恋カモ?(続・ジョージ) 12 完
ペンギン部屋です。🎶
初出し部分です。♥
それではどうぞ~✴
声は発したけれどそのまま動けず
暗い部屋の中でなんとな~く見つめ合ったままのヤギと俺
なんとも言えない
俺だけがかもしれないが
微妙な緊張感の中で
先に動いたのはヤギの方だった
身体を起こし布団の上に座ったままの俺に向かってくるヤギ
視線は外せないまま布団の上で迫り来るヤギから逃れるけれど
焦る俺に全く気にする様子は無く
マイペースに一歩また一歩と俺の方へ近付いてくるヤギ
な、なんなんだよ?!
こんな夜中に俺に何の用なんだよ?!
お、俺はお前のご主人様じゃねぇぞ!
あ、あっちに行けよ!!
「こ、こっち来んな!」
ゆっくりとした動作で近寄ってくるヤギを手で追い返そうとして
顔の前で手を大きく振り回すけど
ヤギは気にする事無く俺に近寄ってくる
少しずつ後ずさりする俺と
少しずつ前進してくるヤギ
真夜中の攻防戦は俺の背中が壁に当たって万事休す!
ヌゥ~と近寄ってくるヤギの顔から逃れるように
顔を反らし両手で顔をガードするけど
赤くて長い舌が俺の耳を捕らえ舐め上げた
「ギャ~~!!」
『メェ~~』
再び部屋に木霊する絶叫!
な、舐めんじゃねぇー!!
お、俺は食いもんじゃねぇんだよ!
そ、そんなとこ舐めても美味しくねぇーし!
や、止めろよ!
これ以上、近寄ってくんな!
壁に背を付けたまま耳元にはヤギの鼻息
鼻息が荒いんだよ!
ヤギは必死に抵抗する俺をものともせずにマイペースに俺との距離を詰めてくる
そしてあろうことか髪の毛をムシャムシャやり始めた・・・
や、止めろ~!!
止めてくれ~~!!
俺は食い物じゃねぇー!!
抵抗する俺に
髪の毛をくわえて離さないヤギ
相変わらず耳元では荒い鼻息
絶体絶命の状況
だ、誰か助けてくれ~!
そんな心からの叫びが声に出たのと同時に救世主登場!!
前置き無しにいきなり開いた障子扉から顔を出したのは猛獣妻
「美作さん?どうしたの?なんかすっごい声が・・・
聞こえ・・・たけど・・・?って・・・あっ!ごめんなさい!」
「司~~!メリーさんが~美作さんに ~襲われてる~!」
オ、オイ!
ちょっ、ちょっと待て!
逆だろ?!
この場合、襲われてるのは俺の方だろ?!
顔を覗かせた途端、有り得ない誤解を口にして走り去ってしまった猛獣妻
ドタバタと走り去る足音を追いかけるように誤解だと声を上げるけど
届かず・・・
再び部屋には俺とヤギだけ
静寂の中に響くのは自信の鼓動とヤギの鼻息だけ
有り得ない誤解に一瞬だけ忘れていたが
まだ髪の毛は喰われたまま
髪を引き抜かれる痛みで我に返り
バカな誤解を解くために強引にヤギを引き離そうとするんだけど
とぼけた顔してるくせにこいつ意外と力が強い
髪を数十本?
いや・・・数百本?
この身を犠牲にして
なんとかヤギ引き離しに成功
ヤギを押し退けとんでもない誤解をした猛獣妻を追い掛けようと腰を浮かした瞬間に
ドタバタと廊下を走る足音が近付いて来て
俺の部屋の前で止まったと同時に障子扉が開きまず猛獣と猛獣妻が顔を出し
それに続いて滋に桜子、総二郎に少々の事では目を覚まさない類までもが顔を揃
えている
まず先陣を切って乗り込んできた猛獣と猛獣妻が無遠慮に部屋へと入ってくると
その後ろから雪崩のように続々と部屋へと入って来た
猛獣妻なんてその大きな瞳に薄っすらと涙を溜めながらヤギの元へと駆け寄り
ヤギの頭を撫でながら優しく話し掛けてるけど
その問い掛けがまた
「メリーさん、大丈夫?美作さんに痛くされなかった?」
って・・・
オイ!
