月夜に 25
こんばんは。🎵
お引越しです。🎶
それではどうぞ~✴
日本での『sakura』の本格的な発表を1ヵ月後に控え
俺は親父達に例のシャトーに呼ばれていた
シャトーに着くと親父達は6年前と同じ部屋で待っていた
「遅くなり申し訳ありません」
挨拶をしながら部屋の中程まで進むと総二郎の親父さんが声を掛けてきた
「いやー、あきら君、忙しいのに呼び出してすまなかったね」
俺よりはるかに忙しい人達に言われるのは恐縮してしまう
「いえ。
今日は皆さんお集まりでどうなされたのですか?」
最初に話しを始めたのは俺の親父だった
「あきら、最近の櫻の様子はどうだ?
変わった様子はないか?」
親父は雛が産まれてからは毎晩のように屋敷でディナーを食べている・・
それもこれも雛がおじいちゃまと一緒がいいと言ったからで、
仕事の途中だろうがパーティーがある日だろうが一旦屋敷に戻り
雛と櫻と一緒にディナーを食べてからまた出かけて行く
ハァ~・・
ほとんど毎日一緒にメシ食ってるだろうが・・!
だけど・・
そんな事言えるはずもなく・・
当たり障りのない返答をしておく
「いつもと変わらず雛と元気にやっていますが」
「では記憶の方はどうだ?何か思い出したのか?」
「まだですが、櫻自身もかなり気にしている様子です・・」
「そうか。もう6年以上経つ、そろそろ潮時だな」
「それはどう言うことでしょうか?」
「以前、静さんに櫻を見つけられてしまった時に言っておいただろ?
そろそろ覚悟を決める時が来たと」
「はい、それは覚えていますが」
「それで、あきら君は覚悟は出来ているのかね?」
総二郎の親父さんが意味深な表情を浮かべながら俺を見ている
「覚悟なら6年前、牧野つくしが美作櫻になった時から出来ているつもりですが」
「そうか、それならいいんだ」
「お前は来月、日本に帰る予定になっているな?」
「はい」
「櫻と雛も一緒に連れて帰りなさい」
「えっ・・?!」
「そんなに驚く事でもないだろう」
「あっ、はい。ですがそれは櫻と雛を公表するという事でしょうか?」
「そうだな、櫻のコレクションが日本でも本格的に発売されれば嫌でも
櫻の事が注目されるだろうし、そうなればもう司君達に隠しておく事は出来ないだろう。
だから、お前は櫻と雛を連れて日本に帰り決着をつけて来い」
「何の決着を・・でしょうか?」
「お前は私達が何も知らないと思っているのか?」
「・・・・・・」
呆れ気味に話す親父に代わって類の親父が後を引き継いだ
「あきら君、ここからが本題だよ。
もし櫻が記憶を取り戻したら君はどうするつもりだね?」
「櫻が全てを思い出したのであれば彼女の意志に任せたいと思っていますが・・」
これは俺の本心だ
「それは、櫻が雛を連れて君の元から去っても構わないということかね?」
「はい。元々、記憶が戻るまでのつもりでしたので」
これも俺の本心・・
「君は本当にそれでいいのかね?」
「・・はい」
これは俺の本心じゃない・・・
「そうか。だがね私達はこの6年間、櫻や雛だけではなく君の事も見てきたんだよ、
君が櫻の事を何よりも大切に思っている事を私達は知っているんだ。
そこでだ、君は櫻と結婚する気はあるかね?」
「・・結婚で・・すか?」
予想外の言葉だった
まさか親父たちが俺と櫻を結婚させようとするなんて
思ってもみなかった・・
「そうだ、猶予は後1年だ。
その間に櫻の記憶が戻らなければ君と結婚する。
これは私達四人からの命令だよ」
「命令です・・か・・
お言葉を返すようですが、司は絶対に納得しないと思います」
「君は司が納得しなければ櫻の事を諦めると言う事かね?」
司の親父さんだった
「それは・・分かりません・・」
「諦められるのかね?」
「それも分かりません・・」
この答え・・
俺は親父達に櫻を愛していると告げてしまったようなものだよな
再び俺の親父が口を開いた
「あきら、いつまでもこのままという訳にはいかないんだ。
お前も櫻も司君たちもだ。ずっと独身でいるわけにはいかない。
分かっているな?」
「はい」
「あきら君、私から言えることは一つだけだ、司の事は考えないで
自分の気持ちに正直になってちゃんと将来の事を考えて欲しい」
司の親父の言葉だった
「ですが、雛は司の、いえ、道明寺家の・・」
「分かっているよ。
私は雛とも櫻とも今まで通り接していくつもりだがね」
「どうだ、あきら?」
「は、はい・・ですが・・今は何と答えていいのか分かりません」
「分かっているよ、まだ時間はある。
ゆっくり考えて答えを出せばいい。
だがな、どちらにせよ、一度日本で司君達と話をつけてこい」
「・・・司も日本にいるのですか・・・・?」
「お前たちの帰国に合わせて司君もNYから帰ってくる事になっている」
「分かりました・・」
俺が櫻と結婚・・?
