたのは
他でもない俺の責任だったのに

どうしようもない状況に追い込まれて尚
彼女の手だけは離す事が出来なかったのは俺の方なのに


たった一度、週刊誌の記者につくしの存在を嗅ぎ付けられ写真を撮られただけで
俺の足は彼女が待つ部屋から遠のいていた


つくしの存在に気付いた記者は力で押さえ込んだ
今のところ他に気付いている者はいない


だから慎重に行動すれば大丈夫なはずなのに


日々緊張の連続で疲れきっていた




今さら頭の中でどんなに言い訳を連ねたところで
心が納得する事はない


あれから30年近い時間が経ち
今、願う事はただ一つ


最後にもう一度だけ…


彼女に会いたい……



定期検診で癌だと診断を受けたのは3ヶ月前


以前より体調不良が続いていたから
このまま何も治療をしなければ余命は半年無いと告知を受けた時もたいしたショックは受けなかった


医師には厳重に口止めし
体が自由に動く間に姉貴の子供を後継者に指名し
引き継ぎを済ませ屋敷に篭った


世間的には俺は引退した事になっている


いきなりの引退も日頃からお袋の跡を継ぎワンマン経営を貫いてきたから
我が儘で自分勝手な独裁者の気まぐれだと受け止められ
病気の事を詮索される事も無く
あっさりと世間から消える事が出来た



忙しい日々から精神的にも肉体的にも解放され
人との接触を立ち周囲から雑音が消えると


心を支配するのはあの後悔の日々


今ごろになってどうしようもない程に哀愁の念が募るのは
無意識の内に残された時間が少ない事が分かっているから


だから今さらに…


思い出されるのは彼女の事ばかり


俺はあの時…


あの瞬間まで…


異変に何も気付いていなかった…


仕事のベースをNYに移していたから世間的には俺と滋の夫婦生活はNYとなっていたが


実際には俺はつくしと暮らす部屋は東京に
滋があきらと暮らしていた部屋はロンドンにあった


互いに2、3ヶ月に一度はNYから東京へ
そしてロンドンへと愛する人が待つ部屋へと帰る生活をしていた


滋とは公の場所には共に出ていたがそれ以外は全く別の生活で

数カ月顔を合わさない事もざらにあった


俺もNYと東京を行き来する生活をしながら
滋との決定的な違いは愛する人の待つ部屋へ帰らなかったという事…


つくしから電話が掛かってきていたのは分かっていたけれど


留守電に残されていた声を聞くだけで
かけ直す事はなかった


どうしてかけ直さなかったのだろうか…


どうしてちゃんと伝えなかったのだろうか…


留守電に残されていた彼女の声から言葉から…


少しづつ余裕が消えてきている事に気付きながら


彼女を思いやる余裕を持てなかった


予断を許さない経済状況の中で
何万人にも及ぶ社員やその家族の生活を守る為に
睡眠時間を削り闘っていた


道明寺に生まれた者の宿命として

道明寺司として生き残る事に精一杯で


彼女の事を後回しにしてしまった


心のどこかに彼女なら大丈夫


強い女だから


どんな逆境にも負けず俺を信じて待っていてくれると甘えがあった


今ならあの時の彼女の気持ちが分かる


広い部屋で一人


尋ねてくる人はいない


世間から忘れられた存在


唯一の存在であるはずの俺からは電話も掛かってこない


その事がどれだけ彼女を追い詰めていたのか
今ごろになってやっと理解出来た


あの日…俺は東京にいた


会議を終えオフィスで一息ついたばかりだった俺の元に

つくしの事を任せている秘書が厳しい表情で俺の前に立った


「司様、牧野様の最近のご様子なのですが…」


飲みかけていたコーヒーカップをソーサーに戻し秘書の方を見た


「あいつの事はお前に任せてあるだろ?」


「はい…仰せ付かっておりますが…
ここ2ヶ月程は全く牧野様よりご連絡が無く
そろそろ予定日も近くなってきておりますので…」


予定日が近い…


秘書に言われて思い出した


最低な俺がそこに居た


さらに最悪なのは自分が最低の男だって事にこの時はまだ気付いてなかった事だ…


「あいつの事だから何かあれば連絡してくるだろう。
何もないって事はまだ大丈夫だって事だろ」


正直…秘書と牧野の話しをするのが嫌だった


だから早く話しを終わらせてしまおうとわざと突き放したような口調で答えていた


俺の秘書ならその口調から話しはそこで切り上げるはずなのに
その時の秘書はそれでも止めず話しを続けた


「ですが…少しご様子がおかしいように感じられるのですが…」


「俺はNYと東京とどっちも分刻みのスケジュールで息付く暇もない程なのは分かってんだろーが!
つくしの様子がおかしいと思うならテメェで調べて俺に報告しろ!
それがお前の仕事だろーが!!」


つくしの事は愛していた
心の底から愛していた

だからほったらかしにしている事が気になっていたし
罪悪感も感じていた


だけどどうしても仕事が優先で
心の中で罪悪感をごまかすように
後少し…
後少しだけ…
この曲面を乗り切ればつくしと子供の三人で
新しい生活を始められると考えていた


