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ミッションインポッシブル 5

こんにちは。🎵

ミッションインポッシブルです。♥

それではどうぞ~✴








残ったのは俺と道明寺さんだけ・・・

空調の効いているはずの部屋の中で
嫌な汗が止まらない

道明寺さんはそんな俺なんて全く気にする様子は無く
自分のワイングラスに残っていた赤ワインを飲み干し
自らワインをグラスへと注いだ

「お前、なかなか優秀なんだってな」

おもむろに道明寺さんの口から発せられた言葉
「えっ?!」

「つくしが褒めてたんだよ。
 お前は営業部の中で一番有能で将来が楽しみだって!」

「牧野先輩が俺の事をそんな風に・・・」


予想外だった・・・

牧野先輩にそんな風に見られていたなんて思いもしていなかった

「どうなんだ?つくしの言ってた事は嘘なのか?」

「えっ・・・あっ・・・そ、それほどでも・・・
 だけど牧野先輩にそんな風に思ってもらえてたなんて・・・光栄です」

大人になると褒められる事って子供の頃に比べると極端に少なくなるし
褒められたら嬉しいんだけど気恥ずかさが先に立って
子供の頃のようには素直に喜びを表せなくなって
嬉しさを隠せないくせに曖昧な態度を取ってしまう

今の俺もまさにそんな感じだった

だけど・・・

その曖昧な態度がまさかこの後のドタバタ劇に繋がるなんて分かっていたら
何がなんでも全力で否定したのに・・・


「じゃあお前、俺の代わりをやれ!」

?????

「はぁ?・・・い、今・・・なんと・・・?」


「お前、優秀なんだろ?
 今、否定しなかったもんな!だから俺様と代われ!
 来週から俺様がお前の代わりにつくしと同じ職場で働いてやる!」


そんな目茶苦茶な・・・

「そ、そんな事・・・」


「出来ねぇーって言いてぇのか?」


「い、いえ・・・その・・・ど、道明寺さんの代わりになんて無理です!
 そんな事、不可能ですよ!!」

「俺様に不可能な事なんてねぇ!」


そういう問題じゃ・・・


あなたに不可能じゃなくても俺には不可能なんです・・



「む、無理ですよ!俺なんて逆立ちしたって道明寺さんの足元にも及ばないですし・・・
 そ、それにどうして俺が道明寺さんと代わらなきゃならないんですか?!」


「俺が道明寺司である限り今はここから離れるわけにはいかねぇーんだよ!
 なのにあのバカ女は何時まで経っても俺の所へ帰って来ようとしねぇ!
 もう限界なんだよ!」


そ、そんな理由で・・・?


「そ、それなら俺なんかと代わるより牧野先輩を説得なさった方が・・・」


「それが出来るんならとっくにやってんだよ!
 出来ねぇから代われって言ってんだろーが!」


ごもっともですが・・・

「お前、俺様が直々に代わってやるつってんのに何が不満なんだ?!」


そんな上から目線で・・・

不満とかそんなんじゃなくて・・・

なんか根本的に間違ってるよな?

「そんな・・・不満とかじゃなくて・・・」


「じゃあ何なんだよ?!はっきり言えよ!金か?」


「そんな金なんて・・・!」

「金が欲しいなら心配すんな!
 屋敷も金もお前には俺様の全部をやる!!」


屋敷も金も俺の全部って・・・

道明寺さんの総資産って一体どれぐらいあるんだ・・・?

以前、雑誌か何かで日本の大金持ちランキングなんて下世話なランキングが載っていて
道明寺さんが断トツ一位だったような気が・・・


総資産は数千億?

いや・・兆は超えてるかも?

預金通帳に0がいくつ並ぶんだろう・・?

そりゃ誰だって金は欲しいと思うだろうし
俺だって宝くじにでも当たらないかな~なんてはかない夢を見る事だってあるけど


現実には額に汗して働いて稼ぐのが一番だって知ってるし
金の怖さも分かっている

特別、人に自慢出来るような特技も夢もないけれど
それでも東京でそれなりに毎日頑張って生きている

人によってはつまらない人生だと言われるかもしれないけれど

コツコツ真面目に
俺にはそれが一番性に合っていると思っている


「お金なんて要りません!」

「じゃあ何なんだよ?!」


何なんだよ!なんて聞かれても・・・

同意しない俺に道明寺さんがイラついているのが分かるけど
こんな目茶苦茶な提案には同意なんて絶対に出来ない!


「あ、あの・・・代わるって言うのは絶対無理です!
 だけど・・・他の事で俺に出来る事があれば何だってやります!」

「お前に出来る事って何だ?」


「えっ・・・あ、例えば・・・
 牧野先輩が道明寺さんの所へ戻るように説得する・・・とか?でしたら・・・」

こっちなら何とかなりそうな気がする・・・

「俺様に無理な事をお前なら出来るって言ってんのか?
 いい度胸してんじゃねぇかよ!」


えっ・・・あ!!!

