続・ミッションインポッシブル 10
こんばんは。🎵
スーパーサラリーマンシリーズのミッションインポッシブルの続編です。🎶
それではどうぞ~✴
「浦添様もどうぞご一緒に」
立ち尽くしている俺の背後からさっき西田と呼ばれた男性が
そう声を掛けてきたので大人しくそれに従う俺
牧野先輩は自分で運転して来た車には乗り込まず
道明寺さんが乗って来たリムジンに同乗した
二人に続いて西田さんと俺も乗り込んだ
初めて乗るリムジンの車内は
これが車か?と思うほどの内装で落ち着かない
まぁ・・・落ち着かないのは豪華な内装のせいだけじゃなくて
目の前にバカップルのせいだ!
さっきまでの喧嘩はなんだったんだ?って思うほどの
イチャイチャラブラブぶりで目のやり場に困る
こんな状況の中でも平然としてられる西田さんを尊敬してしまう
隣に座っている西田さんは大きな黒の手帳を開き
忙しそうに書き込みをしている
車窓に流れるのはNYマンハッタンの景色
車は何処に向かっているのだろう?
空港から約1時間
車はマンハッタンのビジネス街を走っている
混み合う車の列を抜けて
リムジンが滑り込んだのは全面ガラス張りの高層ビルの前
外側からドアが開けられ
まず牧野先輩と道明寺さんが降り
俺も西田さんに続く
周囲をSPにガードされながらビルへと入る
「あの・・・ここは?」
「道明寺のオフィスビルでございます」
ここが去年建て替えられた噂の道明寺ビルか・・・
このビルが建てられた当時は世界的に有名な建築家の最後の作品だという事もあって
かなり話題になりニュースなどでも取り上げられていた
近代建築の巨匠と言われる人物の遺作となったこのビルの内部は
全面ガラス張りの窓から陽の光りが差し込み
明るく暖かなイメージでロビー部分には
出入りする人をチェックする厳重なセキュリティと共に
彫刻や絵画などの美術品も置かれ
現代的なセキュリティの物々しい雰囲気を上手く中和している
こんな状況じゃなきゃ最高のこの空間を楽しめるんだろうけど
今の俺は会社をクビになり牧野先輩の荷物を届けに来ただけの
明日をも知れない身分・・・
とてもじゃないけど楽しめる気分じゃない
高速のエレベーターに乗り
着いたのは最上階にある道明寺さんのオフィス
何もかもが桁外れの道明寺さんらしい
豪華なオフィスに通され居心地が悪く落ち着かない
この中の誰か一人でも俺の事を気にかけてくれたなら
もう少しマシな気分にもなれるんだろうけど
今の所、俺を気にかけてくれているような様子は無い・・・
相変わらず膝に牧野先輩の私物を入れた箱を抱えたまま
来客用のソファの一番端っこに座っている俺
西田さんが手帳を確認しながら二言三言道明寺さんと話しをしていたけど
すぐにオフィスを出て行ってしまってからは
完全に二人の世界で見てられない・・・
俺・・・これからどうなるんだろう?
会社を出た時からずっと抱いている不安だったけど
ここまできてもまだ答えは出ない
「浦添君?・・・浦添君ってば!?」
「えっ?!は、はい!」
ボッーとしていて牧野先輩が近付いてきているのに気付いていなかった
「電話よ。浦添君に代わって欲しいんだって!」
牧野先輩は携帯を差し出しながら少し俺の顔を覗き込んでいる
「あっ!すみません!
・・・えっと・・・誰からでしょうか?」
「橋本君よ」
「橋本?同じ課の?」
橋本とは牧野先輩に資料を任せっきりにしていた例の後輩だ
「その橋本君よ。
急ぎの用があるみたいなの出てあげて」
「分かりました」
牧野先輩から携帯を受け取り電話に出る
「もしもし?」
『あー!先輩っすか?』
耳に届いたこの第一声だけで電話を切りたくなった・・・
「ああ、何か用か?」
『いや~先輩!凄いっすね!牧野さんがあの道明寺司と結婚してたなんて!
こっちはもう社内中大騒ぎですよ!ところで先輩は今どこにいるんですか?
牧野さんと一緒って事はNYですよね?いいなぁ~憧れるなぁ~NY!
俺も行きたいなぁ~憧れのセレブ生活!先輩が羨ましいっす!』
一方的にまくし立ててやがる・・・
何がセレブ生活だよ!
