万有引力のススメ 31

今度は父さんが一緒に滑り台を滑っている光景を
座ったままぼんやりと眺めていた


父さんが現れてから立て続けに生まれた妹達

今までずっと二人暮らしだったのにそれがたった数年で今や六人家族

俺の環境も劇的に変わって
それまでは旅行どころか都内から出るのだって滅多になかったのに
気が向いたら一人でフラッと

って‥

気が向かなくても地球規模で行きたい所に行けるようになった


俺のお気に入りは従兄弟達がいるＬＡ

大都市なのに空が抜けるように高く
東京やＮＹみたいにごちゃごちゃしてなくて
肩の力が抜けた感じが気に入っている

従兄弟達が通っているＬＡの大学に進学希望だった俺

それなのになんで英徳に？って思うだろ？

俺も思ってる！

理由は父さんだ！

父さんは優しい

優しいけれど横暴だ！

来未と滑り台で遊んでいる父さんは時々
暴君に変身して母さんと俺を呆れさせる


高等部の三年生になって
進学については以前から父さんにも母さんにも
従兄弟達と同じ大学に行きたいと
折に触れて伝えていた

実際、あっちに行った時にはキャンパスの見学に行ったりもしていたし
行った事は父さんにも母さんにも伝えていた

その時は特に反対なんかはされてなかったから
俺としては卒業後はあっちに行くのがほぼ規定路線化していたのに！

最後の最後になって父さんが強権を発動してきた

突然、俺がＬＡに行くなら家族全員で行くといい始めた父さん


ハァ？

だろ？


家族全員でって‥

現実問題としてそんなことムリだ

現在、父さんは道明寺ＨＤの日本支社の代表取締役

それなのに俺の留学に合わせて自分も一緒に行く

それも家族全員で

と言い出した

実際、あっちで住む家‥

家ってレベルじゃなくて

大豪邸を探し始め母さんを呆れさせていた

父さんはどうして俺と一緒に行くなんて言い出したのかって？


それは‥


俺と離れたくないから

らしい‥

超～真顔でそう言った父さん

それを横で聞いてて吹き出した母さん

家族は一緒に居なきゃいけないんだと力説する父さん

男の子なんだし
もう大学生なんだしと俺の味方をしてくれた母さん

だからかなのか

父さん拗ねて部屋に立て込もってしまって
仕事も行かず部屋の前で渋い顔する西田さんもガン無視で
三日間部屋から一歩も出ずにハンガーストライキ


一日目は母さんも呆れていて
"ほっときなさい！その内寂しくなって出てくるわよ！"なんて強気だったし
西田さんにしても一日ぐらいならなんとかスケジュールを
調整すれば大丈夫ですからなんて言っていたけれど
予想に反して二日目になっても立て籠ったままで
三日目の朝になっても変化なしで
流石にこれ以上はムリって状況になって
呼ばれたのが例の三人組

俺があの人達に初めて会ったのは
この屋敷に来て父さんの誕生日を過ごす為に滞在していたハワイでだった


ハワイの別荘に朝一で三人揃って押し掛けて来た


当時、あきらおじさんはイギリスにいて
類おじさんはフランスにいて
総二郎おじさんは日本でそれぞれ忙しく
昔ほど頻繁に顔を合わせる機会も減っていたらしい

その時、初めて知ったんだけど
父さんを含めた四人組はＦ４と呼ばれていて
その家柄や財力にルックスから世の中の女性達の憧れの的だったとか‥

確かに財力やらルックスやら
他の追随を許さない物はあるけれど
俺からすれば我が儘で自分勝手な単なるおっさん四人組にしか見えないんだけど

その三人が父さんに変な噂があるとハワイに押し掛けて来た

変な噂って言うのはどうやら母さんと俺の事だったらしくて

氷の貴公子と呼ばれプライベートは全くの謎
女の噂はあるけれど特定の交際相手はおらず
唯一、恋人じゃないかと噂されていたのは
何度かパーティーに同伴している女優さんだけだったけれど
その相手とも実際デートしている所を目撃された事もなく
一緒にいるところを見かけるのはパーティーだけだったから
あくまでも噂の域を出ていなかったのに
最近、その道明寺司が女性と男の子を
出張先に同行させていて実際に会った人が
本人から妻と長男だと紹介されたと世界中の社交界で噂になっているからと
その真偽を確かめる為にわざわざ三人でハワイまで押し掛けて来た

三人組は父さんの記憶が戻っていた事も
母さんが俺を産んでいた事も全く知らされていなくて
噂の真偽を確かめる為にハワイまで来たら
母さんと俺がいてただただ驚いていたけれどすぐに納得