墓穴掘ったのか俺?!!


「あ、いえ・・・決して道明寺さんに楯突くつもりなんかじゃなくて・・・」


「おもしれぇ!やってみろ!但、期間は3ヶ月だ!それ以上は1秒だって待てねぇ!
 出来なかったら即、俺様と代われ!それからこの事は絶対につくしには悟られるなよ!
 つくしが自分の意志で俺の元へ帰ってくるようにしろ!」

そ、そんなバカな・・・


「そ、そんな・・・たった3ヶ月でなんて無理ですよ!
 それも牧野先輩には内緒でだなんて・・・」


「テメェーはさっきから無理ばっかりじゃねぇかよ!
 とにかく今、言った通りしろ!もしつくしにバレたらどうなるか覚悟しとけよ!」


ひぇ~~!

どうなるんだ俺?

会社をクビになるとか・・・?

いや・・・それぐらいで済めばいい方だろう・・・

もしかしたら社会的に抹殺されてもう日本では生きていけなくなるのかも?


「あ、あの・・・一応、参考までにお聞きしておきたいんですけど・・・」


「なんだ?」


「もし・・・もしも!牧野先輩にバレた場合には俺はどうなるんでしょうか・・・?」


「そうなった場合は社会的に抹殺してやる!って言いてぇ所だけど・・・
 そんな事したらつくしが怒るだろうから一生死ぬまで俺様の下でこき使ってやる!」


社会的に抹殺された方が楽かもしれない・・・


どうやらこの先、どう転んでも俺は
道明寺さんからは逃げられないみたいだ・・・

それなら腹を決めてどんな手を使っても牧野先輩にNYに帰ってもらうしかない!


道明寺さんとは初対面だし
同じ職場で働いている牧野先輩とだって
それほど親しいって間柄でもないから
上手くいく自信なんてマジでないけど

え~い!こうなったらもうヤケだ!



「わ、分かりました・・・上手くいく自信はあんまりありませんが・・・
 なんとか頑張ってみます!」


半ばやけっぱちでOKした俺だったけれど

俺がOKした事で満足したのか・・・

道明寺さんは残っていたワインを飲み干した


ワイングラスを持つ大きな手は爪の先まで綺麗に整えるられていて
優雅にワインを飲むその姿には気品さえ感じられる


どうして男の俺から見ても完璧な人が

牧野先輩みたいな普通の女性と結婚なんてしたのだろう?

決して牧野先輩が不細工だとかそんな風に思っているわけじゃないけれど

この人ならば世界中の美女をより取り見取りだろうに・・・

そう思うと二人の馴れ初めなんかがすっげえ気になり始めた


「あ、あの・・・」


「なんだよ?まだなんかあんのか?!」


「えっ・・・あの・・・一つ聞いてもいいですか?」


「なんだよ?」


「あ、あの・・・どうして道明寺さんみたいな人が牧野先輩とご結婚されたのかと思いまして・・・」


「あんっ?!つくしが俺みたいなのと結婚してるのがそんなに変か?!」


俺の質問に急に不機嫌になった道明寺さんは


「俺じゃあいつとは釣り合わねぇって言ってんのか?!」

と続けた・・・


俺が言いたかったのはその逆なんだけど

上手く伝わってないみたいだ・・・


「い、いいえ・・・俺が言いたかったのはその逆で・・・
 あ!決して牧野先輩が不細工だとかそんな風に思ってるわけじゃなくて・・・
 あの・・・その・・・なんて言うか・・・牧野先輩ってどちらかと言えば地味な印象を受けていたので
 道明寺さんならそれこそ世界中の美女を選り取り見取りなんじゃないのかなぁ・・・と・・・」


「お前は派手な女が好きなのか?」


「ケバいのは苦手ですけど・・・
 街で綺麗な人を見かけたりしたらあんな女の人が俺の彼女だったらなぁとは思いますけど・・・」



「お前はこのワイン幾らだと思う?」


この流れでワインが何の関係があるんだ?

今までの話しの流れに全く関係ない

唐突な質問に咄嗟に答えが出て来ない・・・


「お前が今、飲んでるそのワインだよ!幾らか知ってるか?」


「えっ・・・ワインには詳しくないので銘柄だとか値段だとかには全く疎いですが・・・
 道明寺さんが飲まれてるぐらいだからきっと俺なんかが一生飲めないような
 高価な物なんだろうなと思ってました」


本心からそう思っていたから
正直に答えただけなのに道明寺さんはフンと軽く鼻で笑っただけで


「正直な答えだけどお前は根本的に間違ってる。
 くだらねぇ固定観念に捕われてると物事の本質を見落とすぞ!
 その点ではお前の兄貴は合格だな。あいつは固定観念なんて持ち合わせてねぇからな」