なんに憧れるんだよ!
俺はクビになったんだぞ!
「代わって欲しけりゃいつでも代わってやるぞ!」
『いや、それはいいっす!遠慮しときます!』
速攻で返事しやがった!
こいつなんの用で電話してきたんだ?
「そんなくだらない用件で掛けてきたのか?切るぞ!」
『あっ!ちょっと待ってくださいよ!
そんな怒んないで下さいよ先輩~!』
電話の向こうの声を無視して切ってやろうとした耳から携帯を離しかけた時
後輩の発した一言に思わず手が止まった
『先輩の荷物を処分するようにって言われたんですけど
俺が貰っちゃっていいっすか?』
俺の私物を処分する?
牧野先輩のは届けさせたくせに
俺のは捨てろってか?
「誰に指示されたんだよ?!」
『美作専務ですけど・・・俺、初めて美作専務と話ししましたけど
やっぱオーラが違いますよね!』
オーラなんて聞いてねぇよ!!
「な、なんで処分されなきゃいけないんだよ!俺の私物だぞ!」
『俺に怒んないで下さいよ!俺は指示されただけなんすから!
それから先輩のデスクだけじゃなくて部屋も整理しろって指示されてるんですけど
なんか要る物あります?たいした物ないすっよね?
全部俺が貰っちゃっていいすっかね?ってか俺このままここに住んじゃってもいいすっか?』
ペラペラと一方的にまくし立てる後輩・・・
「ちょ、ちょっと待て!お前今何処に居るんだ?」
『今っすか?今は先輩の部屋ですけど何か?』
何か?じゃねぇーんだよ!
「な、なんでお前が俺の部屋に居るんだよ?!」
『それはさっき言ったじゃないですか!美作専務に・・・』
「それは分かってんだよ!俺に無断で入ってんじゃねぇよ!
不法侵入だぞ!鍵とかどうしたんだよ?」
『鍵は美作専務に渡されましたよ。
だから不法侵入にはならないと思うんすけど?』
「・・・・・・」
『もしもーし先輩?俺が住んじゃっていいですよね?』
「ダメだ!そこは俺の部屋だぞ!
お前にはお前の部屋があるだろ?!」
『いや~言いにくいんすけど実は俺、浮気したのがバレちゃって
彼女と同棲してた部屋追い出されたんすよね。
それで部屋探してたんですけどちょうど先輩がNYに行っちゃったんでラッキーかなと?』
何がどうラッキーなんだよ!?
『先輩の部屋にある物そのまま使っちゃっていいですよね?』
厚かましいにも程があるぞ!
「ダメだ!」
『そんな冷たい事言わないで下さいよ~!
どうせ先輩はもう帰って来ないじゃないですか!
捨てるの勿体ないし俺が有効活用してあげますよ!
リサイクルですよ!リサイクル!』
何がリサイクルだよ!
勝手な事ばっかり言いやがって!
「俺の部屋にある物には指一本触れるなよ!
俺はすぐに帰るんだから!」
『えっ?!先輩帰ってくるんすか?
美作専務にはもう帰って来ないって聞いたんですけどほんとに帰ってくるんですか?』
もう帰って来ないって
マジで俺・・・このまま?
「勝手に決め・・・」
『先輩?とにかくこっちは俺に任せといて下さいよ!
先輩はそっちで頑張って下さいよ!俺がそっちに遊びに行った時は案内してくださいね!
あっ!それから牧野さんによろしく言っといて下さいね!それじゃ俺忙しいんで切りますね!』
「えっ!?あっ!・・・オイ!・・・・・・」
俺の言葉を遮り言いたい事だけを一方的にまくし立てて電話は切られてしまった
会社をクビになっただけじゃなくて
帰る部屋まで無くなってしまった・・・
「浦添君?どうしたの?大丈夫?橋本君なんだったの?」
切れてしまった電話を握り締め呆然としている俺を心配して牧野先輩が声を掛けてきた
「えっ・・・と・・・あの・・・部屋・・・乗っ取られちゃいました・・・」
「何言ってるの?部屋がどうかしたの?」
「いや・・・あの・・・俺が住んでた部屋を橋本が使うって・・・」
「どういう事?ちゃんと分かるように説明してちょうだい」
俺の横に腰を下ろしゆっくりと話しを聞く体制を作ってくれた牧野先輩の方へと身体を少し向ける
「美作専務から橋本が俺のデスク私物や部屋を片付けるよう指示を受けたみたいなんですけど・・・
あいつ彼女に部屋追い出されたみたいでちょうどいいから俺の部屋に住むって言ってきたんです・・・」
「それでOKしたの?」
「いえ・・・OKするもなにも一方的に話しただけで電話切られちゃいました・・・
あいつ今頃、俺の部屋で好き勝手やってますよ・・・
これから俺どうしたらいいんでしょう・・・」
最後にハァ~と大きなため息が出てしまった
そんな俺の横に座っていた牧野先輩は俺の顔を斜めから覗き込むな仕草をしながら
「浦添君はどうしたいの?」
牧野先輩から投げ掛けられたこの言葉は今の俺には衝撃的だった
どうしたいの?
