Family 140

屋敷に戻るといつも真っ先に出迎えに出てくるお袋の姿がない

出迎えに出て来たメイド頭の幸子さんに
脱いだ上着を手渡す


「あきら様、お帰りなさいませ」


「ただいま、お袋は？いないの？」


「奥様でしたら翼様とダイニングにいらっしゃいます」


「翼が来てるのか？」


「はい、先ほどお一人でいらっしゃいました」

「分かった」


翼が一人で？

珍しい事もあるもんだ

幼い頃には健と二人でよくお袋に拉致られていたが
最近ではめっきりその回数も減っていたのに


「あきら様、お食事はいかがなさいますか？」


「あぁ、軽く食べる」


「畏まりました」


俺はそのまま翼とお袋がいるダイニングへと入っていくと
テーブルの上にお袋のお手製スイーツが所狭しと並べられていて

翼はちょうどマカロンを口に放り込む瞬間だった


「あら！？あきら君！お帰りなさい！」


「あきらおじさん、お帰り」


「お、おぅ‥翼？お前一人か？」


「ん」


「あきら君！つぅちゃんがね、あきら君にお願いがあるんですって！」



そう言いながら嬉しそうに俺の腕を引っ張り
翼の横に座らせたお袋

俺がお願いされるのが何がそんなに嬉しいのか
知らねぇーけどとにかくお袋の機嫌はいい

頼み事をされるのは俺なのに
お袋が話しを聞く気満々で
嬉しそうなのがちょっと気になるが
とりあえず翼のお願い事やらを聞いてみる


「なんだ？司とケンカでもしたか？」


「母さんとはしたけど父さんとはしてないよ。
それに俺、仲裁とか頼みに来たんじゃないから」

牧野とはしたんかよ‥


「じゃあ、なんだ？」


「おじさんさぁ、バスケ出来たよね？
来月の大会にエントリーしといたから練習しといてね。
それから俺にバスケ教えてよ」


「ん？」


バスケの大会にエントリー？

はぁ？

色々と大事な部分を省き過ぎてるぞ！

司以上の言葉足らずにため息が漏れる


「翼？訳が分かんねぇ！
ちゃんと分かるように説明しろ！」


「え～めんどくさい」


「めんどくさいって‥
お前は類か？！」


「夢子ママはいいって言ってくれたし
もうエントリーしたからキャンセルはムリだから！」


「何にエントリーして何のキャンセルがムリなんだよ？！
お袋にじゃなくてまず俺に話せ！」


「あきら君！いいじゃないの！
どうせ暇でしょ？つぅちゃんのピンチなんだから協力してあげてね！」

暇とか言うなよ‥

「暇じゃねぇーって！」


「ねぇ～つぅちゃん！」


話し聞けって！


「だよね～夢子ママは物分かりが良くて助かるよ！
それじゃあ、俺そろそろ行くから！
ねぇ？夢子ママ？このお菓子貰って行っていい？
真湖ちゃんにあげたいんだ！」

こら！勝手に終わんな！


「いいわよ！
今、包んであげるからちょっと待っててね」


翼相手にご機嫌なお袋だけど

二人して肝心な説明をするつもりはねぇーんだな‥

結局、詳しい説明はしないまま帰ってしまった翼

翼が帰った後、なんとかお袋に聞き出しただけだから
今いち要領は得ていないし納得もしていないが

とりあえず俺は来月の３on３の大会に勝手にエントリーされているらしい


"つぅちゃんの青春が掛かってるのよ！あきら君！頑張ってね！"


なんてお袋はすっかりその気で
早速、親父に電話して一緒に応援に行くつもりになっているけれど


俺‥‥３６だぞ！


バスケなんて２０年近くやってねぇーぞ！？

前にやったのは確か‥

あの試合か‥？

果たしてあれが試合と呼べるのかどうか
今となっては微妙だけど‥


牧野を挟んで俺達がって言うか‥


司と類と牧野の微妙な三角関係に巻き込まれ
振り回されただけのあの試合以来だよな？

バスケぐらい出来る‥はずだ！

バスケなんて楽勝だけどよ

なんで司と同じチームなんだよ？！

いや！そもそもなんで俺なんだよ？！


３on３の大会で優秀なんて‥

だ、大丈夫か？俺？！

不安しかねぇ～








"い～や～だ～！"