逆だろ!?
襲われてたのは俺だぞ!
この場合、まず俺の心配するのが先だろ?!
こいつに普通を求めるのは間違ってるのかもしれないが
一言・・・いや、二言も三言も言いたい事は山ほどある!
それに明らかに猛獣妻の有り得ない誤解を信じ込んでいそうな
他のメンバーの誤解を解くためにも抗議の声を上げようとした瞬間
妻はこの世の何より神聖で不可侵な存在だと常日頃から豪語している猛獣が動い
た
「あきら!てめぇは女だったら何でもいいのか?!目を覚ませ!!」
言うが早いか中腰のまま固まっていた俺に殴りかかってきた
見事に顎にクリーンヒットしたパンチに部屋の隅まで吹き飛ばされたけど
吹き飛ばされながら思った事は
゛お前にだけは言われたくない!゛
なんて妙に冷静な感想だった
誤解を解こうにも反論する機会を与えられず
奴らの口から次々と繰り出されるのは
有り得ない誤解を鵜呑みにした言葉の数々
まぁ日頃の言動等から猛獣夫婦と滋に関しては
世間の常識は通用しないのは納得出来るけれど
残りのメンバーにはまさかこんなバカな誤解は鵜呑みにしていないだろうと
微かに期待していたのに・・・
そんな淡い期待は一瞬で脆くも崩れ総二郎までもが猛獣夫婦に同調して
「あきら・・・大丈夫か?
溜 まってんのは分かるけど・・・ヤギはよくねぇーぞ!」
だなんて・・・
心底俺を心配している風で語りかけてきやがる
総二郎・・・
お前だけは分かってくれると思ってたのに
ヤギはよくねぇーぞって!
だったら羊ならいいのかよ?!
大丈夫かって?
お前らの方が大丈夫かよ?!
溜まってのは分かるけどって・・
溜まってねぇーし!
分かって欲しくもねぇーんだよ!
軽~くパニック状態の俺の頭に浮かんでくるのは屁理屈ばかり
次々と仲間達から畳み掛けられる口撃に反論する気力は削がれ
意識は現実逃避し始め
今、降り懸かっている災難が他人事のように思えてきた
とにかく有り得ない誤解を解かないと
とは思うけど・・
数と勢いに負けて口を挟めない
「あきら君?
そんなに溜まってるんだったら滋ちゃんに相談してくれればいいのに!」
だから溜まってねぇーって!
例えこの世で二人っきりになったとしても
滋!お前にだけは相談しないぞ!!
って・・・
他の誰にもしねぇし!
そもそも俺は溜まってねぇ!
なんでこんな事になってんだよ?!
俺は被害者だぞ!
それなのにこの猛獣夫婦のせいで・・・
口々に言いたい事を話すこいつらに一気に疲れが出てきて
言い訳すら出て来なくなり黙ってしまった俺
そんな俺を見て観念したと感じたのかそれとも言いたい事を全て吐き出してしまったからなのか
やがて静かになり部屋には気まずい沈黙が下りてきた
「メリーさん怖かったね。お部屋に帰ろうっか?」
『メェ~』
ヤギは牧野に一鳴きすると集まったメンバーを誘導するように部屋から出て行っ
てしまった
誤解は解けないまま部屋に残こされたのは俺一人・・・
確かに出て行って欲しかったけど
そういうんじゃないんだ!
ちゃんと誤解を解いてから!
有り得ない誤解を解いてから!
もう一度ゆっくりと眠りにつきたいんだ!
オイ!総二郎!戻って来いよ!
ちゃんと話ししようぜ!
お前は俺をからかってるだけだよな?
類!お前だって牧野達の言っ てた事を鵜呑みにしてるわけじゃねぇよな?