俺・・・どうしたいんだろう?
会社をクビになって有無を言わせずNY行きの飛行機に乗せられて
ここまでずっとどうなるんだろう?って考えていただけで
自分自身がどうしたいのかなんて風に考えられなかった
どうしたいんだ?俺・・・
「選択肢は無限にあるわよ。今まで通りの生活に戻りたい?
それともこのままここで全く新しい生活を始める?
元はと言えば司がプライベートな問題に浦添君を巻き込んじゃったからなんだし
お詫びにどんな事でも喜んで協力するわよ」
牧野先輩は最後にニッコリと笑ってそう言ってくれた
俺は・・・
本当に日本でのあの生活に戻りたいのか?
今までの自分に不満があるわけじゃない
上京し美作商事に入社し自分なりに頑張ってきた
可も無く不可も無くの人生だけど
とりあえず順調でそれなりの人生
不満があるわけじゃないけれど
心底満足し充実した毎日ってわけでもない
ただ周囲に歩調を合わせ
はみ出さない事に重点を置き歩いてきただけ
それが悪いわけじゃないし
人並みの幸せってのがいかに大切で難しい事なのか分かっているけど
心のどこかに男なら一度しかない人生で
一回ぐらい何もかもぶち壊し冒険してみたい気持ちもある
ずっと兄貴の生き方を馬鹿にしながらも心の中で燻り続けていた憧れに似た感情
俺には到底真似出来ないと思っていたけど
同じ親から生まれた兄弟なのだから
兄貴に出来て俺に出来ないはずはない!
何が出来て何処まで行けるか分からないけど
人生最大のピンチだと思っていたこの状況は実は最大のチャンスなんじゃないのか?
そう考えると心の重りが外れたようにスッーと軽くなったように感じた
「俺・・・日本には帰りません!
ここで何が出来るかまだ分かりませんが・・・けどこのまま帰れません!」
とうとう言ってしまった・・・
「そう、じゃあもうこれは必要ないわね!」
そう笑顔で言った牧野先輩は俺の顔の高さまで掲げたエアチケットを破り捨てた
あったんですね・・・俺の分のチケット・・・
「エッ・・・アッ・・・ウッ・・・!」
「情けねぇ声出すな!」
破り捨てられたチケットを目で追いながら
思わず口から零れ落ちてしまった声に道明寺さんの声が重なる
「すみません・・・」
「こっちに残るって決めたんならさっさとこれにサインしろ!」
そう言って差し出されたのは全文英語で書かれた一枚の用紙
「あの・・・これって?」
「こんなのも読めねぇのかよ?!
お前、ほんとにこっちで頑張る気あんのかよ?!」
「司!説明も無しにいきなりじゃいくら浦添君でも無理でしょ!
私がちゃんと説明してあげるから」
「これは契約書よ」
「契約書ですか?」
「そう、浦添君が道明寺の社員になるって契約書よ」
「お、俺・・・雇ってもらえるんですか?」
「浦添君が働く気があればだけど、
私は浦添君とまた一緒に働けると嬉しいわ」
「あの・・英会話だってまだ得意じゃないですけど
牧野先輩にそんな風に思ってもらえてるんなら
俺ここで死ぬ気で頑張ります!だからこの会社で働かせて下さい!」
日本を出る時には全く予想していなかった展開だけど
勢いとはいえここに残って頑張るって宣言した以上とにかく頑張るしかない!
堅い決意を胸にサインした契約書を道明寺さんへと手渡した
「よろしくお願いします」
この先、前途洋々というより波瀾万丈と言った方が正しいような気がするけど
とにかく俺のNYライフはこうして始まった
さぁ俺の明日はどっちだ?!