そりゃ俺はこの数年間、ずっと櫻しか見てこなかったが結婚となると話は別だ
それに司は・・
あいつが絶対に櫻を諦める事はないだろう
もし櫻に再会したら、無理矢理にでもN.Yに連れて行こうとするだろうし・・
櫻はどうするだろう?
記憶が戻れば司の所へ行ってしまうのだろうか?
俺が想いを伝えればどうするだろう?
少しでも俺と一緒に居たいと思ってくれるだろうか?
どれぐらいボーっとしていたのだろう
櫻の声で我に返った
「・・・ら・・あきら・・・お~い、あきらく~ん!」
俺の目の前で手をヒラヒラとさせながら顔を覗き込んでいる
「・・・・あん・・・?」
「なに、変な声だしてんの?
ずーっとカップを持ったままだよ」
「あ・・あぁ・・」
「なによ?変なの」
「なぁ、櫻・・?」
「何?コーヒー淹れなおす?」
「・・あ・・あぁ、頼む」
櫻は自分の分のカップも持って屋敷へと入っていき、
すぐに二人分の新しいカップを持って戻ってきた
俺の前に座りなおすとカップに口をつけながら
「で、何?」
「来月、日本に帰る」
「・・お仕事?」
「ああ、仕事も兼ねてるけどお前と雛も一緒に連れて帰る」
「・・・私も・・・どうして?」
「親父の命令だよ」
「お父様の・・?」
「そうだ。なぁ、櫻もう6年経つ。
いつまでもこのままじゃいられないだろう?」
「・・そうだけど・・」
「俺は大学院を卒業したらおそらく日本で仕事をすることになるし。
雛も来年は小学生だからそろそろ日本で教育を受ける事も考えないと」
「・・日本に帰ったら記憶が戻ると思う?」
「分からないよ」
「もし、戻らないままだったら・・?」
「そんなに焦らなくてもいいよ。ゆっくりやっていけばいいんだから
今回は3週間だけの一時帰国だ」
「でも・・・あきらは大学院を卒業したら日本に帰るんでしょ・・・・?」
「多分な・・・」
「そしたら、私はまだ大学があるから雛と二人でパリに残るの?」
「お前がそうしたいなら残ればいいし、
とにかくそんな急いで答えを出す必要はないよ」
「でも・・あきらとは一緒にいられないんでしょ・・?」
櫻の瞳に涙が浮かんでいる
頼むからそんな目で俺を見ないでくれ・・
心が期待してしまうから・・
「急ぐ事ないからゆっくり考えろよ」
俺は今まで何となく避けていた話題を聞きたいと思った
「お前は日本に帰りたいと思った事ないのか?」
「ある・・けど・・何も憶えてないから・・・怖くて・・」
「怖い・・?」
「うん。もし私の事知ってる人に会ったらって思うと怖くて。
相手は知ってるのに私は知らないから‥今の日本ではお母様たちぐらいなのに・・
道だって分からないのに・・そんな所で雛と二人で上手くやっていく自信が無いの」
「大丈夫だよ、俺もいるし、お袋だっているんだから。
それにな、お前にもちゃんと友達がいるんだぜ。
正確に言うと俺とお前の共通の仲間だけどな」
「共通の・・お友達?」
「そう、最初に言っただろ?俺はお前の友達だったって‥
他にもいるんだよ、日本に帰ったら会わせてやるよ」
「でも・・私は何も覚えてないんだよ・・」
「あいつらはそんな事全然気にしないよ」
「どうしてそんな事が言えるの?その人達は私の記憶が無い事も
雛を産んだ事だって知らないんでしょ?」
「あいつらは今でもお前の事を心配してるし探してるよ」
「・・6年もたってるのに・・?」
「何年経ってたって関係ない。みんなお前の事を想ってるよ」
信じられないという顔で櫻が俺を見ていたが目を閉じ深く息を吐き出すと
「そう・・記憶が無くなる前の私っていい友達が沢山いたんだね・・」
「そうだよ。みんなお前の事が大好きなんだ。」
「だったら・・どうして私はそんな人達の事を忘れちゃったんだろう・・?」
「それは俺にも分からないけど。
あの時のお前は精神的に辛い状況だった事は確かだよ」
「ねぇ、その人達の中に雛の父親もいるの?」
「あぁ、いる・・でも、今は日本にいないよ」
「そう、何処にいるかなんて聞かないけど。
その人って今も独身?」
「あぁ、独身だけど・・どうしたんだ急に?」
「だって、もしその人に恋人や奥さんがいたらやっぱり雛の事は内緒にしといた方がいいでしょ?