自分の誕生日を家族水いらずで過ごす為にわざわざハワイを訪れていたから
突然現れた三人組に朝から父さんの機嫌は急降下

なんとか追い返そうと怒鳴り散らしていたけれど
母さんは久々の再会を喜んでいた

特に類おじさんとの再会は嬉しかったみたいで

あの王子様のようなルックスで笑みを浮かべ優しく母さんを抱きしめる類おじさん

そんな類おじさんに抱きしめられ真っ赤になりながらも
涙を浮かべて喜んでいた母さん

そしてそんな母さんを類おじさんから引き剥がし
母さんを抱きしめながら類おじさんに蹴りを入れていた父さん

追い返そうと怒る父さんを無視したままで
朝から宴会を始めてしまった三人組

で、大騒ぎの父さんの誕生日パーティーが始まった


それぞれが忙しい人達なのに‥

昔話を肴になんだかんだ言いながらも楽しそうだった父さん達

そんな三人組も去年、あきらおじさんと類おじさんが立て続けに日本へと帰ってきて
最近では事あるごとに屋敷に集まっている

母さんはそんな三人組を立て籠り中の父さんを
部屋から引っ張り出す助っ人として呼び出した

朝っぱら父さんが立て籠っている部屋の前で
いい歳した大人がこっ恥ずかしい小芝居？コント？を繰り広げている

まずドアの前であきらおじさんが中の父さんに呼び掛けている

"オィ！司！いい加減出て来い！"

中から返事はない

でもそれは想定内

あきらおじさんも呼び掛けたぐらいで
出てくるなんて思っていない

続いて母さん

"司！いい加減に出て来てよ！
来未達も寂しがってるわよ！"

ガタン

この母さんの呼び掛けには中から少しだけ反応があったけど
結局、ドアは開かないまま


続いて総二郎おじさん


"オイ！司～！
類がこんな分からず屋なんて捨てて
俺と一緒に行こうよとかって牧野を口説いてんぞ～！"



ガタン！

バタン！


おっ！出てくる？

‥‥‥‥‥


こない‥


ダメ押しと留めは母さんと類おじさん


"牧野？司なんてほっといて俺のお嫁さんになってよ。
子供達も全員俺が面倒見るからさ"

"え～類‥そんなのダメだよ‥"

すっげぇ棒読みの母さんに笑ってしまう

"いいじゃん！出てこない司なんてほっといて
一緒にパリに行こ"

父さんは絶対ドアに耳をつけて
この会話を聞いているはず

"う～ん‥そうだね‥これだけ言っても出てきてくれないんだし‥
類の方が幸せになれるかも"


だから

その棒読み

なんとかならない？

ドアの前でみんな笑いたいけど声出せないから
いい歳したおっさんが三人で悶絶してんだけど‥


"類、私を幸せにしてくれる？"


"もちろん！"


母さんはともかく類おじさんがどこまで冗談なのか分からないからちょっと怖い

いや

きっと

類おじさんは本気で

もし母さんが本気で


って


あり得ないけど

もしも本気でそう望めばきっとあっという間に
母さんや俺達をパリに拐って行ってしまうだろう

ってのが分かるから怖い

"司～！いいのか～？あんな事言ってんぞ～！
おっ！る、類！それはヤバいって！"


"司～！牧野が類に食われそうだぞ～！"


腹を抱え悶絶しながらもガヤを止めないあきらおじさんと総二郎おじさん


その後ろでため息の俺


そして

案の定

というか

分かりやすく

部屋のドアが開き

父さんが飛び出してきて

母さんに突進して行って

余りの勢いに逃げ切れなかった母さんがあっさりと捕獲されて
悲鳴と共に連れ去られてしまった‥


朝っぱらから‥


"後は牧野に任せとけば大丈夫だろ？
さてと樹！朝飯食いに行くぞ！"


と総二郎おじさん


その後、俺は三人組に説得？脅迫？されて英徳への進学を決め
母さんは昼過ぎまで部屋から出て来なくて

出て来た時は母さんの機嫌は最悪で
逆に父さんは上機嫌だった


結局、父さんの思い通り

やっぱ父さんには敵わないと思ったけど
俺だってまだあきらめないわけじゃない

海外の大学で勉強してみたいって気持ちは大きい


だから父さんじゃなくてＮＹのばあちゃんに相談した結果
秋から年末までだけどＮＹの大学に短期留学する事が決まっている

そして父さんは当たり前のようにその期間
ＮＹ出張を入れていて母さんと妹達も同行する事になっている


って！


やっぱり父さんの思い通りじゃん！










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