Family 91
予告しておりました『Family』です。🎶
本日は『2009年ホワイトデー』と『Family』の2話更新です。🎵
それではどうぞ~✴
お化粧もネイルもしていないし
髪も巻いていないしブランド物のバッグも持っていないし
時計は高校進学のお祝いにおじいちゃんが
近くの量販店で買ってくれた普通の物だし
スマホケースなんて百均で買ったシリコンケースだし
クラスの女の子達との違いを数え上げたらキリがない
別にその事を卑下しているわけじゃないけれど
完全にクラスでっていうか学園中で浮いた存在
特に嫌がらせされているとか
悪口言われているとかはないんだけど
私ってクラスの中では透明人間みたいな存在
ここに居るのに誰の目にも写っていない
そんな感じ
別に一人でいるのは苦痛じゃないからいいんだけど
どこか自信が無くて自己肯定が苦手な私は
学園の中で自分がここに居る意味だとか
意義みたいな物が見つけられなくて
ずっとモヤモヤした気持ちを抱えていた
そんな私のモヤモヤを晴らしてくれたのが
特異な学園の中でも更に異彩を放っていた彼だった
彼の存在は入学してすぐに気づいていた
特徴的なウェーブの掛かったクセっ毛に彫りの深い端正な顔立ちで
背が高く周囲より頭が一つ飛び出していて
他の子みたいにこれ見よがしにジャラジャラとアクセサリーも付けていない
だけど彼はそこに居るだけで他者を圧倒するような威圧感を漂わせていた
口数は少なくて同級生とおしゃべりをしている所を見かけた事はない
同級生っていうか学園中が彼には一目置いているようで
誰も気安く彼に声を掛けるような感じじゃなかったんだけど
誰もが彼に近付きたくて声を掛けたくてウズウズしながら
目で彼の一挙手一投足を見逃さないように追っている感じ
周囲は彼の事を”道明寺様”だとか”健様”と呼んでいた
高校生に対して様って何?って感じ
そりゃ私だって道明寺財閥ぐらいは知っている
日本を代表する大財閥で彼にそっくりなお父さんをテレビや雑誌でよく目にするもの
だからって同級生なのに様呼ばわりする?
なんだか良く分からない世界に足を踏み入れてしまった気がして
ますますモヤモヤが晴れない
そんな学園生活の中で私は思いがけず彼と話をする機会があった
きっかけはお昼休み
お昼はお弁当を家から持ってきている私
クラスでお弁当持参なんて私ぐらいで
他の子はみんな食堂で何千円もするバカ高いランチを食べている
誰もいない教室で一人食べることもあるんだけど
お天気のいい日は中庭で食べたりもしてたんだけど
最近、お気に入りの場所を見つけたの
それは屋上
学園の生徒は誰もこんな所に来ないから
お天気のいい日には一人
誰にも邪魔されず
誰の目を気にする事なく
のんびりと過ごせる場所
最近は毎日のようにここでお弁当を食べていた
季節は秋
茹だるような暑さだった夏が過ぎ
ゆっくりと季節が夏から秋へと移ろいゆくのを感じながら
その日も私は一人屋上でお弁当を食べていた
毎日、母が作ってくれるお弁当
中身は至ってシンプルな普通のお弁当
玉子焼きは少し甘めのだし巻きで
母オリジナルの味付けの唐揚げに
ほうれん草のおひたしに
昨日の残り物の春巻きとプチトマトが彩を添えている
そしてデザートには昨日、パパが博多に出張したお土産に
買ってきてくれた博多銘菓のひよこ饅頭
誰の目を気にする事なくお弁当をパクついて
さあ!デザートのひよこちゃん!なんて
包み紙からひよこちゃんを取り出しひよこちゃんと目が合いしばし悩む
頭からパクリといっちゃう?
う~ん‥それはちょっと残酷?
やっぱりお尻から?
どっちにしろ全部食べちゃうんだから
気持ちの問題なんだけどね
やっぱりお尻から!と思いひよこちゃんのお尻にパクリといこうとした瞬間
ガチャリと金属音がして屋上の鉄のドアが開き
彼が姿を現した
誰も来ないと思っていた屋上に
誰も居ないと思っていた屋上で
目が合い互いに動きが止まる
ひよこちゃんのお尻にかぶり付く寸前だった私
そんな私を見てプッと吹き出した道明寺君
カーッと顔が赤くなったのが自分でも分かったんだけど
どうする事も出来なくて俯いた私の隣に
一人分の距離を開けて彼が腰を下ろした
広い屋上
場所なら他にもあるのに‥
思いがけず至近距離で彼と二人っきりって状況にどぎまぎしている私なのに‥
「それ何?」
突然話しかけられて完全にパニクっていた
「えっ‥?‥な、何?」
「それ、お前が手に持ってるやつ!」
手にしているのはひよこ饅頭
「えっ‥?‥こ、これはひ、ひよこ饅頭!」
「ひよこ饅頭?
それがひよこなの?
美味しいの?」
「う、うん‥し、知らない?
博多銘菓なんだけど‥」
「知らない。」
「あっ!た、食べる?」
なんだか興味津々って感じで私が持っているひよこちゃんをマジマジと見ている彼に
もう一つのひよこちゃんを差し出そうとしたんだけどね‥
不意に伸びてきた彼の手がひよこちゃんを持つ私の手首を掴み
自分の方へと引き寄せるとひよこちゃんの頭にガブリ
「あっ!えっ‥?」
突然の彼の行動に驚き固まる私になんてお構い無しに
「甘い!けど美味しい。
ご馳走さま!」
とだけ言い残し行ってしまった
な、なにあれ?
なんだったの?
私の手には胴体だけのひよこちゃん
ど、どうすればいいの?

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