あきらは前にその人は雛の事迷惑に思ったりしないって言ったけど。
やっぱり自分にいきなり6歳の子供が居るなんて言われたら迷惑だと思うもの‥」
「なぁ、もし記憶が戻ったら雛の父親とやり直そうと思わないのか?」
「・・雛にとってはやっぱり本当の父親と過ごすのが一番いいと思うけど。
分からないの‥記憶が戻っても好きって気持ちが戻ってくるとは限らないでしょ?」
「そうか・・」
好きって気持ちまで戻ってくるか分らない・・
俯きながら櫻の言った言葉が俺の頭の中でこだましている
どうして櫻はそんな事を考えるようになったのだろう・・?
まるで思い出す事を無意識の内に拒んでいるみたいだ
「うん・・」
私はどうしたいのだろう?
このまま記憶が戻らないことを望んでいるのだろうか?
思い出したと思っている
でも怖いんだ・・
全てを忘れてしまった時の気持ちまで思い出してしまうのだろうか・・?
今さらそれにどんな意味があるというのだろうか?
それがどんなに辛い事実だとしても思い出さなくてはいけないのだろうか?
だけど・・いつまでもこのままでいいわけないのも分っている・・

応援ありがとうございます。
お引越しです。🎶
それではどうぞ~✴
日本での『sakura』の本格的な発表を1ヵ月後に控え
俺は親父達に例のシャトーに呼ばれていた
シャトーに着くと親父達は6年前と同じ部屋で待っていた
「遅くなり申し訳ありません」
挨拶をしながら部屋の中程まで進むと総二郎の親父さんが声を掛けてきた
「いやー、あきら君、忙しいのに呼び出してすまなかったね」
俺よりはるかに忙しい人達に言われるのは恐縮してしまう
「いえ。
今日は皆さんお集まりでどうなされたのですか?」
最初に話しを始めたのは俺の親父だった
「あきら、最近の櫻の様子はどうだ?
変わった様子はないか?」
親父は雛が産まれてからは毎晩のように屋敷でディナーを食べている・・
それもこれも雛がおじいちゃまと一緒がいいと言ったからで、
仕事の途中だろうがパーティーがある日だろうが一旦屋敷に戻り
雛と櫻と一緒にディナーを食べてからまた出かけて行く
ハァ~・・
ほとんど毎日一緒にメシ食ってるだろうが・・!
だけど・・
そんな事言えるはずもなく・・
当たり障りのない返答をしておく
「いつもと変わらず雛と元気にやっていますが」
「では記憶の方はどうだ?何か思い出したのか?」
「まだですが、櫻自身もかなり気にしている様子です・・」
「そうか。もう6年以上経つ、そろそろ潮時だな」
「それはどう言うことでしょうか?」
「以前、静さんに櫻を見つけられてしまった時に言っておいただろ?