~Fin~

応援ありがとうございます。
スーパーサラリーマンシリーズのミッションインポッシブルの続編です。🎶
それではどうぞ~✴
「浦添様もどうぞご一緒に」
立ち尽くしている俺の背後からさっき西田と呼ばれた男性が
そう声を掛けてきたので大人しくそれに従う俺
牧野先輩は自分で運転して来た車には乗り込まず
道明寺さんが乗って来たリムジンに同乗した
二人に続いて西田さんと俺も乗り込んだ
初めて乗るリムジンの車内は
これが車か?と思うほどの内装で落ち着かない
まぁ・・・落ち着かないのは豪華な内装のせいだけじゃなくて
目の前にバカップルのせいだ!
さっきまでの喧嘩はなんだったんだ?って思うほどの
イチャイチャラブラブぶりで目のやり場に困る
こんな状況の中でも平然としてられる西田さんを尊敬してしまう
隣に座っている西田さんは大きな黒の手帳を開き
忙しそうに書き込みをしている
車窓に流れるのはNYマンハッタンの景色
車は何処に向かっているのだろう?
空港から約1時間
車はマンハッタンのビジネス街を走っている
混み合う車の列を抜けて
リムジンが滑り込んだのは全面ガラス張りの高層ビルの前
外側からドアが開けられ
まず牧野先輩と道明寺さんが降り
俺も西田さんに続く
周囲をSPにガードされながらビルへと入る
「あの・・・ここは?」
「道明寺のオフィスビルでございます」
ここが去年建て替えられた噂の道明寺ビルか・・・
このビルが建てられた当時は世界的に有名な建築家の最後の作品だという事もあって
かなり話題になりニュースなどでも取り上げられていた
近代建築の巨匠と言われる人物の遺作となったこのビルの内部は
全面ガラス張りの窓から陽の光りが差し込み
明るく暖かなイメージでロビー部分には
出入りする人をチェックする厳重なセキュリティと共に
彫刻や絵画などの美術品も置かれ
現代的なセキュリティの物々しい雰囲気を上手く中和している
こんな状況じゃなきゃ最高のこの空間を楽しめるんだろうけど
今の俺は会社をクビになり牧野先輩の荷物を届けに来ただけの
明日をも知れない身分・・・
とてもじゃないけど楽しめる気分じゃない
高速のエレベーターに乗り
着いたのは最上階にある道明寺さんのオフィス
何もかもが桁外れの道明寺さんらしい
豪華なオフィスに通され居心地が悪く落ち着かない
この中の誰か一人でも俺の事を気にかけてくれたなら
もう少しマシな気分にもなれるんだろうけど
今の所、俺を気にかけてくれているような様子は無い・・・
相変わらず膝に牧野先輩の私物を入れた箱を抱えたまま
来客用のソファの一番端っこに座っている俺
西田さんが手帳を確認しながら二言三言道明寺さんと話しをしていたけど
すぐにオフィスを出て行ってしまってからは
完全に二人の世界で見てられない・・・
俺・・・これからどうなるんだろう?
会社を出た時からずっと抱いている不安だったけど
ここまできてもまだ答えは出ない
「浦添君?・・・浦添君ってば!?」
「えっ?!は、はい!」
ボッーとしていて牧野先輩が近付いてきているのに気付いていなかった
「電話よ。浦添君に代わって欲しいんだって!」
牧野先輩は携帯を差し出しながら少し俺の顔を覗き込んでいる
「あっ!すみません!
・・・えっと・・・誰からでしょうか?」
「橋本君よ」
「橋本?同じ課の?」
橋本とは牧野先輩に資料を任せっきりにしていた例の後輩だ
「その橋本君よ。
急ぎの用があるみたいなの出てあげて」
「分かりました」
牧野先輩から携帯を受け取り電話に出る
「もしもし?」
『あー!先輩っすか?』
耳に届いたこの第一声だけで電話を切りたくなった・・・
「ああ、何か用か?」
『いや~先輩!凄いっすね!牧野さんがあの道明寺司と結婚してたなんて!
こっちはもう社内中大騒ぎですよ!ところで先輩は今どこにいるんですか?
牧野さんと一緒って事はNYですよね?いいなぁ~憧れるなぁ~NY!
俺も行きたいなぁ~憧れのセレブ生活!先輩が羨ましいっす!』
一方的にまくし立ててやがる・・・
何がセレブ生活だよ!