この際、後の奴らはどうでもいいからお前らだけでも戻ってきて
さっきはからかって悪かったなって言ってくれよ!
そしたら俺・・・
今の事は忘れてもう一度眠りにつけるから・・・
そんな願いも虚しく再び障子扉が開く事は無く
一睡も出来ないまま朝を迎えてしまった・・・
7時を過ぎてお手伝いさんが朝食の準備が出来たと伝えに来たけれど
行きたくない!
朝食なんて食べたくない!
あいつらの顔なんて見たくない!
なかなか踏ん切りが付かずもたもたしている俺の元へ
何度も朝食だと呼びに来るお手伝いさん
最後には皆様がお待ちでございますなんて付け加えられて
やっと重い腰を持ち上げた
ダイニングに入って行くとテーブルに綺麗に朝食が並べられ
全員が顔を揃えていた
気まずい空気のまま促され席に着く
誰も声を発しない・・・
カップにコーヒーが注がれお手伝いさんが部屋を出て行き沈黙を破ったのは猛獣
妻だった
牧野は少し俯き加減のまま上目遣いにこちらを見ている
「あのね美作さん・・・」
その呼び掛けに視線を牧野の方へと向けた
「夕べはびっくりしちゃって酷い事言ってごめんなさい」
「分かってくれたんならいいよ。気にしてないから」
本当はすっげぇ気にしてるけど
誤解が解けて謝ってくれるのであれば根に持つような事はしない
俺って大人 だからな!
「ありがとう。
それでね、さっきみんなで話し合ったんだけど・・・」
話し合った?
謝る相談か?
「もういいよ。俺は気にしてないから」
「それじゃダメだよ!
美作さんは美作商事の大切な跡取りだし何より私達の大切な仲間なんだから!」
「いや・・・別にそんな大袈裟に考えなくても・・・俺気にしてないし・・・」
「私達、夕べの事は忘れるから!何も見なかった事にするから!
だから美作さんも気を確かに持ってちゃんと立ち直って欲しいの!
美作さんの為なら私達どんな事でも協力するから!」
牧野の口から飛び出した信じられない言葉に動きが止まる
今こいつなんて言った?
立ち直る?
そのための協力は惜しまない?
何から立ち直るんだ?
誤解は解けたんじゃねぇーのかよ?!
なんだよ立ち直るって?!
どう協力すんだよ?!
俺より先にお前らが立ち直れよ!!
誤解は解けるどころか奴らの中で益々妄想は膨らみ
俺は人生の落伍者扱いされている・・・
カムバッ~ク!俺の人生!
・・・って!こんな事言ってる場合じゃねぇ!
自分の人生は自身の手で取り戻さないと!!
「ちょ、ちょっと待て!立ち直るとか何の話しだよ?俺はどこも悪くないぞ!」
「まだ自覚症状がないんだね・・・可哀相なあきら君・・・」
隣の滋が小さな声でそう言ったのが聞こえた
いつも無駄に声のデカイ女が小さな声でボソリと呟くと重い・・・
一夜明けて事態はより複雑により深刻度を増している
冗談じゃねぇーぞ!?
「自覚症状とか可哀相とか全部お前らの誤解だ!!
俺は至ってまともでノーマルな男だ!!
夕べは俺がそこのバカ女のヤギに襲われた被害者なんだよ!!
くだらねぇ事ばっか言ってると全員ぶっ飛ばすぞ!!
分かったらこの話しは二度とするな!!」
昨夜の恐怖と仲間達の有り得ない誤解に我慢出来なくなって
一気に言いたい事をまくし立てた俺
そんな俺の怒りの抗議に全員ポカンと口を開け
部屋には一気にまくし立てた興奮で息が上がった俺の荒い息遣いだけが響いてい
た
ゼイゼイと肩で息をする俺
そんな俺に憐れみの視線を向けてくる奴ら
お、おれ・・・
大丈夫だよな?!
~Fin~

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