亀の甲羅でBダッシュ 前編
おはようございます。(#^.^#)
予約投稿第三弾です。
本日は『亀の甲羅でBダッシュ』です。🎶
CPは一応、つかつくです。
初めての方も何度目かの方も楽しんで頂ければ嬉しいです🎵😍🎵
それではどうぞ~✴
ゲッ!?
日中の蒸し暑さが幾らか緩和されたとはいえ
オフィスビルから吐き出されるエアコンの熱で
オフィスが入るビルから一歩足を踏み出した途端に
まだまだねっとりとした空気が体に
纏わり付いてくる真夏の午後7時過ぎ
仕事を終え家路に着こうとビルを出た途端の第一声は
纏わり付いてくる湿気を含んだ空気に対しての物ではなく
ビルの目の前に堂々と
って言うか‥
わざとらしく目に付くように横付けされている高級車に向けられた物
車の主は分かっている
天使みたいな顔して私を混乱させる悪魔だ
悪魔に見つからないようにソーッと方向転換して
再びビルの中に舞い戻り裏口へと向かう
吹き抜けの豪華な正面入口に比べ
警備員さんかメンテナンス業者さんしか使わない
殺風景な裏口の無駄に重い扉をソーッと開け
顔だけを出して左右を見回してみると
やっぱり‥
ビルの角に立つ電柱の影に隠れるように止まる高級車
こっちは私を簡単に閻魔大王のいけにえに差し出す血も涙も無い鬼
こっちもダメなわけね‥
表の悪魔と裏の鬼
ハァ~
ため息と共に再び裏口の扉もソーッと閉めるとしばし考え込む
残る逃げ道は一つ
あそこしか無いわけね
なんでこんな鬼ごっこみたいな事してるかって不思議に思うでしょ
実際、私も不思議だもの
自分の事なんだけど
こそこそ逃げ回るような事
性に合ってないのは十分自覚してるんだけど
解決方法が見つからなくて
今は逃げ回る事しか出来ていない
結局の所、あいつらから逃げ切るなんて事
不可能だって分かってるけど
自分の中で何一つ答えが導き出せていない今はとにかく逃げるのみ
逃げて逃げて逃げまくってやる!!
って‥
言葉は勇ましいんだけど
とりあえず私の今の状況をかい摘まんで説明するわね
表に居たのは花沢類で裏に居たのは西門さん
共にターゲットは私だけど
目的は全く正反対
私‥牧野つくしは現在29歳
流行りの言葉で言うとアラサー
正真正銘の独身
別に胸張って言う事でも無いと思うんだけど
一応ね
バリバリのキャリアウーマン街道を一人驀進中
周囲からは驀進しすぎるあまり婚期だとか諸々
いろんな物を逃したって噂はあるけど
そんな雑音いちいち気にしてられない
あの日、テレビの記者会見で道明寺が言った言葉
”四年後迎えに来ます”
簡単な事では無いと分かってはいたけれど
私はあの言葉を信じていた
そして互いに歩む未来を信じて夢見ていた
その為に努力だってしたし
覚悟だって決めていた
今から考えれば儚く幼い夢だったのかもしれないけれど
例え幼くとも
どんなに儚くとも
あの時はあの時なりに精一杯真剣だった
だけどそんな幼い夢は私が大学部の三年生の時に露と消えてしまった
折りからの経済危機で道明寺だけでなく
世界中の一流企業が軒並み経営危機に陥り
世界中で失業率が跳ね上がっていたあの時期
すでに大学の卒業が決まっていた道明寺は
経済危機から財閥を守る為にあれほど嫌悪していた政略結婚を選び
私が夢見た未来は夏空の下に儚くとも露と消えた
就職活動真っ只中だった私は世界的規模の経済危機と共に人生の目標も見失い
新たな目標を見つける事も出来ず就職活動は全戦全敗で
紅葉が過ぎ落葉樹が葉を全て落とし
街行く人々が寒さに肩を竦める季節になっても
将来が見えないままドツボに嵌まっていた
そんな私を見兼ねた美作さんが
美作商事への入社を薦めてくれた
ドツボに嵌まりまくりのくせに
コネ入社なんて嫌だと意地を張る私を
美作さんが根気強く諭してくれたお陰で今、私はここに居る
その事は感謝しているし
コネ入社だって言われないように
女だからって性別で区別されない為に
がむしゃらに頑張ってきた
頑張ってきたから100%じゃないけれど満足してるし
それなりに充実した毎日を送っている
そんな毎日に突然降って湧いてきたのが離婚した道明寺