なんに憧れるんだよ!
俺はクビになったんだぞ!
「代わって欲しけりゃいつでも代わってやるぞ!」
『いや、それはいいっす!遠慮しときます!』
速攻で返事しやがった!
こいつなんの用で電話してきたんだ?
「そんなくだらない用件で掛けてきたのか?切るぞ!」
『あっ!ちょっと待ってくださいよ!
そんな怒んないで下さいよ先輩~!』
電話の向こうの声を無視して切ってやろうとした耳から携帯を離しかけた時
後輩の発した一言に思わず手が止まった
『先輩の荷物を処分するようにって言われたんですけど
俺が貰っちゃっていいっすか?』
俺の私物を処分する?
牧野先輩のは届けさせたくせに
俺のは捨てろってか?
「誰に指示されたんだよ?!」
『美作専務ですけど・・・俺、初めて美作専務と話ししましたけど
やっぱオーラが違いますよね!』
オーラなんて聞いてねぇよ!!
「な、なんで処分されなきゃいけないんだよ!俺の私物だぞ!」
『俺に怒んないで下さいよ!俺は指示されただけなんすから!
それから先輩のデスクだけじゃなくて部屋も整理しろって指示されてるんですけど
なんか要る物あります?たいした物ないすっよね?
全部俺が貰っちゃっていいすっかね?ってか俺このままここに住んじゃってもいいすっか?』
ペラペラと一方的にまくし立てる後輩・・・
「ちょ、ちょっと待て!お前今何処に居るんだ?」
『今っすか?今は先輩の部屋ですけど何か?』
何か?じゃねぇーんだよ!
「な、なんでお前が俺の部屋に居るんだよ?!」
『それはさっき言ったじゃないですか!美作専務に・・・』
「それは分かってんだよ!俺に無断で入ってんじゃねぇよ!
不法侵入だぞ!鍵とかどうしたんだよ?」
『鍵は美作専務に渡されましたよ。
だから不法侵入にはならないと思うんすけど?』
「・・・・・・」
『もしもーし先輩?俺が住んじゃっていいですよね?』
「ダメだ!そこは俺の部屋だぞ!
お前にはお前の部屋があるだろ?!」
『いや~言いにくいんすけど実は俺、浮気したのがバレちゃって
彼女と同棲してた部屋追い出されたんすよね。
それで部屋探してたんですけどちょうど先輩がNYに行っちゃったんでラッキーかなと?』
何がどうラッキーなんだよ!?
『先輩の部屋にある物そのまま使っちゃっていいですよね?』
厚かましいにも程があるぞ!
「ダメだ!」
『そんな冷たい事言わないで下さいよ~!
どうせ先輩はもう帰って来ないじゃないですか!
捨てるの勿体ないし俺が有効活用してあげますよ!
リサイクルですよ!リサイクル!』
何がリサイクルだよ!
勝手な事ばっかり言いやがって!
「俺の部屋にある物には指一本触れるなよ!
俺はすぐに帰るんだから!」
『えっ?!先輩帰ってくるんすか?
美作専務にはもう帰って来ないって聞いたんですけどほんとに帰ってくるんですか?』
もう帰って来ないって
マジで俺・・・このまま?
「勝手に決め・・・」
『先輩?とにかくこっちは俺に任せといて下さいよ!
先輩はそっちで頑張って下さいよ!俺がそっちに遊びに行った時は案内してくださいね!
あっ!それから牧野さんによろしく言っといて下さいね!それじゃ俺忙しいんで切りますね!』
「えっ!?あっ!・・・オイ!・・・・・・」
俺の言葉を遮り言いたい事だけを一方的にまくし立てて電話は切られてしまった
会社をクビになっただけじゃなくて
帰る部屋まで無くなってしまった・・・
「浦添君?どうしたの?大丈夫?橋本君なんだったの?」
切れてしまった電話を握り締め呆然としている俺を心配して牧野先輩が声を掛けてきた
「えっ・・・と・・・あの・・・部屋・・・乗っ取られちゃいました・・・」
「何言ってるの?部屋がどうかしたの?」
「いや・・・あの・・・俺が住んでた部屋を橋本が使うって・・・」
「どういう事?ちゃんと分かるように説明してちょうだい」
俺の横に腰を下ろしゆっくりと話しを聞く体制を作ってくれた牧野先輩の方へと身体を少し向ける
「美作専務から橋本が俺のデスク私物や部屋を片付けるよう指示を受けたみたいなんですけど・・・
あいつ彼女に部屋追い出されたみたいでちょうどいいから俺の部屋に住むって言ってきたんです・・・」
「それでOKしたの?」
「いえ・・・OKするもなにも一方的に話しただけで電話切られちゃいました・・・
あいつ今頃、俺の部屋で好き勝手やってますよ・・・
これから俺どうしたらいいんでしょう・・・」
最後にハァ~と大きなため息が出てしまった
そんな俺の横に座っていた牧野先輩は俺の顔を斜めから覗き込むな仕草をしながら
「浦添君はどうしたいの?」
牧野先輩から投げ掛けられたこの言葉は今の俺には衝撃的だった
どうしたいの?