「畏まりました」


声をあらげた俺にそれ以上は無理だと判断した秘書がオフィスから出て行った


そしてその夜…


俺は現実を思い知る事となる…



夢見た未来は確かに目の前に存在していたはずなのに

気付けば一番遠い場所にあった


突き付けられた現実に
何もかもを投げ出してしまいたい衝動に駆られたけれど


だけど純然たるもう一つの現実がそれさえも許してはくれなかった


昼間、牧野の様子を尋ねてきた秘書が
会食に出かけようとしていた俺をエレベーターの前まで追い掛けてきて
いきなり土下座した


突然の行動に不快感を示すと
秘書は一瞬顔を上げまたすぐに頭を下げ
申し訳ございませんと繰り返した


この秘書に対して別段腹を立てている事はない

ましてや土下座までして謝罪される事柄は見当たらない


秘書を無視し不快感をそのままに到着したエレベーターに乗り込もうとした時
追い掛けてきた秘書の言葉に足が止まった


「牧野様が天草氏と入籍されオーストラリアに出国され
お子様は先週ゴールドコーストの病院でお生まれになり現地の大使館に出生届も提出され
すでに受理されていてお子様は天草氏の子として戸籍に記載されております」


一気に告げられた言葉の意味が理解出来なかった


牧野が天草と結婚…?

子供はすでに生まれていて

その子が天草の子だと?


「申し訳ございません!私がもっと早く気付いていれば…
司様に信頼され牧野様をお任せされていたにも関わらず…」


「黙れ!」


「申し訳ございません」


「司様、お時間がございません」


横に控えていた西田が冷静に俺を促す


何も考えられなかった


牧野が裏切った…


その事実は俺の中に激しい怒りとなって沸き上がってきていたけれど


秘書の言葉を100%信じたわけでもなかった


ただこんな時でも俺は西田の言葉に従い
そのまま会食に出かけていた


こんな時でも俺は無意識の内に仕事を優先させていたんだ…


会食からの帰りの車内で西田から手渡されたファイル


中に記されていたのは信じがたい現実


提出された牧野と天草の婚姻届けのコピーに
大使館の印が押されている出生届けのコピー


そこで初めて生まれた子供が女の子だと知った


突き付けられた現実…

そこには恐ろしいまでに現実感が伴わない


怒りからか?


絶望なのか?


俺はここまで来ても自分がどうしたいのか分からずにいた


ただただ牧野と二人


わずかな時間を過ごした部屋に久しぶりに足を踏み入れた時


足元からゆっくりと自分が死に行くのが分かった



死神の鎌の下で血の通わなくなった自身の骸を抱える魂だけが覚えている血の温もりが
縋るような祈りの言葉を呟き続ける


願わくばもう一度だけ


最後にもう一度だけ


彼女に会いたい…


と………








~fin~









応援ありがとうございます。
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kirakira
Posted bykirakira

Comments 8

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2018/12/18 (Tue) 22:11 | EDIT | REPLY |   

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2018/12/19 (Wed) 07:53 | EDIT | REPLY |   

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2018/12/19 (Wed) 11:51 | EDIT | REPLY |   

二次小説大好き  

人生の選び方

kirakiraさんこんにちは。
「雨障」読み意味を知らなくて調べてみました…笑。
なるほどなぁと繋がりました。
このお話しは、私的には司1人がダメ男だったんだなって思いました。
司の子どもまで引き受けた金さん、あっぱれです。
女性的には妊娠中のつくしの不安な精神状態、十分に理解できます。
kirakiraさん的にはもっと色々と深い意味を持って描かれたのかと思いますが…。
ある意味ドキドキしながら読み進みました!
金さんと子どもたちに囲まれて幸せな結婚生活を送るつくし、当然有りです!!
過去の作品を拝読させて頂き、感謝です。

2018/12/19 (Wed) 15:38 | EDIT | REPLY |   

kirakira  

匿名様

こんばんは。🎶
コメントありがとうございます。😆
お久しぶりです。\(^-^)/

『雨障』を気に入って頂けて良かったです。
たまにはこんな感じのお話しも書いていこうと思っておりますので
これからもお付き合いお願いいたします。💕

2018/12/19 (Wed) 19:17 | EDIT | REPLY |   

kirakira  

悠○様

こんばんは。🎶
コメントありがとうございます。😆

『雨障』気に入って頂けて嬉しいです🎵😍🎵
シリアスな展開は難しいですよね…😅
書きながら感情移入しちゃって泣いちゃいます❗(笑)
でも、たまにず~んと重いのも書きたくなるので
これからもお付き合いお願いいたします。💕


2018/12/19 (Wed) 19:31 | EDIT | REPLY |   

kirakira  

て○と○虫様

こんばんは。🎶
コメントありがとうございます。😆

『雨障』を気に入って頂けて良かったです。💕
泣いて笑ってデットックスです❗(笑)
少しでも癒しになれば嬉しいです🎵😍🎵


2018/12/19 (Wed) 19:34 | EDIT | REPLY |   

kirakira  

二○小○大○き様

こんばんは。🎶
コメントありがとうございます。😆

『雨障』の意味まで調べていただいて嬉しいです🎵😍🎵
ほんの少しだけボタンをかけ違えてしまっただけなのに
心を残したまま別々の人生を歩んだ二人の想いが
届けばいいなぁと思いながら妄想しました。

色々なお話しをこれからも妄想していきたいと思っておりますので
お付き合いお願いいたします。💕

2018/12/19 (Wed) 19:55 | EDIT | REPLY |   

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