二度目の恋の話をしよう 50
本日は『二度目の恋の話をしよう』です。
それではどうぞ~✴
愛に連れて来られたのは5番街でもなく
世界的に有名なハイブランドを扱うショップでもなく
チャイナタウン近くにある大型の手芸店だった
もちろん手芸店なんて今までの俺の人生では無縁の物で
立ち寄るのが初めてなら取り扱っている物も初めて目にする物ばかり
平日の昼間だが店内はかなりの買い物客がいて
そのほとんどが女で年齢層も高め
そんな場所にリムジンで乗りつけた俺と愛
予想外の場所に連れて来られて俺もだがそれ以上にSPの方が戸惑っている
入るのを戸惑っている俺を気にする様子もなく
愛は俺の腕を掴んだままズンズンと店内を進んで行き
沢山の布が置かれている一角で立ち止まった
「愛、ここなんだ?」
「手芸屋さんだけど」
「それは分かってる。
けどこんなとこにつくしの喜ぶもんがあんのか?」
「パパは知らないだろうけどあるわよ。
え〜っと・・これと・・これと・・あっ!こっちも!
それからあれも!」
俺の問いかけに答えながらも愛の視線は壁に沿うように並べられている沢山の布の方に向いていて
次々と布をSPへと渡してゆく
たった10分ほどで十数類の布を選んだ愛は
それを店員に希望の長さにカットするように伝えている
「愛?これがつくしが喜ぶもんなのか?」
「そうだよ。パパは知らないだろうけど
ママは最近、パッチワークキルトを習い始めたのよ」
いちいちパパはと付け加える愛に若干の悪意を感じるが
今はグッと堪える
「パッチワークキルト?
そんな趣味あったのか?」
「そうよ。
ハァ〜まったく!パパはママのことな〜んにも知らないんだから!」
呆れ顔でため息つきながら話す愛に睨まれて
思わず素直に“ごめん”と謝罪の言葉が口をついて出た
「謝るなら私にじゃなくてママに謝ってよね」
「あぁ・・悪ぃ・・
でも習い始めたのは最近なんだろ?」
つくしにそんな趣味があったなんて全く知らなかった
今までだって子供が小さい時は
取れたボタンを縫いつけたりはしていたが
何かを本格的に作っているところなんて見たことは無かったし
わざわざ習いに行くなんてなかったし
つくしがそれを俺には黙っていたことがショックだった・・
まさか!?
男か?!
う、浮気してんのか?!
俺に内緒にする理由はそれしか考えられねぇ!
バシッ!!
「痛ぇ!」
つくしが俺に内緒にしていた理由が男か?って考えにたどり着き
カッと頭に血が上りかけた瞬間
俺の背中を容赦ない力で叩いた愛
「ったく!ママが浮気なんてするわけないでしょ?!
パパじゃないんだから!
自分がそうだからそんな考えしか浮かばないんでしょ!?
いい加減にしてよね!」
「だ、だったらどうして俺になんにも言わねぇーんだよ?!」
「いちいち言う必要がないからよ」
「男だからだろ?!」
「ハァ〜だからパパはダメだって言われるのよ!
もしママに他に好きな人がいたらママの性格じゃ隠し通すなんて出来ないし
とっくにパパなんかとは離婚してその人のところに行ってるわよ!
そう思わない?」
なんかって言うなよな・・・
凹むだろ!
「俺は絶対に別れねぇーからな!
もしそんな奴がいたら相手の野郎ぶっ殺してやる!」
「ハイハイ!分かってるから!
いい加減、バカな考えは捨ててよね!」
「じゃあなんでそんなもんわざわざ習いに行ってんだよ?!」
「それはね去年、日本に赴任してきたアメリカの駐日大使の奥様が
全米パッチワークキルト協会の名誉会長で有名なパッチワークキルト作家さんで
その奥様が各国の駐日大使夫人やママみたいな立場の人達を集めてパッチワークキルト教室を始めたからよ。
要は財閥の総裁の本妻としてのお付き合いなの!
まぁ、ママも最初はお付き合いだったけど今じゃパッチワークキルトの奥深さに結構ハマってるっぽいけどね。
だからパパをここに連れて来たんじゃない!分かってくれた?」
「お前・・本妻とか言うなって言ってんだろ!
確かに以前の俺は最低な奴だったけど記憶が戻ってからはつくし一筋なんだぞ!」
「そもそもがそこなのよ、パパ。
そこが一番ムカつくとこなのよね!
記憶が戻ったからってこっちからすれば何ソレ?って感じだし
記憶が無くてもママを選んだんでしょ?だから優や私がいるわけだし
それなのに今までの浮気の理由が記憶が〜なんてざけんな!一昨日来やがれ!って感じだし!
パパ!お会計して!」
「ん?あ・・あぁ・・・」
日本語とはいえ誰が聞いているか分からない手芸屋のレジ前で一気にまくし立てられて
軽く思考停止のまま無意識にカードを差し出し
店員には引きつった笑顔で愛が選んだ大量の布が入った紙袋を手渡され
さっさと店から出て行ってしまった愛を追いかけてリムジンに乗り込んだ
俺が乗り込むと既に愛が次の行き先を指示していたようでリムジンはすぐに発車した
車内でも愛の俺への口撃は容赦無く続く
まぁ、元々、愛は姉ちゃんと同じでつくしが大好きで
どこまでもつくしの味方だから
浮気を繰り返す俺に対しては最低な男ぐらいにしか思っていなかっただろうけど
一応、娘に対する愛情だけは人一倍示してきたつもりだったからこの口撃は堪える
「なぁ、お前がパパに対して怒ってるのは分かったから
そろそろ止めてくれねぇか?」
「なに言ってんのよ?!
まだ言いたいことの百分の一も言ってないんだけど!?
・・でも、まぁ、今日はこれぐらいにしといてあげる!
あっ!着いたからパパも降りて!」
そう言った愛に続いてリムジンを降りた先は
NYのセレブ御用達の有名なセレクトショップ
愛は立ち止まることなくそのセレクトショップへと入って行くと
ゆっくりと商品と見ることもなく
俺達の来店に慌てて挨拶に出て来た支配人の挨拶を軽〜くスルーし
“ここからここまでサイズは全て7号で”
“それからこっちのバッグと靴も全色お願いね”
“あっ!それから!そっちのラックも端から端まで全部ね!
物は全てLAに送ってお会計はパパでお願いね”
店に入って約5分
一気にまくし立て買い物した総額は軽く100万$を超えているが
気にする事なく颯爽と店を出て行く愛の後ろ姿は姉ちゃんそっくりだった

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