俺・・・どうしたいんだろう?
会社をクビになって有無を言わせずNY行きの飛行機に乗せられて
ここまでずっとどうなるんだろう?って考えていただけで
自分自身がどうしたいのかなんて風に考えられなかった
どうしたいんだ?俺・・・
「選択肢は無限にあるわよ。今まで通りの生活に戻りたい?
それともこのままここで全く新しい生活を始める?
元はと言えば司がプライベートな問題に浦添君を巻き込んじゃったからなんだし
お詫びにどんな事でも喜んで協力するわよ」
牧野先輩は最後にニッコリと笑ってそう言ってくれた
俺は・・・
本当に日本でのあの生活に戻りたいのか?
今までの自分に不満があるわけじゃない
上京し美作商事に入社し自分なりに頑張ってきた
可も無く不可も無くの人生だけど
とりあえず順調でそれなりの人生
不満があるわけじゃないけれど
心底満足し充実した毎日ってわけでもない
ただ周囲に歩調を合わせ
はみ出さない事に重点を置き歩いてきただけ
それが悪いわけじゃないし
人並みの幸せってのがいかに大切で難しい事なのか分かっているけど
心のどこかに男なら一度しかない人生で
一回ぐらい何もかもぶち壊し冒険してみたい気持ちもある
ずっと兄貴の生き方を馬鹿にしながらも心の中で燻り続けていた憧れに似た感情
俺には到底真似出来ないと思っていたけど
同じ親から生まれた兄弟なのだから
兄貴に出来て俺に出来ないはずはない!
何が出来て何処まで行けるか分からないけど
人生最大のピンチだと思っていたこの状況は実は最大のチャンスなんじゃないのか?
そう考えると心の重りが外れたようにスッーと軽くなったように感じた
「俺・・・日本には帰りません!
ここで何が出来るかまだ分かりませんが・・・けどこのまま帰れません!」
とうとう言ってしまった・・・
「そう、じゃあもうこれは必要ないわね!」
そう笑顔で言った牧野先輩は俺の顔の高さまで掲げたエアチケットを破り捨てた
あったんですね・・・俺の分のチケット・・・
「エッ・・・アッ・・・ウッ・・・!」
「情けねぇ声出すな!」
破り捨てられたチケットを目で追いながら
思わず口から零れ落ちてしまった声に道明寺さんの声が重なる
「すみません・・・」
「こっちに残るって決めたんならさっさとこれにサインしろ!」
そう言って差し出されたのは全文英語で書かれた一枚の用紙
「あの・・・これって?」
「こんなのも読めねぇのかよ?!
お前、ほんとにこっちで頑張る気あんのかよ?!」
「司!説明も無しにいきなりじゃいくら浦添君でも無理でしょ!
私がちゃんと説明してあげるから」
「これは契約書よ」
「契約書ですか?」
「そう、浦添君が道明寺の社員になるって契約書よ」
「お、俺・・・雇ってもらえるんですか?」
「浦添君が働く気があればだけど、
私は浦添君とまた一緒に働けると嬉しいわ」
「あの・・英会話だってまだ得意じゃないですけど
牧野先輩にそんな風に思ってもらえてるんなら
俺ここで死ぬ気で頑張ります!だからこの会社で働かせて下さい!」
日本を出る時には全く予想していなかった展開だけど
勢いとはいえここに残って頑張るって宣言した以上とにかく頑張るしかない!
堅い決意を胸にサインした契約書を道明寺さんへと手渡した
「よろしくお願いします」
この先、前途洋々というより波瀾万丈と言った方が正しいような気がするけど
とにかく俺のNYライフはこうして始まった
さぁ俺の明日はどっちだ?!
~Fin~

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