万有引力のススメ 5

この感情をどう表現すればいいのだろうか？

何故こんなことになってしまったのか？

いくら考えたところで分からないまま
過ぎてしまっていた時間の長さに絶望している

記憶の一部が欠損している
かつて医者に言われた言葉

深刻には考えていなかった
自分にとって本当に必要な記憶なら
そのうち思い出すだろうと軽く考えていた

そしてその事自体もＮＹへ渡り
忙しい毎日を過ごす内に忘れていた

忘れている事さえも忘れて過ごしてきた時間

気が付けば１６年もの年月が流れていた

きっかけはほんの些細な出来事だった

リムジンの中から牧野に似た少女を見かけただけ

高校生らしいその少女は制服を着ていて
黒く長いストレートの髪を風に靡かせ
渋滞にはまりノロノロ運転のリムジンの横を駆けて行った

その姿を目で追いながら俺の頭の中に浮かんだのは
英徳の制服を着た黒髪の少女の姿

まるでデジャブのような感覚に捕らわれた後
激しい頭痛に襲われ意識を飛ばしてしまい
気がついた時には全てを思い出していた

これは現実なのか？

それとも悪い夢を見ているのか？

判断が付かずボンヤリとする俺に届いたのは西田が俺を呼ぶ声だった

西田の声が聞こえた途端
これは現実なんだと思い知った

例え悪夢であろうとも夢であってほしかった

全てを思い出した世界はなんて美しくて
なんて残酷なのだろう

それまで過ごしてきた世界はどこもかしこも闇ばかりで
なんて空虚なのだろう

戻りたいか？

元の世界に？

冗談じゃない！

もう嫌だ！

色のない世界は寒すぎる

なら今の世界は？

ここに留まる意味はあるのか？

意味は‥

忘れてしまっていたあいつの存在

だけど１６年だ

それだけの時間が俺に流れたように
牧野にも同じだけの時間が流れている

普通に考えれば俺じゃない男と結婚して
俺じゃない男のガキを生んでいるだろう

俺のことなんて綺麗さっぱり忘れて

俺のことなんて‥

らしくないネガティブな感情に支配されて動けない俺に
何かを察したのだろう西田が差し出したファイル





中途半端な長さでごめんなさいm(__)m


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