離婚後も一年程NYに留まっていた彼が帰国したと聞いたのは半年程前
道明寺は私が美作さんから帰って来たと聞いた翌日には私のマンションの前に居た
話しがしたいと言われ
促されるままにリムジンに乗り込んだけれど
私の中には再会の感動も気持ちの高揚感も緊張も無く
やり直したいと告げる彼の言葉をただ他人事のような感覚で聞いていただけ
私の中には今さら彼という選択肢は残っていなかった
ただそれだけなのだけれど
彼は私の答えに納得してはいない
彼との未来を夢見ていたのは事実だけれど
それは世間知らずな女の子が見ていた夢物語りだ
世間知らずの夢見る女の子が悪いとは思っていないけれど
十分すぎる程に世間の荒波に揉まれてしまった30前の女にとっては
夜部屋で一人お酒でも飲みながら
あんな時もあったのだと思い出し少し感傷に浸るだけの過去の思い出でしかない
夜が明け新しい一日が始まる頃には忘れている
道明寺の事は嫌いでは無い
好きかと聞かれればそうだと答えられる
けどそこまで
好きだけれど今の私は彼を愛してはいない
どれだけ愛されていたとしても
今の私は愛だけではどうしようもない事が存在する事を知っているから
現実・・・
嫌な言葉だ
人によっては都合の良い言い訳にしか聞こえないかもしれないけれど
私は現実を知っている
どれほど彼に愛され大切にされようとも私はもう道明寺の奥さんは出来ない
彼の住む世界では生きてはいけない
これが現実だ
培ってきた物を全て捨て
どれほど努力しても前の奥さんと比べられる生活を決心するのは
無駄に築き上げてきたプライドが許さない
道明寺は私に全てさらけ出せと言う
今の私の全てを受け止めるからと言うけれど
今の私には彼に全てをさらけ出す事なんて出来ない
なら花沢類には?
と聞かれると‥
これもまたダメ
道明寺よりは冷静に話しを聞いてくれるだろうけど
自分でも説明のつかない矛盾だらけのこの感情をさらけ出す事なんて出来ない
簡単だよ
説明のつかない感情を矛盾ごと全部そのまま素直にさらけ出せばいいだけなんだから
花沢類のそんな声が聞こえてきそうだけれど
ダメ‥
素直になんて余計出来ない
だから花沢類とも結婚なんて出来ない
”大丈夫、俺も結婚願望ないけど牧野となら楽しそうだし
とりあえず付き合ってみない?”
なんてプロポーズの後に笑顔で言われても
私はここから動けない
桜子はこんな私を贅沢だって言うけど
やっぱり私は動けない
ハァ~
口をついて出るのはため息ばかり‥
今夜もまた鬼ごっこの果ての一人寝
理想と現実の間でため息ばっかりついてたって仕方ないから
とりあえずここから脱出するために地下の駐車場へと向かう
地下へと降りるとちょうど美作さんが車に乗り込むところ
グッドタイミングでヒールを響かせ車に駆け寄ると
ドアを閉めかかっていた運転手さんの横から車の中へ滑り込んだ
「お前、またかよ?!」
滑り込んで来た私に大して驚きもせず
呆れた口調でそう言った美作さんは無視して
座席には座らず彼の足元に体を隠した
「いいから早く出して!
見つからないでよ!」
足元に体を隠す頭上から美作さんの盛大なため息が降り注ぎ
車はゆっくりと動き始めた
地下駐車場から出た車はビルの前に停まっているであろう
花沢類の車の横を通り過ぎ夜の街を走り抜けて行く
ビルから出てしばらく伏せたままだった体から顔だけを上げる
「もう大丈夫?」
「ああ‥」
足元から見上げる私の視線と
見下ろす美作さんの視線がぶつかる
「な、何よ?」
「いや‥お前‥」
「お説教なら聞かないからね!」
「説教なんてする気ねぇーよ!
それよりお前のその体勢‥なんかエロいぞ!」
「ん?!」
「俺の足の間にしゃがみ込んでるその格好だよ!」
慌てて車に乗り込んで足元に隠れてたから気付いてなかったけど
今の私の体制って
ちょうど顔が美作さんのこか‥あたりに!?
「ギャ!!スケベ!変態!」
「俺がやらせたわけじゃねぇーだろ!?
ったくお前は‥」
走る車の中から慌てて体を起こし
美作さんから離れて座る
「ったくお前は‥」
「あっ!ストップ!
