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月夜に 35

こんにちは。🎵
お引越しです。🎶
それではどうぞ~✴



櫻が飛び出して行った後の5人は重苦しい空気に包まれていた

後を追いかけようとした滋を総二郎が止めた

「滋、ダメだ!追いかけるな!」

「どうしてよ!どうして追いかけちゃダメなのよ!」

「ダメだ!深追いするな!」

「だからどうしてよ!?」

興奮した滋が勢いに任せて総二郎に馬乗りになって掴みかかっている

掴みかかられている総二郎は滋のあまりの力に動きが取れないでいるところを
桜子が後ろから滋を引き剥がしてくれた

「滋さん、落ち着いて座ってください!
 先輩が美作さんと一緒だって分かったんですからいつでも会えますよ。」

「そ、そうだぞ、滋!だから落ち着け!」

滋から引き離され息を整えていると
ずっと黙って事の成り行きを見守っていた類が口を開いた

「ねぇ、牧野の様子、変だったよね?」

「類・・お前もそう思ったか・・?」

「うん・・なんだか・・俺達のこと分からないみたいじゃなかった?」

「・・・えっ?類君・・それってどういう事?」

「う~ん・・もしもだけど・・もし牧野があの頃の司と同じ状態だったとしたら・・?」

「類・・司と同じって・・牧野も記憶が無いってことか?」

「そう・・そして司よりひどい状態だとしたら・・?」

「司・・以上ってか・・?」

「司が忘れたのって牧野の事だけだったでしょ・・
 だけど牧野は俺達のことも忘れてるとしたら?」

「けどよ・・そんな事って・・有り得るのか?」

「分からないけど・・もしこの考えが当たってたとしたら
 牧野が逃げ出したこともあきらとの事なんかも説明がつくんじゃない?」

「つくか・・?説明・・?
 ハァ~だとしたら尚更あきらと話しする必要があるな・・」

「そうだね」

ハァ~・・なんなんだよ!

この展開は・・・

1枚扉を開けるとすぐに目の前にはもう1枚の扉がある・・・

前に進めば進むほどに眩暈のような感覚に襲われる・・

辿り着いた答えに沈黙が降りてくる・・・

瞳に一杯の涙を溜めた桜子がすでに泣き出してしまっている滋の背中を優しくさすっていた

しばらくしゃくり上げるように泣いていた滋だったが
いきなり顔を上げたと思ったら隣に座っていた総二郎の腕を取った

「総二郎!私、つくしに謝らなきゃ!
 会えたのが嬉しくて、つくしの気持ちとか全然考えてなくて・・
 きっとつくし今ごろ訳が分からなくて混乱してるよね?!
 ねぇ、あきら君に電話して!お願い!」

「あぁ、今からしてみるよ」

やっぱ電話すんのは俺なわけね・・・

小さなため息と共に携帯を手にした時
遠慮気味な歩美の声が聞こえてきた

「・・あの・・あきらさんへの電話・・私が掛けてもいいですか?」

「・・構わないけど・・」

「ありがとうございます。
 櫻ちゃんが飛び出して行っちゃったのって元はと言えば私の責任ですから・・」

「歩美ちゃんの責任じゃないよ気にしないで。
 俺達こそ巻き込んじゃって悪かったね」

「いいえ、大丈夫ですから。
 じゃあ、あきらさんに電話してみますね」







『はい』

電話口から聞こえてきたあきらさんの声は今まで聞いたことのない冷たい声だった

瞬時に彼が怒っていると感じた

「もしもし、歩美です」

『あぁ』

抑揚のない彼の声が頭の中でこだましている

だんだん泣きたい気分になってくる・・・

「あ、あの・・今日はごめんなさい。
 私、滋と永林で同級生だったんです。
 私、何も知らなくて・・」

『君のせいじゃないよ』

「あの・・櫻ちゃんは大丈夫ですか?」

『あぁ』

「櫻ちゃんに謝っておいてください。
 驚かせちゃってごめんなさいって・・」

『分かった。伝えておくよ。
 ところでまだ総二郎達と一緒なの?』

「は、はい、一緒です」

『そう、じゃぁ総二郎に変わってもらえるかな?』

「はい、分かりました。
ちょっと待ってください」

すぐに電話口から総二郎の少し緊張した声が聞こえてきた

『もしもし?』

「総二郎か?」

『あぁ、今日は悪かったな。
 牧野、大丈夫か?』

「大丈夫だ」

『お前、こっちに来れるか?』

「ああ、そのつもりだ。
 俺もお前達に話しがあるしな」

『そうか、で、連れてこれないのか?』

「今日はもう無理だ」

『そうか・・仕方ないな・・』

「今、司も一緒か?」

『いいや、呼ぶか?』

「あぁ、頼む」

『分かった。
 司に牧野が見つかったって話しておいていいんだな?』

「構わないよ」

『それじゃぁ、待ってる』

「あぁ、後で」


総二郎との電話を切ると抱きしめたままだった櫻が心配そうに俺を見上げていた

「大丈夫だよ」

櫻を安心させるために微笑みながら言うと

「これから出かけるの?」

「あぁ、総二郎達と会ってくるよ。
 お前の事ちゃんと説明してくるから心配するな」

「うん、あのね・・お願いがあるの、みんなに謝っておいてほしいの
 逃げ出したりしてごめんなさいって」

「分かった、ちゃんと伝えてくるよ」

「ありがとう」

そう言うと櫻はもう一度、俺の胸に顔を埋めた

無意識のうちに彼女を抱きしめている腕に力が込もる

このまま離したくない衝動に駆られる

今の彼女なら俺を選んでくれるだろうか?

いつもこの考えが頭をよぎる

バカな考えだよな・・

もし、俺を選んでくれたら・・?

だけど記憶の戻らないままの彼女と一緒になれたとしても

俺も櫻も幸せにはなれない

それにきっと司と再会した櫻は記憶が無くてもまた司を選ぶだろう

何があってもこの二人なら再び惹かれあうだろう

俺の想いは成就する事はない・・

そんな事分かっていたはずなのに・・

悪あがきだと分かっていても今はまだこの想いを諦めることはできない
俺はそれほどこいつに惚れている・・・

抱きしめていた腕の力を抜きゆっくりと体を離す


「すぐに戻るからそんな顔するな。
 一人でいるのが不安ならお袋のところにでも行ってろ」

「うん。
 ねぇ、すぐに出かけるの?」

「そのつもりだけど、どうしたんだ?」

「う・・うん、お夕飯食べていかないの?」

「いいよ、帰ってから食べるから」

「じゃぁ、私も食べないで待ってる」

「いいよ、何時になるか分からないから先に食べてろ」

「いい、一緒に食べたいから待ってる」

「そうか、分かったよ。
 なるべく早く帰るから」


「うん」


やっと櫻に笑顔が戻った




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kirakira
Posted bykirakira

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