Family 113

惰眠を貪る休日の午後

だったのに！


俺の午睡を邪魔する不届きな幼児体型の可愛い悪魔が二人


珍しく母さんが俺達を置いて父さんとイギリスに行ってしまい
思いがけずの解放感

まぁ、解放感っつても屋敷で抜け目のないタマにがっつり監視されてるから
ある意味、節穴だらけの母さんより厄介だけど

もう高校生だからある程度は自由に泳がせてくれている


タマ曰く

“司坊っちゃんが高校生だった頃に比べれば
健坊っちゃんなんて可愛いもんですよ”

らしい


“司坊っちゃんなんて暴れるのを止めたと思ったら
次はつくしを押し倒す事しか考えてなかったからね”


お、俺だって！

一応、人並み？

いや‥父さんに似て？

それ以上かも知んねぇけど‥

欲望だとか願望だとかはあるし

そこそこ叶えてはいるけど‥


って！俺‥一人で誰に言い訳してんだろ？


と、とにかく！


父さんも母さんもいない休日

望は夕方までバイトだから
終わるのを待って迎えに行き
そのまま千葉の海岸にある別荘に行って
誰にも邪魔されず二人っきりで朝まで
なんて‥

脳内はすっかり‥


分かるだろ？


だったのに

可愛い悪魔が二人して

まるで俺のイケない妄想を咎めるかのように
襲い掛かってきた


がっつり寝ていたわけじゃなくて
うとうとしながら思考の端を漂いながら
その心地良さに身を委ねていただけだったから
部屋に誰かが入って来たというのには気づいていた

メイドならノックもしないで
返事のない部屋に勝手に入ってきたりしないから

双子だなぁって事はすぐに思い当たったが
確認するのも億劫でそのまま微睡みの中を漂っていた


双子は暫く俺の部屋に置いてある物で遊んでいる気配があったが
やがてそれにも飽きたのか二人して俺が寝ているベッドへと上がってくる気配がした


うんしょ！

だとか可愛い声が聞こえてきて
二人がベッドへと上がったのが分かった

どうするつもりなのか気配だけで様子を伺っていると
やがて二人して俺の身体の上に跨がり
一人が胸にもう一人が顔に座った


胸に感じる軽い圧迫感と顔に感じる息苦しさに目を開けると
俺の上で向かい合うように座っている双子


「桜、苦しい」

顔に座っている桜の両脇に下から腕を差し込み
顔の上から横にずらすと胸に座っている菫が
ベッド脇に置いていた俺のスマホを持っているのが見えた


「菫、返して」

スマホをこっちに渡すように手を差し出したけれど
菫はそれを無視して

「たけぅ！ママにおでんわしてくだちゃい！」


「たけぅじゃなくてた・け・るな！
母さんに電話ならタマにしてもらえよ！」


「タマちゃん、ダメって！」


「それは向こうがまだ朝早いからだろ？
もう少ししたら掛けてくれるだろ？
それまで我慢してろよ！」


「ダ～メ！」

プゥ～っと可愛い頬っぺたを膨らませながら
俺の額にスマホを振り下ろしてくる

菫に悪気が無いのは分かっている

今だって別に俺を殴ろうとしたわけじゃなくて
たまたまそうなっただけなのは分かるけど‥

ガン！という衝撃と共にスマホの角が額に入り
思いの外ダメージが大きくて自分でもびっくりする程
大きな声が出てしまった

「イテッ！コラッ！菫！」

額を押さえながら思わず出てしまった声

声に出してしまってすぐに後悔した

俺の大きな声にビクッ！っと反応した菫は
口をへの字に曲げ母さんそっくりな大きな瞳に涙を浮かべ始めた


泣くぞ！

絶対に泣くぞ！

後５秒で泣くぞ！


「あっ！ちょ、ちょっとタンマ！
菫！な、泣くな！」

慌てて上体を起こし菫を抱き寄せて
落ち着かせようと背中をポンポンと軽く叩いたけれど
時既に遅しで‥


抱き寄せた胸元から聞こえてきたのは

“ビェ～ン”と‥


なんとも表現しにくい菫の泣き声


「ご、ごめん、菫！
兄ちゃんが悪かったから！な、泣くなって！
わぁ！さ、桜！ちょっと待って！
お前まで泣くなって！」

ハァ～勘弁してくれよ

一人が泣いたら

もう一人も‥

つられるように桜まで‥


膝の上に二人を乗せて宥めるけど
効果無し

「わ、分かったから！
マ、ママに電話しような？！
兄ちゃんが掛けてやるから泣き止めって！」


母さんの事を久々にママなんて呼んで
すっげぇ違和感を感じるけど
とにかく二人を抱いたままスマホを操作し
母さんに掛けてみる

ロンドンは今、朝の７時頃のはず

頭の中で素早く時差を計算しながら
呼び出している間も二人は泣いたまま


５コールぐらいで出たのは何故か父さん

「もしもし？母さん？」


『んだよ？』

聞こえてきたすっげぇ機嫌の悪そうな父さんの声に少しだけ怯む


「か、母さんに代わってよ」


『つくしなら今、シャワーだ！
なんか用があんならさっさと言え！
ん？泣いてんのは菫と桜か？！』


泣き声に気づいた父さんの声が一段と低くなる

「えっ‥あ、っ‥なんか寂しくなったんじゃない？
だから母さんに掛けたんだけど」


泣き声に気づいた父さんに慌てて言い訳じみた言葉を繋いだけれど
父さんにはお見通しみたいで


『二人に代われ！』


「あっ、うん、ちょっと待って」


父さんの有無を言わせない感じの口調に思わず背筋が伸びる
それ以上は何も言わずスマホをまだ泣いている菫の耳元へと向けた


『菫か？どうした？
なんで泣いてるんだ？』

泣き声で双子を聞き分けている父さんって凄いとは思うけど
俺の時とは全く違う優しい声で話す父さんにちょっとムカつく

そして父さんの声に反応した菫が‥


“パパ～たけぅがいじわるするの～”


って！

自分達のした事は全てスルーして
あっさりと俺を売りやがった！

“パパ～、たけぅがね、すぅちゃんに
めっ！てしたの～”


『桜もされたのか？！』


“さぇたの～、たけぅがめっ！てするの～”


桜にはしてねぇって！

『健に代わってくれるか？』


ゲッ！


「も、もしもし？」

代わった瞬間、今の今まで双子と話していた
優しく甘いデレデレの声から一変している父さんの声に引く

『てめぇ！なに双子を泣かせてんだよ！？
カード止めんぞ！コラ！』


父さんについて仕事の手伝いをするようになってから
母さんには内緒でくれたなんでも買える黒いカード

今の俺の生命線

それを止めるぞ！と脅してくる父さん


「ご、ごめん‥」



『妹の面倒ぐらいちゃんと見てろ！
泣かすんじゃねぇ！』


「わ、分かった‥」


『あぁん？』

凄まれて慌てて言い直す

「わ、分かりました‥ご、ごめんなさい」

全面降伏の俺


父さん達が帰国するまで後３日

きっと父さんの怒りは持続してるだろうからヤバい

俺‥全然悪くねぇよな？

なんて思うけれど父さんにとって重要なのは
双子が泣いていた原因が俺って事だけだろうから


どうする？


ＮＹのばあちゃんとこにでも逃げるか？

あっ！望も一緒に連れて行こう！







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