万有引力のススメ 29

抱きついてきた父さんを反射的に受け止めたけど‥

照れくさくて棒立ちのままの俺に父さんは涙声で

「樹、生まれてきてくれてありがとうな‥
お前がいてくれて本当に良かった‥」

「う、うん‥」

照れくさいのと嬉しいのと

なんだかよく分からない感情がない交ぜになって
上手く言葉が出て来ない

「ごめんな‥お前が生まれた時
側にいてやれなくて‥本当にごめん‥」

「う、うん‥」

あれ？

なんだこれ？

おかしいな？

目の前が曇って視界が滲む

きっと父さんの涙につられたんだ！

視界が滲んで父さんの顔がよく見えない

「坊っちゃん、良かったですね」

タマさんがそっと背中を撫でてくれて
その手の暖かさで更に視界が滲む

「う、うん‥ありがとう、父さん」

「おぅ！」

「それでどっちだったの？
俺に出来たのは弟？それとも妹？」

「妹だ！」

「そっか、妹か‥きっと可愛いだろうね」

「あぁ、すっげぇ美人だぞ！」

そう言って笑った父さんの顔には
窓の向こうから射し込んできた朝日に照らされキラキラと輝いていた

タマさんが屋敷に連絡をしてくると行ってしまった後
父さんと二人病室で母さんと妹を待つ

暫くして処置を終えた母さんが病室へと帰ってくると
年頃の息子の前で母さんの顔中にキスの雨を降らせている父さん

母さんは疲れているみたいで普段ならそんな父さんに怒るはずなのに
今はされるがまま受け入れている

母さんが戻ってすぐに綺麗にしてもらった赤ちゃんを看護師さんが連れてくれたんだけど‥


父さんが抱っこしたまま離さない

看護師さんから母さんの胸元に引き渡された赤ちゃんを
父さんはすぐに抱き上げると近くにあったソファーに腰を下ろした

かれこれ１時間

ずっと赤ちゃんを抱いたまま離そうとしない父さん

そんな父さんに生まれたと連絡を受けて
病室に駆けつけてきたじいちゃんとばあちゃんも呆れている

じいちゃんとばあちゃんも抱っこしたいみたいなんだけど

父さんが離さないから微妙な空気が病室に漂っていて
母さんは父さんとじいちゃん達の間で困ったような表情を浮かべているから

俺とタマさんはそれを見ながら苦笑い

じいちゃんもばあちゃんも忙しいから病室の外ではそれぞれの秘書さん達が
ジリジリしながら待っている

やっと少しだけ抱かせてもらってすぐ二人ともそのまま仕事へと出掛けて行った

ずっと赤ちゃんを離さない父さんに母さんが声を掛けた

「ねぇ、司？ずっと抱っこしたままだと疲れない？
ちょっとこっちのベッドに寝かせたら？」

「ん？大丈夫だ！
お前こそ疲れただろ？
俺が見てるからちょっと休んどけよ！」

赤ちゃんの顔を眺めながら目尻が下がりっぱなしの父さん

母さんが父さんに声を掛けたのは
廊下ではずっと父さんの秘書の西田さんが待っているからなのに
それらを全て無視して父さんは赤ちゃんに夢中

休んでろと言われた母さんが困ったような表情を浮かべ
こちらに助けを求めてきた

「父さん、西田さんが待ってるよ」

「待たせとけ！」

もう既に十分待たせてると思うんだけど‥

そう思って廊下に待機したままの西田さんを病室に招き入れた









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