正しい猛獣のしつけかた 7

あの事件から一年

あの直後は本当に大変だった

出血量が多く司の血を輸血してもらい
なんとか命を取り留めた牧野

そしてその直後のウソみたいな記憶喪失


当初は司のことだけじゃなく
自分の置かれている状況が分からなくて
混乱している牧野に根気強く自らの存在を認識させるところから始めた司は
この一年本当によく頑張ったと思う

まぁ、トイレにまで付いて行こうとする司にはドン引きしたけれど
いささか強引に屋敷に連れ帰ってからは
リハビリに付き合い遅れていた勉強にも付き合い
献身的に牧野の世話をしていた

あの何もかもメイド任せでまともに学校に来たことのなかった司が
牧野の車椅子を押し毎日学校に通い萎縮しまくりの教師を尻目に
毎日、牧野の隣の席を陣取り教室内で睨みを利かせていた

有り得ねぇだろ？！

あの司だぞ！？

確かに牧野に惚れてからの司は
俺達でさえこれが本当にあの司か？と思うことがあったけれど
この一年は本当によく頑張ったと思うから
援護射撃のつもりでグルグル牧野の背中を少しだけ押してやった

牧野にしてもこの一年は怒涛の展開だったと思う

目が醒めたら大怪我をしていて
クルクル頭の我がままお坊ちゃまと相思相愛だと言われ
当初は絶望的な表情を浮かべていたけれど
それも少しずつ消えて次に浮かんでいたのは戸惑いの表情ばかりだったが
心配する俺達を尻目に司は今まで通りの態度を貫き
退院して学園に復帰した頃には
本人が自覚していたかは微妙だけれど表情は以前のソレに戻っていた

司の一挙手一投足に怒ったり呆れたり笑ったり怒ったり呆れたり怒ったりと・・・
８割がたは怒ってたけれど
クルクルと変わる表情は以前の牧野だった

俺が思うに・・

俺だけじゃなくて総二郎も類も桜子も滋も優紀ちゃんもだけれど

牧野は司に惚れている

ただ色々と抱え込み過ぎているグルグル鈍感牧野は
まだその事に気がついていない

だけど確実に気にはなっていて
自分の中に湧き上がる感情の正体が分からず
また悪い癖の逃亡癖が顔を出し始めていた

その事にいち早く気付いた司が先手を打って
逃亡は防いだがまだグルグルのまま

カフェで二人っきりになれたタイミングで
ちょっとだけ背中を押してやった






ウゼェ！

入れ代わり立ち代わりオフィスに入ってくる女の秘書達

珈琲だの書類だのと入れ代わり立ち代わり
ウザ過ぎて纏めてバズーカでぶっ飛ばしたくなるから
出社するようになって３日で俺のオフィスは
西田以外立ち入り禁止にした


本当なら仕事なんてブッちぎって
牧野の側にいたい

だけどそれじゃダメなんだって気がついたから
大人しく西田のスケジュールに従ってやっているが
やっぱり一秒でも早く牧野の元に帰りたい


この一年で見違える程に可愛くなった牧野

本人は自覚してねぇけどこの一年
家族や金の心配が無くなり以前のように
あくせく働かなくてよくなり
気持ち的に余裕が出た事が一番の要因だろうけど
俺としては心配のタネが増えただけ

この一年、一番身近で牧野を見てきた俺は
あいつのちょっとした感情の動きを敏感に感じとれるようになった

類とはソウルメイトだとほざいてやがるが
俺だって類なんかには負けてねぇ！

そんな俺に対してあいつの態度は相変わらず

俺のすること成すこと全て否定してきやがるが
それでも最近はその態度に・・
話す言葉に微妙な変化を感じている

だからこそ少しでも近くにいたいと思っているのに
最近では思うように時間が取れずイライラが募る


今日もあいつは大学で俺は仕事

分かっている

いくら御曹司といえどもこの先の未来が約束された物じゃないってことを・・

この先の事を考えたら今からしっかりと足場を固める必要がある

分かってはいるけれど

最近、特に可愛くなった牧野を大学で一人にするのは心配で
仕事が手につかねぇーんだよ！










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