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月夜に 81

おはようございます。🎵
お引っ越しです。🎶
それではどうぞ~✴
















あきらが出て行った後すぐに道明寺さんがICUに入ってきた

あきらが言っていた私だけに向けられる彼の笑顔
優しく微笑みながらも少し緊張した表情で彼はベッドサイドの椅子に腰を下ろした

「大丈夫か?」

「うん、大丈夫、心配かけてごめんなさい。
 お仕事は大丈夫?」

「ああ、仕事の心配はしなくていいから。
 俺にとってはお前と雛以上に大切な物なんてないんだから大丈夫だ
 とは言っても一度オフィスへ顔出さなきゃいけねぇーけどな」

「ごめんなさい、忙しいのに・・」

「気にすんな、何か欲しいものあるか?
 あったら遠慮しないで言えよ」

「うん、ありがとう・・」

「何回も同じこと言うな」

櫻が急に話すのを止め俺の顔をじっと見ている・・・

「どうしたんだ?どっか痛いのか?」

「・・えっ・・?!・・あっ・・違うの・・大丈夫、痛くない・・」

「じゃあ、どうしたんだ?急に黙り込んで」

「・・うん・・あのね・・一つ・・聞きたいことがあるんだけど・・?」

「何だ?」

「・・あなたが付けてる香水なんだけど・・」

「コロンがどうかしたか?」

「その香水っていつから使ってるの?」

「これは高等部の頃から同じのを付けてるけど・・
 もしかしてお前、何か思い出したのか?」

身を乗り出し私の腕を掴んでいる彼に軽く首を横に振った

落胆している彼には申し訳ないと思うけど
まだはっきりと記憶が戻っていると自覚が無い今、思い出し始めていることを
正直に伝える事が出来なかった

全てを思い出せる保証は何もない
ここで止まってしまうかもしれないのに

きっと彼は記憶が戻り始めていると知ったら喜んでくれるだろう

だけど・・

まだ彼の事を・・

彼の事だけじゃないあきらの事だって何一つ思い出せていなのに
期待を持たせるような事はしちゃいけないと思った

それに気がかりな事がある
記憶を失くす前の私は何を考えていたのだろう?

何か心に決めた大切なことがあったような気がしている

もし、このまま牧野つくしとしての記憶を全て思い出した時、私は一体どうするのだろう?

決して彼の事が嫌いと言うわけじゃない
ただどうしても感じる彼との温度差

そんな私の気持ちを見透かしたように伝えられる言葉に感じる戸惑い

彼は急がないからと・・
いつまでも待ってるからと言ってくれる

記憶を無くしてからのこの6年間ずっと考え続けてきた
自分の事、雛の事、そして顔も名前も分からない彼の事
いつまでもこのままじゃいけないのは分かっている・・

だけど・・

「期待持たせるような事聞いてごめんなさい。
 違うの・・ただね・・あなたに抱き締められた時にしたコロンの香りが
 ずっと気になってたの・・何だか知ってる香りのような気がして・・・」

「いつ何処で嗅いだ香りなのかは思い出せないの・・・
でも高等部の頃からならあなたなのかもしれないわね」

そう言い終えるとふいに彼に抱き締められた・・

というかベッドに寝ている私の上に彼が覆いかぶさってきた

驚いて一瞬息をするのを忘れてしまう

耳元で聞こえてきた彼の少し掠れたような声

『どうだ?何か感じるか?』

言い終えるとすぐに彼は私からゆっくりと体をはずした

「そんな顔するな。
分かってるから。」

”何が?”と聞き返そうとした私の言葉を遮るように彼が言葉を繋いでいく

「分かってるから、今のお前が俺を愛してないって事。
こんな事認めたくねぇけどそれぐらい分かるよ。だからずっと考えてた」

「何を考えてたの?」

今度は言葉にする事が出来た

「どうすればお前と一緒に居られるかってずっと考えてた。
何度も雛を口実に無理矢理にでもお前をN.Yに連れて帰ろうと思った。
雛は俺の娘なんだから本当の父親と一緒にいるのが一番だって言えばお前は俺の所に来てくれると思った。
だけど、それじゃぁダメなんだ。
俺はもう一度お前にちゃんと愛されたいんだ。俺はお前と雛の三人で幸せになりたいんだ
何年だって何十年だって待ってる。俺はもうあの頃には戻りたくない。
お前を見失ってNYで寂しくてもう二度とお前に会えないんじゃないかって怖くてどうしようもなかった。
もうあんな思いはしたくないから・・大丈夫だ、俺はお前に関しては気長いからな」

「・・ありがとう・・」

彼は私の心の中などとっくにお見通しだったんだ

彼は自分が愛されていない事を分かっていながら毎回、電話を切るとき私に愛していると伝えてくれていた


それなのに私は
今ほど思い出したいと思ったことはない

一分でも一秒でも早く全てを思い出してしまいたい

「大丈夫か?」

何処までも優しい彼の声に思わず涙が零れそうになる

「うん、大丈夫」

「少し休め」

「ありがとう」

私は再び目を閉じ浅い眠りにつく
夢はすぐにやってきた・・・

今度の夢は・・・

何処だろう?
私は軽い足取りで階段を駆け上がっている
階段を登りきってしまう少し手前で歩調を緩め顔を上げると・・そこには・・花沢さん・・?

非常階段の踊り場に腰を下ろし壁に凭れて居眠りをしている彼を見つけて私の顔に笑顔が浮かんでいる

そっと彼に近づき顔を覗き込む・・・

伏せられた瞼に通った鼻筋・・間近で見ると本当に綺麗な顔してる

髪は陽の光に反射して金色に輝いてるし、何より小さな顔・・うらやましい
そう思ってじーっと彼の顔を覗きこんでいたら急に彼が目を開けた
至近距離で彼と目があい照れて真っ赤になるのが分かった

慌てて彼から離れようとしてバランスを崩した私は後ろへ大きく尻餅をついてしまった
そんな私を見て彼はお腹を抱えて大笑いしている

『プックックッククク・・あんた、おもしろすぎ』

彼の言葉に真っ赤になったままの私が言い返し

『もう!花沢 類!笑いすぎ!』

”花沢 類”・・?私・・彼の事フルネームで呼んでたの?

怒りながらも彼の横に腰を下ろした私・・特に何か会話をしているわけじゃない

二人の間にあるのは沈黙だけ

だけど嫌な感じがしない

むしろその沈黙を心地よく感じている私がいる

特に言葉を必要としない関係

言葉を交わさなくても彼は私の事を分かってくれている

彼といると安心できる

穏やかな沈黙が支配する非常階段で再び目を閉じ転寝を始めた
花沢類の横で彼に凭れかかる様にして私も眠りについた








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kirakira
Posted bykirakira

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