月夜に 134

何度も同じ場所を捜すけれど
どこにも彼女の姿が見えず

私は自分がパジャマにガウンを羽織っただけの姿だという事も忘れ
携帯を手に部屋を飛び出していた

エレベーターでロビーに降りると
フロントでチェックアウトをしようと並んでいた人の列を押しのけ
フロントマンに部屋から子供が居なくなったと伝えた

パニックになりながら捜してくれと詰め寄る私に驚き
上手く事態が飲み込めていない様子で
しどろもどろの対応をするフロントマンの横から
責任者らしき年配の男性が助け舟を出してきた

彼は自分がこのホテルの責任者だと告げ
私に落ち着いて事情を話すようにと言った

彼に部屋から子供がいなくなったと告げると
こちらへどうぞと事務所らしき別室に案内され

まずは落ち着いて状況を把握しましょうと

ゆっくりとした動作で私をソファに座らせた
パニックになっている私は彼の落ち着き払ったような態度に苛々が募り
つい大声になってしまうけれど

彼は私の大声にも動じる事なく
内線電話を手に取り警備主任だという男性を呼び出した

まず雛の歳恰好を聞かれ
いない事に気付いた時の状況を聞かれたので
正直に目を覚ますと彼女の姿が部屋から消えていた事を告げた

警備主任さんがまだ一度ホテル内のどこかにいるかもしれないので

従業員にホテル内を探させ
自分はホテル内に取り付けてある防犯カメラでチェックしてみると部屋から出た後

彼は念の為に警察にも連絡をして協力を仰ぎましょうとデスクの上の電話を手にした

電話をしながらも時折私を落ち着かせるように
職業柄警察にも知り合いが多いのですぐに捜し出してくれますよと
優しい口調で話してくれている

彼女がいない事に気付いてまだ時間はそれほど経っていないはずなのに
今は一分一秒がとてつもなく長く感じられる

警察への連絡を終えた彼は私の隣に腰を下ろすと
誰か知らせておきたい人はいないかと尋ねてきた

その時になってやっと自分が携帯を握り締めたままだった事に気付いた

知らせておきたい人と言われ瞬間的に浮かんだのは道明寺の顔だった…

「います…
その人に会う為にパリから来たんです…」

「そうですか、ではまずその方にお電話されてみてはいかがですか？」

そう促され震える指先で道明寺の番号を探す










応援ありがとうございます。