正しい猛獣のしつけかた 3

退院直前、病室に現れたのは道明寺のお母さん

どうやら初対面じゃないみたいなんだけど
記憶の無いあたしにとっては初対面も同然で
何を言われるのかドキドキしていたあたしに
道明寺のお母さんはお屋敷の使用人頭のタマさんというお婆さんを伴って現れ
退院後暫くはお屋敷に住みながら
体力を回復させることと学校や家族の生活は心配する必要が無いことと
今回の慰謝料代わりに高等部の一年分と英徳大学の四年分の授業料は支払い済みだと伝えられた

唖然とするあたし

自慢じゃないけど家の両親の生活力の無さはギネス級だ

仲の良さだけが取り柄で四人力を合わせてやっと一人前

そんな家族の生活は心配ないと言われても・・・

それに大学の授業料の事まで・・・

あたしは大学に進学するつもりはなかった

家の経済状況を考えれば進学なんてとてもムリで
あたしは一秒でも早く社会に出て
働いてなんとか進だけは大学を卒業させてあげたいそう考えていた

あの学園で就職を希望する生徒なんてほとんどいないだろうけど
なんとか頑張って後一年通い続け就職してって思っていたのに

家族の生活に大学の授業料にお屋敷での静養にと
幾ら道明寺家の問題に巻き込まれたとはいえ
ここまでしてもらう必要はない
慰謝料としてなら高等部の一年分だけで十分

そう思ったからそう言ったんだけどね・・・

“貴方のご両親には既に了承を得ています。
授業料に関しても払い込みは既に完了していて返金も不可能です。
貴方が通わないのであれば授業料がムダになるだけです”

なんて道明寺のお母さんに言われて万事休す

ムダになるだけですなんて・・

英徳の授業料って他の私立大学に比べてかなり高額

その全てがムダになるなんて言われたら
了承するしかなくて・・・

結局あたしは退院後は道明寺のお屋敷に住みながら
高等部の残り一年を過ごすこととなった

道明寺のお屋敷

初めてなんだけど初めてじゃないみたい・・

は、とにかく凄かった

まるで宮殿のようにきらびやかで
バスルームだけであたしが住んでいたアパートより広いの・・・

タマ先輩（タマさんにそう呼べと言われた・・）
によるとあたしは以前ここで坊っちゃん専属のメイドを住み込みでしていたらしくて
どういった経緯でそんなことになったのか分からないんだけど
その時の部屋を見せてもらった
でもねピンとこなくて戸惑いだけがあたしの中に広がる

他のメイドさん達は皆さんあたしのことを知っていて
中には“牧野様がお怪我なされたと聞いた時は本当に心配しましたが
ご無事でなによりです”
なんて涙ながらに話されたり
料理長さんに庭師さんにＳＰさんまで
皆さんあたしの無事を喜んでくれて
そこにはあたしの知らないあたしが居て

益々、混乱する・・・

混乱はするんだけど混乱してばかりもいられない
まずは目の前のこの男をなんとかしないと！

お屋敷に移って１ヶ月
リハビリも終えてすっかり体調も戻り
日常生活に問題は無い

自分の事は自分で出来る！

なのに過保護を通り越した男が
あたしの自由を奪う

束縛とかそんなレベルじゃなくて
文字通り雁字搦め

お屋敷の中でも学園でもず〜っと一緒

まずね部屋

病院でもそうだったんだけど
部屋にはトイレもバスも付いていて
あたしには広すぎる豪華なお部屋

そして道明寺の部屋の隣

落ち着かないから以前住み込みで働いていた時の部屋に移りたいってタマ先輩にお願いしたんだけど
“今のあんたは使用人じゃないからダメだ”であっさり却下され

それならせめて道明寺の部屋から離れた部屋にしてくれとお願いしても
“諦めな、あんたが移動したって坊っちゃんはどこまでだって付いてくるよ”
で終了

確かに

どこまでだってついてきそうで
このお屋敷にいる限り逃げ場は無い

でもね

どこまでもついてくるの！

本当にどこまでも！

トイレにまでついてこようとするの！

有り得ないでしょ？！

日常生活に問題はないとかってレベルじゃないでしょ？！

トイレにお風呂に着替えにと
全てついてこようとして
その度にタマ先輩に助けてもうはめに

学園内でもね
高等部のあたしと大学部に進学した彼らでは校舎が違うはずなのに
何故か四人ともずっと高等部のカフェにいるの

カフェのＦ４ラウンジなんてふざけたネーミングの特等席に陣取り
介助するという名目の元あたしの自由を束縛する道明寺とあたしの攻防を
ニヤニヤしながら眺めている三人組

この三人組が味方じゃないってことは
早い段階で分かっていたけれど
ニヤニヤしながら時々、道明寺に変な入れ知恵をする美作さんと西門さんといつも寝てる類

類だけどうして呼び捨てかって？

そこ気になる？

やっぱ気になるよね？

それにはね深〜い理由があるの









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