近くの駅で下ろしてくれればいいから!」
美作さんの口から再びため息交じりのお説教が飛び出す前にいつものように告げた
「分かってるよ!」
「そっ、ありがと」
勝手に乗り込んどいて我が儘だって思われるけだろうけど
今は誰の言葉も聞きたくない
美作さん達には道明寺から逃げ回るなんて悪あがきにしか見えないだろうけど
私にはこうする事しか出来ない
道明寺にはやり直したいと言われた時に
混乱してたけれどちゃんと気持ちは伝えたつもり
彼には納得出来ない理由だったとしても
それは私の責任じゃないと思っている
幸い彼は忙しいから直接電話が掛かってくる事は滅多に無いけれど
その代わり月に1、2度今日みたいに前には花沢類で裏には西門さんが待ち伏せしている
花沢類はいつもプロポーズの返事について
特に何も言わないでただ食事するだけだけど
何も聞かれないのが逆に居心地が悪かったりもする
西門さんは道明寺に言われて私を捕獲しに来ただけ
そのまま笑顔で私を道明寺に差し出して帰って行く
道明寺とは会う度
話しをする度に互いの温度差に息苦しくなるだけ
どこまでも果てしなく平行線
「おい!聞いてんのか?」
「ん?」
「しっかりしろよ!
着いたぞ!降りないのか?」
「あっ‥うん、ありがと」
「ハァ~大丈夫かよ?」
「ん?大丈夫!大丈夫!」
呆れ顔の美作さんを見ないように自分でドアを開け車から降りる
大勢の人々が行き交う駅前を
地下鉄の入口目指して歩き始めると
背後から美作さんの声が追い掛けてきた
「オイ!牧野!」
「ん?」
振り向くとそこには窓を下げ少し顔を出した美作さん
「後の事は俺がなんとかしてやるから
お前はお前らしくどこまでも突っ走って猛獣から逃げ切ってやれ!」
そう言い終えると私の返事は待たず車は走り始めてしまった
走り去る車の窓から突き出ていたのは美作さんの腕
夜空に向かって伸びるように突き出されていたVサイン
あれ?
なんかギュンときた
今時のダッサイVサインになんかギュンときた
何なんだろう?
この気持ち‥?

応援ありがとうございます。
予約投稿第三弾です。
本日は『亀の甲羅でBダッシュ』です。🎶
CPは一応、つかつくです。
初めての方も何度目かの方も楽しんで頂ければ嬉しいです🎵😍🎵
それではどうぞ~✴
ゲッ!?
日中の蒸し暑さが幾らか緩和されたとはいえ
オフィスビルから吐き出されるエアコンの熱で
オフィスが入るビルから一歩足を踏み出した途端に
まだまだねっとりとした空気が体に
纏わり付いてくる真夏の午後7時過ぎ
仕事を終え家路に着こうとビルを出た途端の第一声は
纏わり付いてくる湿気を含んだ空気に対しての物ではなく
ビルの目の前に堂々と
って言うか‥
わざとらしく目に付くように横付けされている高級車に向けられた物
車の主は分かっている
天使みたいな顔して私を混乱させる悪魔だ
悪魔に見つからないようにソーッと方向転換して
再びビルの中に舞い戻り裏口へと向かう
吹き抜けの豪華な正面入口に比べ
警備員さんかメンテナンス業者さんしか使わない
殺風景な裏口の無駄に重い扉をソーッと開け
顔だけを出して左右を見回してみると
やっぱり‥
ビルの角に立つ電柱の影に隠れるように止まる高級車
こっちは私を簡単に閻魔大王のいけにえに差し出す血も涙も無い鬼
こっちもダメなわけね‥
表の悪魔と裏の鬼
ハァ~
ため息と共に再び裏口の扉もソーッと閉めるとしばし考え込む
残る逃げ道は一つ
あそこしか無いわけね
なんでこんな鬼ごっこみたいな事してるかって不思議に思うでしょ
実際、私も不思議だもの
自分の事なんだけど
こそこそ逃げ回るような事
性に合ってないのは十分自覚してるんだけど
解決方法が見つからなくて
今は逃げ回る事しか出来ていない
結局の所、あいつらから逃げ切るなんて事
不可能だって分かってるけど
自分の中で何一つ答えが導き出せていない今はとにかく逃げるのみ
逃げて逃げて逃げまくってやる!!