「兄貴と比べないで下さい!」


何のテストをされてるのか分からないけれど
幼い頃から胸の奥底で燻り続けている
誰にも話した事の無い
微かに抱いている兄貴への嫉妬心を刺激され
些か剥きになって反論してしまった・・・


「別に比べてなんてねぇーよ!
 お前も人と自分を比べてつまらねぇ嫉妬すんな!」


自分と兄貴は違う・・・

比べて自分にない物を持っているからといって
それを妬み羨ましいがり嫉妬したところで
答えなんて見つからない・・・


分かっている事だけど


幼い頃から自由奔放な兄貴と何かにつけ型にはまってしまいそれに居心地良さを感じてしまう俺


どちらが正しいというわけじゃないけれど

どうしても拭いきれないコンプレックスを感じてしまう・・・


全てを見透かされているようで


豪華なこの部屋で今までにない居心地の悪さを感じてしまっている俺・・・


「お前、俺がつくしと結婚してるのが変だって言ったな?」


「・・・い、いいえ・・・変と言うか・・・俺が勝手に抱いていた牧野先輩のイメージと言うか・・・
 やっぱ固定観念ですね・・・すみません・・・なんか上手く説明出来ないんですけど
 兄貴の事もそうなんですけど・・・今日起きた事が意外な事ばっかりで混乱してると言うか・・・
 正直、誰かちゃんと説明してくれ!って叫びたい気分と言うか・・・」


自分の感情を上手く説明出来ないでいる俺は
道明寺さんに対してかなり失礼な物の言い方をしている・・・

だけど道明寺さんはそんな俺に怒るどころか
少しだけ左の口角を上げた


「俺とつくしがお前の兄貴に初めて会ったのは9年前のパリだ」


9年?

そんな以前から兄貴と牧野先輩は知り合いだったのか?

それなら俺の方が兄貴より後じゃねぇか!?


「9年前、俺達がダチの結婚式に出席する為にパリに行ってた時、
 あいつはパリで強盗にあって身ぐるみ剥がされて金もパスポートも靴まで盗られて
 セーヌ河の河畔に座り込んでたんだよ」

「そんな事があったんですか・・・」


兄貴が専門学校を辞めデイバック一つで日本を飛び出して行った後、

時折、両親の元へは近況を知らせる絵葉書が届いていたみたいだけれど

俺は何処で何をしていたのか

詳しい事は知らされていなかった

「あの頃、俺はこっちの大学に通っててつくしは日本だったから
 一年ぶりの再会だったし、パリへ来る直前に喧嘩したから
 二人だけでゆっくりと過ごそうと思って死ぬ気でもぎ取った休暇を邪魔しやがって!クソッ!」


話しながらあの頃の怒りが鮮明に蘇ってきたのだろう・・・



道明寺さんが時折、語気を強めながらパリ以降の出来事を話してくれた

かなり俺様で一方的な内容だったけれど

それによると兄貴は日本を飛び出したのはいいけれど

明確な目的があったわけでも

資金的な余裕があったわけでもなくて


日本からまず香港へ渡り

そこから東南アジアを経由して半年程掛けてインドまで辿り着いたらしいが

そこで持ち金がつきそれ以降は

自分の絵を売ったりアルバイトをしたりしながら

一年程でイタリアまで辿り着き

その後は宛も無くヨーロッパ中を放浪していたらしい

そして運命の日・・・


その日、兄貴は前日に絵を売ったお売でスイスへ行こうとパリの北駅に向かって歩いているところで
強盗に遭いパスポートは勿論だけど所持金にバック、
揚句の果てに着ていたコートや履いていた靴までも盗られてしまい
途方に暮れていたらしい


セーヌ河のほとりで

三月といえどもまだ春遠いパリでコートも着ず
おまけに靴も履いていない男に警戒して
俺なら絶対に声など掛けないだろうに・・・


牧野先輩は道明寺さんが止めるのも聞かず
得体の知れないみすぼらしい男に声を掛けたらしい


兄貴から事情を聞いた牧野先輩は
お得意のお節介パワー全開で
怒る道明寺さんをものともせず兄貴の救世主となった


その後も牧野先輩と兄貴は連絡を取り合っていて、
道明寺さんと学生結婚しNYの大学へ留学したのを機に
何故か兄貴もNYに腰を下ろしてしまったらしい・・・


兄貴はNYに移り住んでから初めて鉄を材料に作った作品を
牧野先輩が気に入り強力に後押し
今ではとりつかれたように鉄にのめり込んでいる

兄貴の作品は初めて見たけど
道明寺さんが言うように俺にも鉄屑にしか見えない・・・


芸術とは奥深いものだ・・・


ワインからだいぶ話しは逸れてしまったけれど
予想もしていなかった兄貴と牧野先輩との繋がりが聞けてよかった

まぁ・・・よかったのはこの点だけで・・・

道明寺さんに課せられた理不尽なミッションはまだ始まってもいない


大丈夫か?俺?



~fin~








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kirakira
Posted bykirakira

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