Garbera 2

東京の街に夜の闇が降り始める午後７時過ぎ

朝から会議を２つと会食を済ませ
オフィスで山積みにされた書類やメールと格闘していた時
短いノックの後、間髪いれず西田が入ってきた

いつもならノックの後、５秒程の間を置いて
ゆっくりと入ってくるはずの西田なのに
いつもとは違う早急な入室に不審を覚え
目を通していた書類から顔を上げると
珍しく慌てたような表情を浮かべた西田が
速足でデスクの前までやってきた

「司様！」

いつも何があっても冷静沈着
無表情でまるで感情の無いロボットのようなこいつが
これほどまでに慌てているのは珍しい

「何事だ？」

「先ほど牧野様のＳＰから牧野様に
パワハラと業務上横領の嫌疑が掛かっているようだと連絡が入りました」


西田の言葉が上手く理解出来なくて
一瞬だけ動きが止まった俺に畳み掛けるような
言葉を繋いでくる西田

「まだ詳しい状況は調査中ですが、
五木商事側は既に警視庁にも被害相談をしていて
早晩にも被害届が提出されるようです」

パワハラに業務上横領に被害届
仰々しい言葉の羅列に怒りのボルテージがぐんぐん上昇していく

「説明しろ！」

自分から発せられた声なのに
自分じゃないような感覚に捕らわれる

「まだ詳しい状況は分かっておりませんが、
まず今朝、出社なされて直ぐに牧野様は
人事部に呼び出されパワハラについて事情を聞かれていたようでございます」

「パワハラに横領だと？！
あいつがか？有り得ねぇーだろーが！」

一言発する事に俺の中で怒りが増幅してゆくのが分かる

「あいつは今どこだ？！」

「現在、五木商事側が逃亡と証拠隠滅を防ぐという名目で
五木商事近くのホテルに移動させられたようでございます」






いつも通りの一日だった

いや

朝から会議が２つに会食

朝イチで行われたＮＹとのオンライン会議では問題が発覚し
今晩、急遽ＮＹへ飛ぶ事が決定してしまっていたから
いつも以上に司様のご機嫌は悪く
わたくし西田も急なスケジュール変更に
関係各所とのスケジュール調整に追われていた

そんな中飛び込んできた不測過ぎる事態

現在、牧野様には通勤時などには男女２組のＳＰが交代で警護にあたっているが
社内では特に身体に危険はないだろうと判断し同じ部署に女性ＳＰを１名配置し
主に牧野様の人間関係についての情報収集にあたらせている

そのＳＰからの緊急の連絡が入ったのが午後６時を過ぎた頃

朝イチで人事部に呼び出されたまま戻らない牧野様を心配し
情報を収集していたが社内に不穏な空気は無く
普段と違った所が無く情報収集に手間取っていた所に
漸く手に入れた情報は耳を疑う物だった

同じ部署の後輩の女性社員から出されたパワハラの訴え

これに関してはＳＰも以前よりこの女性社員を問題視しており
こちらにも多数の報告が上がっていた

所謂コネ入社のお嬢様の腰掛け勤務

非常識だが悪意は感じられない

何より身元調査では司様のご友人の西門様の母上様のご実家の縁者で
五木商事に入社の際に推薦状を出したのも
西門流家元、西門総二郎様の父上様ということもあり
問題は無しと判断していた
それが間違いだったようだ

そしてパワハラの訴えと同時に
降って湧いたように出てきた横領容疑

何か胡散臭い物を感じるが
とにかく現状を把握し司様に報告する為に
オフィスのドアをノックした







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