って‥
言葉は勇ましいんだけど
とりあえず私の今の状況をかい摘まんで説明するわね
表に居たのは花沢類で裏に居たのは西門さん
共にターゲットは私だけど
目的は全く正反対
私‥牧野つくしは現在29歳
流行りの言葉で言うとアラサー
正真正銘の独身
別に胸張って言う事でも無いと思うんだけど
一応ね
バリバリのキャリアウーマン街道を一人驀進中
周囲からは驀進しすぎるあまり婚期だとか諸々
いろんな物を逃したって噂はあるけど
そんな雑音いちいち気にしてられない
あの日、テレビの記者会見で道明寺が言った言葉
”四年後迎えに来ます”
簡単な事では無いと分かってはいたけれど
私はあの言葉を信じていた
そして互いに歩む未来を信じて夢見ていた
その為に努力だってしたし
覚悟だって決めていた
今から考えれば儚く幼い夢だったのかもしれないけれど
例え幼くとも
どんなに儚くとも
あの時はあの時なりに精一杯真剣だった
だけどそんな幼い夢は私が大学部の三年生の時に露と消えてしまった
折りからの経済危機で道明寺だけでなく
世界中の一流企業が軒並み経営危機に陥り
世界中で失業率が跳ね上がっていたあの時期
すでに大学の卒業が決まっていた道明寺は
経済危機から財閥を守る為にあれほど嫌悪していた政略結婚を選び
私が夢見た未来は夏空の下に儚くとも露と消えた
就職活動真っ只中だった私は世界的規模の経済危機と共に人生の目標も見失い
新たな目標を見つける事も出来ず就職活動は全戦全敗で
紅葉が過ぎ落葉樹が葉を全て落とし
街行く人々が寒さに肩を竦める季節になっても
将来が見えないままドツボに嵌まっていた
そんな私を見兼ねた美作さんが
美作商事への入社を薦めてくれた
ドツボに嵌まりまくりのくせに
コネ入社なんて嫌だと意地を張る私を
美作さんが根気強く諭してくれたお陰で今、私はここに居る
その事は感謝しているし
コネ入社だって言われないように
女だからって性別で区別されない為に
がむしゃらに頑張ってきた
頑張ってきたから100%じゃないけれど満足してるし
それなりに充実した毎日を送っている
そんな毎日に突然降って湧いてきたのが離婚した道明寺
離婚後も一年程NYに留まっていた彼が帰国したと聞いたのは半年程前
道明寺は私が美作さんから帰って来たと聞いた翌日には私のマンションの前に居た
話しがしたいと言われ
促されるままにリムジンに乗り込んだけれど
私の中には再会の感動も気持ちの高揚感も緊張も無く
やり直したいと告げる彼の言葉をただ他人事のような感覚で聞いていただけ
私の中には今さら彼という選択肢は残っていなかった
ただそれだけなのだけれど
彼は私の答えに納得してはいない
彼との未来を夢見ていたのは事実だけれど
それは世間知らずな女の子が見ていた夢物語りだ
世間知らずの夢見る女の子が悪いとは思っていないけれど
十分すぎる程に世間の荒波に揉まれてしまった30前の女にとっては
夜部屋で一人お酒でも飲みながら
あんな時もあったのだと思い出し少し感傷に浸るだけの過去の思い出でしかない
夜が明け新しい一日が始まる頃には忘れている
道明寺の事は嫌いでは無い
好きかと聞かれればそうだと答えられる
けどそこまで
好きだけれど今の私は彼を愛してはいない
どれだけ愛されていたとしても
今の私は愛だけではどうしようもない事が存在する事を知っているから
現実・・・
嫌な言葉だ
人によっては都合の良い言い訳にしか聞こえないかもしれないけれど
私は現実を知っている
どれほど彼に愛され大切にされようとも私はもう道明寺の奥さんは出来ない
彼の住む世界では生きてはいけない
これが現実だ
培ってきた物を全て捨て
どれほど努力しても前の奥さんと比べられる生活を決心するのは
無駄に築き上げてきたプライドが許さない
道明寺は私に全てさらけ出せと言う
今の私の全てを受け止めるからと言うけれど
今の私には彼に全てをさらけ出す事なんて出来ない
なら花沢類には?
と聞かれると‥
これもまたダメ
道明寺よりは冷静に話しを聞いてくれるだろうけど
自分でも説明のつかない矛盾だらけのこの感情をさらけ出す事なんて出来ない
簡単だよ
説明のつかない感情を矛盾ごと全部そのまま素直にさらけ出せばいいだけなんだから
花沢類のそんな声が聞こえてきそうだけれど
ダメ‥
素直になんて余計出来ない
だから花沢類とも結婚なんて出来ない
”大丈夫、俺も結婚願望ないけど牧野となら楽しそうだし
とりあえず付き合ってみない?”