そろそろ覚悟を決める時が来たと」
「はい、それは覚えていますが」
「それで、あきら君は覚悟は出来ているのかね?」
総二郎の親父さんが意味深な表情を浮かべながら俺を見ている
「覚悟なら6年前、牧野つくしが美作櫻になった時から出来ているつもりですが」
「そうか、それならいいんだ」
「お前は来月、日本に帰る予定になっているな?」
「はい」
「櫻と雛も一緒に連れて帰りなさい」
「えっ・・?!」
「そんなに驚く事でもないだろう」
「あっ、はい。ですがそれは櫻と雛を公表するという事でしょうか?」
「そうだな、櫻のコレクションが日本でも本格的に発売されれば嫌でも
櫻の事が注目されるだろうし、そうなればもう司君達に隠しておく事は出来ないだろう。
だから、お前は櫻と雛を連れて日本に帰り決着をつけて来い」
「何の決着を・・でしょうか?」
「お前は私達が何も知らないと思っているのか?」
「・・・・・・」
呆れ気味に話す親父に代わって類の親父が後を引き継いだ
「あきら君、ここからが本題だよ。
もし櫻が記憶を取り戻したら君はどうするつもりだね?」
「櫻が全てを思い出したのであれば彼女の意志に任せたいと思っていますが・・」
これは俺の本心だ
「それは、櫻が雛を連れて君の元から去っても構わないということかね?」
「はい。元々、記憶が戻るまでのつもりでしたので」
これも俺の本心・・
「君は本当にそれでいいのかね?」
「・・はい」
これは俺の本心じゃない・・・
「そうか。だがね私達はこの6年間、櫻や雛だけではなく君の事も見てきたんだよ、
君が櫻の事を何よりも大切に思っている事を私達は知っているんだ。
そこでだ、君は櫻と結婚する気はあるかね?」
「・・結婚で・・すか?」
予想外の言葉だった
まさか親父たちが俺と櫻を結婚させようとするなんて
思ってもみなかった・・
「そうだ、猶予は後1年だ。
その間に櫻の記憶が戻らなければ君と結婚する。
これは私達四人からの命令だよ」
「命令です・・か・・
お言葉を返すようですが、司は絶対に納得しないと思います」
「君は司が納得しなければ櫻の事を諦めると言う事かね?」
司の親父さんだった
「それは・・分かりません・・」
「諦められるのかね?」
「それも分かりません・・」
この答え・・
俺は親父達に櫻を愛していると告げてしまったようなものだよな
再び俺の親父が口を開いた
「あきら、いつまでもこのままという訳にはいかないんだ。
お前も櫻も司君たちもだ。ずっと独身でいるわけにはいかない。
分かっているな?」
「はい」
「あきら君、私から言えることは一つだけだ、司の事は考えないで
自分の気持ちに正直になってちゃんと将来の事を考えて欲しい」
司の親父の言葉だった
「ですが、雛は司の、いえ、道明寺家の・・」
「分かっているよ。
私は雛とも櫻とも今まで通り接していくつもりだがね」
「どうだ、あきら?」
「は、はい・・ですが・・今は何と答えていいのか分かりません」
「分かっているよ、まだ時間はある。
ゆっくり考えて答えを出せばいい。
だがな、どちらにせよ、一度日本で司君達と話をつけてこい」
「・・・司も日本にいるのですか・・・・?」
「お前たちの帰国に合わせて司君もNYから帰ってくる事になっている」
「分かりました・・」
俺が櫻と結婚・・?
そりゃ俺はこの数年間、ずっと櫻しか見てこなかったが結婚となると話は別だ
それに司は・・
あいつが絶対に櫻を諦める事はないだろう
もし櫻に再会したら、無理矢理にでもN.Yに連れて行こうとするだろうし・・
櫻はどうするだろう?
記憶が戻れば司の所へ行ってしまうのだろうか?
俺が想いを伝えればどうするだろう?
少しでも俺と一緒に居たいと思ってくれるだろうか?
どれぐらいボーっとしていたのだろう
櫻の声で我に返った
「・・・ら・・あきら・・・お~い、あきらく~ん!」
俺の目の前で手をヒラヒラとさせながら顔を覗き込んでいる
「・・・・あん・・・?」
「なに、変な声だしてんの?
