Bunker 15

お袋さんの返答は素っ気ないものだったが
その言葉の裏側には俺達には計り知れない苦悩が隠されているように感じられた

「不正を働いていないのであれば
その時の記録を全て見せて下さい」

類はまだ食い下がるつもりのようで

正直、俺には類の真意が分からなかった

「そこまでおしゃるのならいいでしょう。
あなた方の気の済むまで調べなさい。
ただしここまで聞いたからには必ず黒幕を突き止めていただきます。覚悟は出来ていますね？」

お袋さんの問いに類は薄く微笑んだだけで
”それじゃあ”といつもの調子でフワリと部屋から出て行ってしまった

残された俺達は慌てて類の後を追って部屋を出た

母屋の長い廊下を類に追い付き並ぶように歩く

類の表情も足取りもいつもと変わりない

以前、姉ちゃんに連れて来られた時と同じルートで
敷地内にある司と牧野が暮らす屋敷へと向かう

母屋と同じような造りだが
こじんまりとしていて生活感があり
以前来た時とは違いこちらではリラックス出来る空気が漂っている

つくしの状態は相変わらずだけど
それでも少しだけ以前のような明るさを取り戻してきていると
語った司の表情は本当にホッとしたようだった

以前と同じようには無理だけれども
それでも二人で力を合わせ前へと進もうとしているのが感じられる

目の前の死んだはずの男はいつの間にか地に足をつけ
しっかりと未来を見据え家族の為に戦える男へと成長していた

お袋さんとの面会を終え四人でリビングに腰を落ち着ける

類だけは窓際に置かれていた一人掛け用のカウチに腰を落ち着けている
窓から差し込む陽の光で逆光になり類の表情は見えないけれど
ゆっくりと話し始めたその声はよく聞こえてきた

「まだ確証はないから俺の推測にしかすぎないけどね」

「すぎないけど何だよ？」

「おばさんが１５年前の事件が関係してると思う」

「なんでそう思うんだよ？お前なんか知ってんのかよ？
もし俺達の知らねぇ事掴んでんなら話せよ！」

「まだ話せる段階じゃないけど
俺の勘は当たってると思うよ」

「なんだよ！結局、勘かよ」

総二郎のその言葉を聞いた類は小さく笑っただけで
”俺、牧野に会ってくる”とさっさと部屋から出て行ってしまった

司が止める間もなく

こんな時だけ行動が素早い奴だ…

司はタイミングを失ったのか
そのまま何も言わなかったが…

奴が類の行動に怒っているのは間違いない

だけど今はそんな事よりも
まず類が投げ付けた爆弾を処理する方が先だ

「類はあんな事言ってたけど…
本当にお袋さんの事件が関係してんのか？」

目の前に居る司と総二郎…

どちらともなしに投げかけた疑問だった

その独り言のような問い掛けに二人共が
どう答えればいいのか考えあぐねているようで
はっきりとした返事は返っては来なかった

当時の記録を読む限り今回の誘拐に繋がるような事柄は出て来ない

１５年前の事件の概要は

お袋さんは就寝中に刃物で襲われ間一髪の所で難を逃れたが
肩から腕にかけて切りつけられていて
出血が酷く妊娠中ということもあり
すぐにヘリでＮＹ市内の病院へと搬送され
そこで緊急の手術を受けていた

今回の事は類がどういう根拠で関係しているという判断に至ったのかは分からないが
調べてみる価値はあると思った








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