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月夜に 87

おはようございます。🎵
お引っ越し話です。🎶
それではどうぞ~✴





















あんまり長居すると疲れるからとみんなが帰ってしまった後
ぼんやりと窓辺に置かれているバラを眺めていた

目を閉じるとフラッシュバックのように脳裏に浮かんでくる映像と同時に
流れ込んでくるさまざまな感情に心がついていけない

どうして彼だけ出てこないのだろう?

どうして彼だけ思い出せないのだろう?

私は思い出したくないのだろうか?

ぼんやりと窓の外に目をやり流れる雲を眺めていた

いつの間にか眠ってしまっていたらしい
夕食を運んできてくれた看護婦さんに起こされてやっと目が覚めた
何か食べなきゃいけないのは分かってるけど食欲はないし
夕食だと言って出された物は検査の結果
胃の調子が良くないので固形物は一切無しのスープのようなお粥のみ

目の前のトレーを眺めるけどいっこうに食欲なんて湧いてこない
だけど薬を飲むために無理やり半分ほど流し込んだ







仕事を終え屋敷に帰る前にもう一度、櫻の病室へと立ち寄った

ベッドへ近づくと彼女は安らかな寝息を立てて眠っていた

ベッドサイドの椅子に腰を下ろし、布団から出ている手にそっと触れてみる

柔らかく暖かなその指先はもう何年も
夢の中でしか触れることの出来なかったもの

何度も恥ずかしがるお前の手を無理やり繋いで歩いたのに

何度もこの腕で抱きしめたのに

記憶と共に失ってしまったぬくもり

記憶が戻った後も温もりだけは戻ることがなく

夢の中では確かに感じる温もりも朝、目覚めと同時にやってくる孤独も
全てが俺にとっては牧野つくし一人だった

次第に夢の中で感じる温もりだけでは目覚めている間の
孤独感を埋められなくなっていた

徐々に厚くなっていく心に張った氷はもう夢の中の
お前だけじゃ溶かす事が出来なくて
心に渦巻く全ての感情がお前だけに向けられていて

俺の全てを支配しているのは牧野つくしだけで
時間が経つほどに夜が怖くなって夢を見るのが怖くなって
苛立ちのだけが俺の中で生まれてくる唯一の感情になってしまった

どんなに探してもお前が見つからなくて
初めっから牧野つくしなんて存在しなかったみたいで
苛立ちと怒りが抑えきれなくて

昼間はまだマシだった

大学に通う事や仕事をする事でなんとか気を紛らわせてきたけど
夜、あの広い屋敷で一人になるとどうしようもなくて

目の前にある物かたっぱしからぶっ壊して
近寄ってくる奴を手当たりしだい殴りつけて
それでも治まらなくて

自分まで傷つけて
暴れるだけ暴れまくって

最後は気を失ったように眠りに付く

そんな日々の繰り返しだった

もう、あんな毎日に戻りたくない

やっと見つけたぬくもりに生きている事を実感できたんだ

だから頼む・・

俺の事も思い出してくれ・・

俺を消したままにしないでくれ・・

眠ったままのお前の手を握り締め、甲に口づけを落とす

閉じられたままの瞼が時折、痙攣するように動いている

今度はどんな夢を見てるんだ?

そこに俺はいるのか?












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kirakira
Posted bykirakira

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