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月夜に 26

こんばんは。🎵
お引越しです。🎶
それではどうぞ~✴



「ねぇ、あきら?
 さっきみんな私の事探してるって言ったわよね?」

「あぁ、探してるよ」

「どうして?」

「それは・・・」

「それは、何?」

「・・・6年前、お前が急にみんなの前から居なくなったからだよ。
 お前、目覚ました時の事覚えてるだろ?
 お前は倒れる当日までちゃんと学校に通ってて、俺も同じ学校に通ってたんだよ」

「同じ学校って・・英徳?
 私も英徳に通ってたの?」

「そうだよ」

私も英徳に通ってた・・

初めて知らされた事実・・

あきらは今まで一度も私の記憶に関する事は教えてはくれなかった

むしろその話題を避けているような気がしていたのに

なのに・・

どうして急にいろいろと話してくれる気になったのだろう?

「どうして急にいろいろと教えてくれるの?」

「日本に帰って他のやつから聞くより
 俺から聞いたほうがいいと思うからだよ」

「そう・・じゃぁ、もう一ついい?」

「何だ?」

「私を探してくれている人たちって・・
 私があきらと一緒に居るって事知らないのよね?
 だからずっと私を探してる・・」

「あぁ、誰にも言ってない。
 しいて言えば静だけだ。静もお前を探してる一人だったんだ。
 偶然、街中でお前を見かけて日本に連絡したらしい。
 そして俺に日本から静がこっちでお前を見かけたらしいから
 調べてくれって連絡がきたんだ」

「それじゃぁ・・静さん・・日本にいる人たちに嘘ついたって事・・?」

「ああ、俺が頼んだんだ」

「どうして?どうして私の事を隠す必要があるの?」

「いろいろとな・・」

「雛の事・・?それとも記憶の事・・?」

「だからいろいろだよ!
 ・・お前の事も雛の事も隠すって決めたのは親父達だ。
 俺は・・それに従っただけだ・・」

「お父様方が・・どうして?」

「それは・・記憶が戻ればわかるよ・・」

「結局・・それなのね・・」

「すまない」

「謝らないでよ・・あきらが悪いわけじゃないでしょ・・
 悪いのは私なんだから・・
 あきらがこっちに来てから一度も日本に戻らなかったのはそういう理由だったのね・・
 ごめんね・・私のために・・6年間もずっと嘘つかせたままで・・
 それなのに私・・なにも思い出せなくて・・」

「櫻・・俺が日本に帰らなかったのもお前と雛の事で親父達の言いなりになって
 嘘ついたのも全部自分で決めた事だからお前が気にすることじゃない。
 俺は6年前のあの日に決めたんだ、何があってもお前と雛の事は守るって
 だけどちゃんと守れてるのか自信はない。結局は親父達の言いなりになって
 問題を先延ばしにしてきただけなんじゃないかって・・俺はちゃんとお前たちを守れてるか?」

怖いくらいの真剣な目とはうらはらなやさしい声が響いてくる・・・

「うん・・守ってもらってる・・前にも言った事があるでしょ?
 感謝してるって。私はこの6年間ずっと幸せだった。
 今、この瞬間だって同じ気持ちだよ。ありがとう」

うつむいていた顔を上げ涙目で彼を見つめ返すと
彼のくしゃりとした笑顔とぶつかった

「あ~もうヤダ!そんな顔で見つめないでよ!」

「そんな顔って・・どんな顔だよ!?」

「こ~んな顔」

櫻は自分の手を目じりに持って行くと思いっきり下へと引っ張っている

「ブッ・・お前こそ変な顔じゃねぇかよ!
 俺はそんな変な顔してないね!」

「してるわよ、こ~んな顔」

櫻はまだやっている・・

「ハハハハッ・・もうやめとけよ!
 余計ブスになるぞ!」


「ブスってなによ!
 そりゃ美人じゃないけどそんなストレートに言わなくってもいいでしょ!?」

「俺は正直者だから」

「もう!」

櫻は横を向いてすねてしまった

俺たちの会話はたいていこの調子だ

最後にはいつも櫻が拗ねてお終い

今日もこれでいい・・

櫻が考え始めるとまた抜け出せない堂々巡りの迷路に迷い込んでしまうだけだから

これからは日本に帰る日が近づいてくればだんだんとナーバスになってくるだろうし・・

だけど・・

そろそろタイムリミットなんだな

俺も自分の気持ちにも答えを出さなければいけない時が近づいてきている

こんな毎日も・・

もうすぐ終わってしまうんだな・・






日本に帰る日が近付いてきている

ここ数日、俺は櫻の様子が気になっていた
表面上は普段と変わりなく過ごしているが
時折考え込んむような仕草を見せる事が多くなった

雛は初めての日本に今から興奮しているようで、一日中、日本の事ばかり話ている

今、俺の目の前に座っている櫻はまた自分の世界を漂っている…

「どうしたんだ?大丈夫か?」

「えっ・・何?」

「お前、最近そうやってボーッとしてる事が多いな」

「そ、そう…?」

俺は櫻の隣に移動しそっと肩を抱き寄せる

記憶を無くしてから幾度となく考え込み
時には落ち込んでいる櫻にそうやって接してきた

「何か心配事か?」

「ん…心配っていうより不安かなぁ…?」

「日本に帰る事か?」

「ん…やっぱりちょっとね、緊張もあるかも…」

「そうだな、なんせ6年ぶりだからな。
 でも俺も一緒なんだからあんまり考え込むなよ」

「うん。分かってるよ。ありがとう」

そう言ってやわらかく微笑んだあいつの顔と

腕に感じている感触が俺の感覚を麻痺させる

思わず櫻を抱き寄せ頬にキスをした

櫻は驚いた顔をしていたが、

俺自身自分のその行動にもっと驚いている

胸のドキドキを櫻に悟られないように平然とした顔で

本当に出来ていたかわ分からないが・・

櫻の方も俺のそんな様子に気付くほどの余裕は無かったみたいで助かった・・

今のキスが軽い挨拶である事を強調するように

「どういたしまして」

真っ赤になっている櫻の顔を見ているとこのまま押し倒してしまいたい衝動に駆られる

どうやら俺は相当イカれてるらしい…





夕食の後、雛を寝かしつけて自分の部屋のソファーから窓の外を見ていた

静かな夜・・・パリの郊外

庭にはローズガーデンが広がり

バラの花の甘い香りが開け放たれた窓から入ってくる

最近こうしてボーッとしている時間が多くなっていた

今だってそうあきらが部屋に入ってきたのだって気付かなかった

彼が私の隣に腰を降ろして初めて彼の存在に気づいた・・

心配そうに私の肩をそっと抱き寄せられる

彼がこうして私を抱き寄せるときは本気で心配しているサイン・・

抱き寄せられた腕のぬくもりを感じながら

頭を彼の肩へと乗せると不思議と心が落ち着いてくる・・

いつからだろうこの腕をこんなにも大切だと思い始めたのは

記憶の無い私をここまで支えてくれたのはこの腕の持ち主

以前、彼に言った言葉

記憶が戻っても、好きって気持ちまで戻ってくるかわからないから・・

この言葉は私の本心

もし、私が記憶を取り戻したら彼はどうするのだろうか?

全てを思い出したいと思っている…私と

思い出さなくてもいいと思っている…私

…どちらも私の本心

日本に帰るというだけで心が落ち着かない

あれから6年、

母親となり23歳になった私にこれから先、日本で何が待ち受けているのだろうか?




応援ありがとうございます。
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kirakira
Posted bykirakira

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