ずーっとカップを持ったままだよ」
「あ・・あぁ・・」
「なによ?変なの」
「なぁ、櫻・・?」
「何?コーヒー淹れなおす?」
「・・あ・・あぁ、頼む」
櫻は自分の分のカップも持って屋敷へと入っていき、
すぐに二人分の新しいカップを持って戻ってきた
俺の前に座りなおすとカップに口をつけながら
「で、何?」
「来月、日本に帰る」
「・・お仕事?」
「ああ、仕事も兼ねてるけどお前と雛も一緒に連れて帰る」
「・・・私も・・・どうして?」
「親父の命令だよ」
「お父様の・・?」
「そうだ。なぁ、櫻もう6年経つ。
いつまでもこのままじゃいられないだろう?」
「・・そうだけど・・」
「俺は大学院を卒業したらおそらく日本で仕事をすることになるし。
雛も来年は小学生だからそろそろ日本で教育を受ける事も考えないと」
「・・日本に帰ったら記憶が戻ると思う?」
「分からないよ」
「もし、戻らないままだったら・・?」
「そんなに焦らなくてもいいよ。ゆっくりやっていけばいいんだから
今回は3週間だけの一時帰国だ」
「でも・・・あきらは大学院を卒業したら日本に帰るんでしょ・・・・?」
「多分な・・・」
「そしたら、私はまだ大学があるから雛と二人でパリに残るの?」
「お前がそうしたいなら残ればいいし、
とにかくそんな急いで答えを出す必要はないよ」
「でも・・あきらとは一緒にいられないんでしょ・・?」
櫻の瞳に涙が浮かんでいる
頼むからそんな目で俺を見ないでくれ・・
心が期待してしまうから・・
「急ぐ事ないからゆっくり考えろよ」
俺は今まで何となく避けていた話題を聞きたいと思った
「お前は日本に帰りたいと思った事ないのか?」
「ある・・けど・・何も憶えてないから・・・怖くて・・」
「怖い・・?」
「うん。もし私の事知ってる人に会ったらって思うと怖くて。
相手は知ってるのに私は知らないから‥今の日本ではお母様たちぐらいなのに・・
道だって分からないのに・・そんな所で雛と二人で上手くやっていく自信が無いの」
「大丈夫だよ、俺もいるし、お袋だっているんだから。
それにな、お前にもちゃんと友達がいるんだぜ。
正確に言うと俺とお前の共通の仲間だけどな」
「共通の・・お友達?」
「そう、最初に言っただろ?俺はお前の友達だったって‥
他にもいるんだよ、日本に帰ったら会わせてやるよ」
「でも・・私は何も覚えてないんだよ・・」
「あいつらはそんな事全然気にしないよ」
「どうしてそんな事が言えるの?その人達は私の記憶が無い事も
雛を産んだ事だって知らないんでしょ?」
「あいつらは今でもお前の事を心配してるし探してるよ」
「・・6年もたってるのに・・?」
「何年経ってたって関係ない。みんなお前の事を想ってるよ」
信じられないという顔で櫻が俺を見ていたが目を閉じ深く息を吐き出すと
「そう・・記憶が無くなる前の私っていい友達が沢山いたんだね・・」
「そうだよ。みんなお前の事が大好きなんだ。」
「だったら・・どうして私はそんな人達の事を忘れちゃったんだろう・・?」
「それは俺にも分からないけど。
あの時のお前は精神的に辛い状況だった事は確かだよ」
「ねぇ、その人達の中に雛の父親もいるの?」
「あぁ、いる・・でも、今は日本にいないよ」
「そう、何処にいるかなんて聞かないけど。
その人って今も独身?」
「あぁ、独身だけど・・どうしたんだ急に?」
「だって、もしその人に恋人や奥さんがいたらやっぱり雛の事は内緒にしといた方がいいでしょ?
あきらは前にその人は雛の事迷惑に思ったりしないって言ったけど。
やっぱり自分にいきなり6歳の子供が居るなんて言われたら迷惑だと思うもの‥」
「なぁ、もし記憶が戻ったら雛の父親とやり直そうと思わないのか?」
「・・雛にとってはやっぱり本当の父親と過ごすのが一番いいと思うけど。
分からないの‥記憶が戻っても好きって気持ちが戻ってくるとは限らないでしょ?」
「そうか・・」
好きって気持ちまで戻ってくるか分らない・・
俯きながら櫻の言った言葉が俺の頭の中でこだましている
どうして櫻はそんな事を考えるようになったのだろう・・?
まるで思い出す事を無意識の内に拒んでいるみたいだ
「うん・・」
私はどうしたいのだろう?
このまま記憶が戻らないことを望んでいるのだろうか?
思い出したと思っている
でも怖いんだ・・
全てを忘れてしまった時の気持ちまで思い出してしまうのだろうか・・?
今さらそれにどんな意味があるというのだろうか?
それがどんなに辛い事実だとしても思い出さなくてはいけないのだろうか?
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