万有引力のススメ 9

ひっさしぶりに見たバカみたいにデカイ車に引きずりこまれた！

乗る事に同意なんてしてない！

濃厚過ぎるキスに酸欠でクラクラしてる間に
荷物みたいに運び込まれた！

これって誘拐じゃない？！

誘拐よね？！

でね

誘拐犯はといえば

私を自分の膝の上に横抱きにして
うっとりした表情で頬を寄せてきて
スリスリしたりなんかしてて

あんたはネコか？！って感じ

いや！そんな事考えてる場合じゃないのよ！

１６年よ！

１６年ぶりなの！

スリスリとかしてる場合じゃないのよ！

「ちょ、ちょっと！あんた、なんなのよ？！」

スリスリ誘拐犯の頭を押し返しながら
１６年ぶりに彼に発した言葉がこれって‥

なんかもっと他に

ね

色々とあったと思うんだけど

ん？

あったかしら？

う～ん

こんな時ってなんて言えば正解なんだろう？

１６年ぶりに会ったちょっとした？

ちょっとじゃないか‥？

まぁ

なんでもいいんだけど

１６年ぶりに会った記憶喪失の元彼って！

もう！ややこしいから元彼でいっか？

そんな相手に掛けるべき第一声って‥

う～ん‥

分かんないし

今はそれどころじゃないから
とりあえず頭から追い出して

絡み付いてくる彼を押し返すんだけど
上手くいかない

「まきの‥まきの‥」

「ギャー！耳噛むな！変態！」

何度も押し返そうと試みるんだけどびくともしなくて
私が顔をずらしたせいで彼の口が私の耳元に移った

耳元で譫言のように私を繰り返し呼ぶ声

その声に思わず身体から力が抜けそうになったんだけど
耳たぶを噛まれて正気に戻ったから
両手を左右から彼のクルクルに差し入れ
出来る限り反動を付けて頭突きをお見舞いしてやった！

お見舞いした瞬間、ゴ～ンってすんごい音が頭の中に鳴り響いて
ダメージ大なんだけど
彼の方もかなりダメージがあったみたいで
彼の身体から力が抜けた隙に膝の上から飛び退いて
目の前に樹が座っているのに気が付いた

「樹！あんたまでなにやってんの？！」

彼の腕から逃れ素早く樹の横に移動する

彼はまだ額を押さえたまま
体制を立て直せていない


「なにやってんのって‥突然訪ねてこられて‥
なんかこの人の勢いに負けてっていうか‥
俺もよくわかんない‥」

戸惑いがちに途切れ途切れに話す樹

「俺が連れて来たんだよ！」

まだ額を押さえたままだったけれど
ちょっと復活した彼が樹の言葉に被せるように発した言葉


「なんで？ってか‥そもそもなんであんたがここにいるわけ？
１６年ぶりに現れていきなりなんなの？！」

「記憶が戻ったからだよ！」

「それは‥なんとなく予想はつくんだけど‥」

私の事を忘れてしまった彼の私に対する態度は
それはもう清々しい程に雑魚キャラ扱いだったから
今の展開は記憶が戻ったんだろうなぁっていうのは簡単に予想がついたんだけどね

１６年だよ

この１６年間

全く接点なんて無くて

お互いのことなんて全く知らないのに‥

「知ってることもある！
だから迎えに来たんだ！」

ん？

「また声に出てた？」

彼の言葉に思わず隣の樹を見ると
樹は微妙な表情を浮かべていた

「出てた」

別にわざとじゃないのよ
無意識だし！

未だに頭の中が口から駄々漏れで
ため息が出ちゃう

「ため息つくな！
樹は俺の子だろ？！」

「違うよ、樹は私の子供なの！」

「だから俺が父親だろーが！」

「違うよ、この子の父親はあんたじゃない！」

食い気味に否定する私

「嘘つくな！俺がＮＹに行った半年後に生まれてんだろーが！
どう考えだって俺の子以外考えらんねぇーだろーが！」

「う、嘘じゃないもん！
この子の父親はあんたじゃない別の人なのよ！」

「だったらＤＮＡ鑑定させろ」

「い、嫌だ！断る！」

自分でもめちゃくちゃな事言ってるのは分かってるのよ

樹が生まれた時期や似すぎている外見なんかを見ればね
誤魔化しようなんてないように思えるんだけど

でもね

１６年前

彼が私を忘れたように

私は彼を捨てたの

お腹の中に樹がいる事が分かって

この子と一緒に生きて行くって決めた時

私は彼を捨てたの

だからそれは簡単には覆せない

だけど目の前で私を睨んでいる男は
そんな私の決心なんて全く気にしない奴だから
だからなんだ？とばかりに勝手に話を進めていく

「ハァ～もういい！」

「良くない！」

「いいんだよ！お前は一生、そうやって嘘吐いてろ！
とにかく俺は樹の父親でお前の夫で俺達は家族なんだよ！」

「勝手に決めんな！」

「勝手に決めてねぇーよ！
１６年前から俺達はずっと夫婦で家族なんだよ！」

「１６年も会ってないのに家族なわけないでしょ？！」

「単身赴任だったと思え！」

「思うか！バカ！」









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