なんてプロポーズの後に笑顔で言われても
私はここから動けない
桜子はこんな私を贅沢だって言うけど
やっぱり私は動けない
ハァ~
口をついて出るのはため息ばかり‥
今夜もまた鬼ごっこの果ての一人寝
理想と現実の間でため息ばっかりついてたって仕方ないから
とりあえずここから脱出するために地下の駐車場へと向かう
地下へと降りるとちょうど美作さんが車に乗り込むところ
グッドタイミングでヒールを響かせ車に駆け寄ると
ドアを閉めかかっていた運転手さんの横から車の中へ滑り込んだ
「お前、またかよ?!」
滑り込んで来た私に大して驚きもせず
呆れた口調でそう言った美作さんは無視して
座席には座らず彼の足元に体を隠した
「いいから早く出して!
見つからないでよ!」
足元に体を隠す頭上から美作さんの盛大なため息が降り注ぎ
車はゆっくりと動き始めた
地下駐車場から出た車はビルの前に停まっているであろう
花沢類の車の横を通り過ぎ夜の街を走り抜けて行く
ビルから出てしばらく伏せたままだった体から顔だけを上げる
「もう大丈夫?」
「ああ‥」
足元から見上げる私の視線と
見下ろす美作さんの視線がぶつかる
「な、何よ?」
「いや‥お前‥」
「お説教なら聞かないからね!」
「説教なんてする気ねぇーよ!
それよりお前のその体勢‥なんかエロいぞ!」
「ん?!」
「俺の足の間にしゃがみ込んでるその格好だよ!」
慌てて車に乗り込んで足元に隠れてたから気付いてなかったけど
今の私の体制って
ちょうど顔が美作さんのこか‥あたりに!?
「ギャ!!スケベ!変態!」
「俺がやらせたわけじゃねぇーだろ!?
ったくお前は‥」
走る車の中から慌てて体を起こし
美作さんから離れて座る
「ったくお前は‥」
「あっ!ストップ!
近くの駅で下ろしてくれればいいから!」
美作さんの口から再びため息交じりのお説教が飛び出す前にいつものように告げた
「分かってるよ!」
「そっ、ありがと」
勝手に乗り込んどいて我が儘だって思われるけだろうけど
今は誰の言葉も聞きたくない
美作さん達には道明寺から逃げ回るなんて悪あがきにしか見えないだろうけど
私にはこうする事しか出来ない
道明寺にはやり直したいと言われた時に
混乱してたけれどちゃんと気持ちは伝えたつもり
彼には納得出来ない理由だったとしても
それは私の責任じゃないと思っている
幸い彼は忙しいから直接電話が掛かってくる事は滅多に無いけれど
その代わり月に1、2度今日みたいに前には花沢類で裏には西門さんが待ち伏せしている
花沢類はいつもプロポーズの返事について
特に何も言わないでただ食事するだけだけど
何も聞かれないのが逆に居心地が悪かったりもする
西門さんは道明寺に言われて私を捕獲しに来ただけ
そのまま笑顔で私を道明寺に差し出して帰って行く
道明寺とは会う度
話しをする度に互いの温度差に息苦しくなるだけ
どこまでも果てしなく平行線
「おい!聞いてんのか?」
「ん?」
「しっかりしろよ!
着いたぞ!降りないのか?」
「あっ‥うん、ありがと」
「ハァ~大丈夫かよ?」
「ん?大丈夫!大丈夫!」
呆れ顔の美作さんを見ないように自分でドアを開け車から降りる
大勢の人々が行き交う駅前を
地下鉄の入口目指して歩き始めると
背後から美作さんの声が追い掛けてきた
「オイ!牧野!」
「ん?」
振り向くとそこには窓を下げ少し顔を出した美作さん
「後の事は俺がなんとかしてやるから
お前はお前らしくどこまでも突っ走って猛獣から逃げ切ってやれ!」
そう言い終えると私の返事は待たず車は走り始めてしまった
走り去る車の窓から突き出ていたのは美作さんの腕
夜空に向かって伸びるように突き出されていたVサイン
あれ?
なんかギュンときた
今時のダッサイVサインになんかギュンときた
何なんだろう?
この気持ち‥?

応援ありがとうございます。
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