暁 4

翌朝、ずぶ濡れのままバスルームに倒れていた所を発見された俺は
高熱を出し三日程生死の境をさ迷っていた

熱が治まり意識を取り戻したのは
あの夜から一週間後

身体に残る怠さは熱によるものだけではなく
自身に対するどうしようもない嫌悪感が大半で

さ迷い続ける意識の裏側で
強烈な輝きを放っているのは
自らが犯した罪の数々

今の俺には赦しを請う権利さえ残っていない

あの時、捨てた子供はもう中学生になっている

牧野と名前さえ知らない我が子

何よりも大切な二人を失いながら
生き続けてきた俺は
これからどうやって生きていけばいいのだろうか…

熱も治まり万全とはいかないまでも
体調が戻った俺を待っていたのは
以前と変わらない生活

記憶が戻る前から何も変わらない日常の中で
一人過ごす時間が少しづつ俺を蝕んでゆく

止めるべきなのは十分すぎる程分かっているのに
薬が止められない

混濁する意識の中だけで会える彼女の笑顔に会いたくて
赤いカプセルに手を伸ばしてしまう

自らが作り上げた地獄をさ迷う毎日が次第に仕事にも影響するようになってきた

周囲はとっくに俺の様子がおかしい事に気がついていたが
俺に意見する奴もいなければ
救いの手を差し延べる奴もいない

ただじっと息を殺し俺が朽ち果てるのを待っているだけ

これが俺の生きてきた世界だ

世界規模にグローバルになどと
言葉にすれば聞こえはいいが
現実は他人に追い落とされるよりも自滅していく奴の方が多い

魑魅魍魎など自らが作り出した妄想の産物でしかなく
神に赦しを請う事も出来ず
犯した罪の重さに耐え切れずに
自身に残された唯一の道の途中で朽ち果ててゆくだけ

今までそんな奴を嫌になるほど見てきたし
蔑み馬鹿にしてきた

ほんの少しの気の緩みが命取りになると
分かっているのに

緩慢とする意識に流され
小さなミスを犯してしまった

大事になる直前になんとかリカバリーは出来たが
蟻の一穴
あのまま気付かずにいたら道明寺は莫大な損害を被っていた


あのまま気付かずにいたら道明寺は莫大な損害を被っていただろう

何よりショックだったのはそのミスにいち早く気付き
フォローしてくれたのが
俺が引導を渡したお袋だったって事だ

ビジネスの第一線から退き
スイスの別荘で隠居生活をしていたはずのお袋は
突然ニューヨークに現れると
ビジネスの世界に復帰してしまった

お袋以上の独裁的な手腕を発揮していた俺に批判的な重役の多くが
お袋の復帰を支持し
ますます孤立してゆく俺に
下されたのは日本への帰国命令だった





後ほどお引っ越し話をUpする予定です。♥

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