"びぇ～ん～、いくの～！"


"二人ともそんなに泣かないで、ママだって行きたいけど‥ごめんね"


"びぇ～ん～、ママのうちょつき～！"


"うちょつきぃ～、いくっていったもん！"


昨夜、ＮＹから帰国し
久しぶりの休日の朝

目が覚めたと同時に耳に飛び込んできたのは双子の泣き声

足元のバスローブを拾い上げ袖を通しながら声のしたリビングへと入っていくと

つくしはソファーに座っていてその前で双子が泣きながら地団駄を踏んでいた



「朝っぱらから何騒いでんだ？」


「あっ！パパ！おはよう」


「「パパ～」」

俺の声が聞こえた途端、俺に向かって走ってきた双子は
同時に腕を突き上げ抱っこをせがんでくる


「おぅ！なんで泣いてんだ？」


「ママがね、うちょつきなの！」

「うちょつきなの！」


「ママが嘘ついたのか？」


「「うん！」」


「そうなのか？」


確認するようにつくしの方を見ると


つくしは少し困った表情を浮かべ
小さくため息を溢しソファーから立ち上がり
こちらへと歩いてきた


「ごめんね、体調が良ければお出かけするって約束してたんだけどね‥
昨日からお腹が張ってて‥今日はちょっとムリかなぁって話してたの‥」


「大丈夫なのか？」


抱き上げていた双子を下に下ろし
調子が悪いと言ったつくしをソファーへと座らせる

「うん、それほどじゃないから大丈夫だけど、
出掛けるのはちょっとね‥ムリだと思うの‥」


「い～や～だぁ～！
すぅちゃんいぎたいの～！びぃ～え～ん～！」

「さっちゃんもいぎだぁぃ～！うぇ～ん！
ママのうちょちゅきぃ～！」


「ハァ～ごめんね‥」


困り顔のつくしがいくら言っても行きたいの一点張りで
聞こうとしない双子


「どこに行く予定だったんだ？」


「「ぷぃきゅあ！」」


「ぷ、ぷぃきゅあ？」

「プッ！プ・リ・キュ・アだって！」


「その、ぷ、なんちゃらが何なんだ？」


「女の子に人気のアニメなんだけどね
それのイベントをやってるのよ。
それに行くって約束してたんだけどね‥」


「よじょらにかがやくちんぴのちゅきあかり！きゅあちぇれーぬ！なの！」

「ぅちゅにかがやくきらきらほし！きゅあちゅたー！です！」

目の前でなんか振り付きでポーズを取っている双子

さっぱり分かんねぇーけど

その姿がめっちゃ可愛いぞ！


「ぉ、おぅ！なんだ？」


「主人公の女の子達の名乗り？っていうのかな？
それぞれ必ず言うセリフがあるのよ」

「そ、そうか‥でもママは今日はお出かけムリだから
また今度じゃダメなのか？」


「「だぁ～めぇ！」」


「ハァ～、そのイベントが今日までなのよ‥」


「それって何処でやってんだ？」


「ウチの百貨店だけど‥」


「あんな所でそんな子供向けのイベントなんてやってんのか？」

そもそもがデパートのイベントなんて興味が無いから
今まで意識したことはなかったがつくし曰く
定期的に子供向けのイベントを色々とやっているらしい


「うん、キャラクターがショーをしたり
一緒に写真が撮れたりと色々とあるみたいなのよね‥
ハァ～どうしよう？この子達‥楽しみにしてたんだけど‥」


「だったら俺が連れてってやるよ！」


「ヘッ？いいの？」

「おぅ！それぐらいなら俺だけでも大丈夫だろ？」

「う、うん‥大丈夫？だとは思うけど‥」


「ヨシ！そうと決まればさっさと準備しろよ！」


「「やった～！パパ～だいちゅき～！」」


「おぅ！任せとけ！」

久しぶりの休日、思いがけず双子とお出かけ

つくしは心配しているけれど‥

まぁ、なんとかなるだろ？




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